第十二話 蓮ノ谷光彦、青海航也に寂しいと告げる。(後編)
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前回(第十一話)のあらすじ
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蓮ノ谷光彦です。
ランチの時に、軽く青海君と恋バナめいた会話をした。
でも僕は、なぜかあまり彼のそういうアレコレについて、深く聞きたくない気持ちだった。
彼の時計と部長の関係も何だか気になるし。
それはそうと、今回の動画講座で音声設定をした際に、録音した自分の声を聞いたんだけど。
僕の声、『ごはんつぶ』さんに似てるような……。
まぁ、気のせいだよね。
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第十二話 蓮ノ谷光彦、青海航也に寂しいと告げる。(後編)
【蓮ノ谷side】
夕方の営業部会議が一通り終わったあと。
出されたお茶を飲みながらぼーっとしてると。
唐突に、むにゅっと指で左頬を突いてくる者あり。鳥越部長だった。
「あは、蓮ノ谷ちゃんのほっぺたぷにぷにだね〜。お肌もツルツルだし、年ごまかしてない?」
僕が気にしてることをこの人は〜!
童顔であることとか、毛が薄毛気味であることとか。
あ、頭にはまだ影響来てないと思いたいけど、足のすね毛はスラックス履いてるといつの間にか擦れて無くなっちゃって。
……それを昔の彼女に言ったらかなり羨ましがられたっけ。
彼女は毛深いのが悩みだったらしく、そんな風には見えないって僕が言うと、こっそりがんばってるの! ……なんて怒られた記憶がある。
彼女より肌色が白めなことも指摘されてたし、そのあたりも、疎遠になってしまった原因の一つだったのかも……ハァ……。
「あれ? 怖い顔してる。痛かった?」
「いえ、そんなことはないですよ。どうしました?」
一瞬、黒歴史に思考が囚われてしまっていたことを払拭するように、努めて笑顔で部長を見上げる。
ニコニコと笑顔を返してきた上司は、ある程度予想していた内容を尋ねてきた。
「動画講座の進捗はどうかなって思ってね」
「はい、順調です。青海君は教えるのがとても上手いですね。教育関係の才能があると思います」
「へえ? そうなんだ。いいね」
椅子を引いて僕の隣に座り込み、更に質問を重ねる部長。
「彼とは、仲良くなれそう?」
「あ、は、はい……僕は、随分と彼のこと、誤解していたようで」
「誤解?」
「正直、苦手だったんです。青海君は口数が少ない子で、彼のようなタイプはあまり過去に経験がなくて」
話しながら、当時の青海君の姿を思い浮かべる。
あの頃は、彼が黙り込んでしまったら、途端にどうしたらいいかわからなくて困ってしまっていたっけ。
でも、青海君とは『ごはんつぶ』さん動画を共通の話題に出来たこともあって、すぐに打ち解けていけた……と、思う。
「でも部長の計らいで、青海君に動画を教えてもらうことになったことで、色々と彼の良い部分を知ることが出来ました。ただ、動画制作に関しては、全く未知の分野でしたので。未だ手探り状態で進めています」
「ありゃ、そうなの。悪いことしちゃったかな?」
「あ、いえ、今は本当に感謝してるんです。本当にっ!」
部長に言ったことは、嘘ではない。
動画のほうも、青海君の導きで楽しさを知ることができたのだ。絶対無理だと思っていたことにチャレンジして、それが少しでも攻略できた喜びも。
「あと、ここ最近、昼食を一緒に取る機会があるのですが、話をしていてわりと聞き上手であることに気づきました。そこも、彼の美点だと思います」
青海君は、必要以上に喋らない子だなと思っていたけれど。それは、言葉をしっかり選んで話そうとしているからなんだなと、今はわかる。
「撮影も上手いんですよ。でも、最初に動画素材として撮影してくれた映像には僕の顔まで入ってて。なんか子供みたいにはしゃいで食べてる自分だったので、恥ずかしくて……。多分まだ、彼のスマホにそれ、入ったままだと思うんですけど。容量も限られているのに申し訳なくて。消して欲しいって言うのもなんだか自意識過剰っぽくて…」
ここまで話を進めて、いささか報告らしくない内容になってしまったと思い軌道修正を図ろうとしたら。
椅子の背に寄りかかって机の上で手を組んでいた部長が、乗り出して頬杖をつき、こう言ってきたのだ。
「僕から言ってあげようか?」
「へ?」
部長はこちらを向いて、ニッコリと続けた。
「スマホから、君の動画を消してって」
「……」
「……」
なんだろう、部長はずっと笑顔のままなのに、雰囲気が変わったような気がする……。
密かに生唾を飲み込みながらも、少なくとも表面上は冷静にこう回答する。
「いえ、それは僕から、折を見て伝えます」
「そ。……それにしても韋駄天酒場、ね。そんなに美味しかったんだ」
「ええ、部長もぜひ……」
なんだか少し変な方向に行ってしまいそうになったので、努めて青海君のいいところを部長に伝えようと懸命に考える。
「あ、あのう、あと、青海君はですね、細かく気のつくところもあって。別の日のランチのことですけれど……昼明けに営業部会議が予定されていた日に」
仕切り直すように意識的に背筋を伸ばし、続ける。
「僕が口元にごはんつぶをつけたまま店を出ようとしてしまったのを気づいて、小声でそれとなく伝えてくれたんです」
言葉にすると、青海君がこう、伝えてくれた時の記憶。掴まれた左腕の感触、息が左耳に当たった感覚がブワっと襲ってきて。
なんだかむずがゆい気持ちになってしまい、耳を自然に抑えてしまう。
「……あっはっはぁ!」
突然、部長の笑い声が響いてきて、思わず彼の方を見ると、口元を押さえてプルプルしている。
「なぁにぃ、お弁当つけて会議出そうになっちゃったの? 蓮ノ谷ちゃん可愛い!」
うわあ、部長の目が生暖かい! 明らかに子供扱いだ!
今更だけど、こんなことまで言う必要なかったじゃない、僕!
これ以上話していると、どんどんドツボにハマりそうだったので、まとめに入ることにした。伝えるべきところは伝えたと思う、多分。
「と、このように、……僕が頼りない分、だいぶ彼に助けてもらっています。……彼がどのように考えているかは、まだヒアリングする機会を設けておりませんので正確にはわかりませんが……」
その通り、青海君が主任である僕のことをどう思っているかはわからない。
でも。ここまで部長に報告する中で思い出した彼との時間の記憶に、少しだけ自信を持ったので。
部長には、こう告げた。
「僕は、青海君とは。良い関係性で、やっていけると考えています」
「そう、安心したよ」
部長が手首のあたりをさするような仕草をした。
僕はその様子をなんとなく眺めていて、彼の左袖からチラリと覗いた時計が気になった。
なぜなら、『ごはんつぶ』さんの動画に写り込んでいた時計に似ているタイプだなと思ったので。時計のデザイン自体は、割りとよくあるタイプの金属バンドのものだけれど。
自然と、慰労会の時に偶然聞いてしまった言葉を思い出した。
部長が青海君と話している時のそれを。
『……時計、使ってくれてたんだね、僕が買ってあげたやつ』
あれは一体、どういうことだったんだろう?
時計を贈るような関係。
もし、青海君が鳥越さんに……ってことならば、まだわからなくもない。
僕がまだ福岡支社に来る前。青海君は部長の直属だったということだし、彼へのなんらかのお祝いで、例えば部下数人から時計を贈ったということならば。
でも、部長みたいな年齢や立場の人から、青海君みたいな子に……というパターンがよくわからない。
僕がそこまで思考を飛ばしてしまっているうちに、部長がふと、顔を寄せてきた。
途端にふわっと漂ってくる匂い。それとなく香る程度だけれど、少し圧を感じるような、大人な印象のスパイシーで華やかな匂い。
彼が僕に囁く。
「今度、二人の時にもっと聞かせてよ。蓮ノ谷ちゃん、日本酒もいけるでしょ」
それは、プライベートの飲み会のお誘いだった。
こういう付き合いも大切だってことは、社会人として数年を過ごしていればわかる。
むしろ上司のほうから誘ってもらって、ありがたいことだ。
そして僕は、もしかしたらこれはいい機会ではないか、とも考えた。
もちろん当日の話の流れ次第だけど。
時計のこと、いっそその場で部長本人に聞いてしまうのはどうだろうって。
推理小説なんかでも、いったん謎が解明されれば、ああ、そんなこと! ……って思うものだし。
「はい、ぜひ」
笑顔でこう答える。モヤモヤしたものは、しっかり解消しておかないと。
僕は、青海君の上司、なのだから。
【続く】
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第十三話予告
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蓮ノ谷光彦です。
今日の昼は用事があると青海君が言っていたから、動画講座はお休みになった。
そんな彼は、なにやら遠出をしているようで……。
も、もちろん昼休みはプライベートだから、どこに行こうと青海君の自由だけどね。うん。
次回、第十三話「青海航也、蓮ノ谷光彦にナイショの撮影。」
えっ、青海君……なんで、部長の車に乗ってるの……?
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……ええと。
僕たちのお話を読んでくださる皆さんにお願いがあります。
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今回も読んでいただいて、誠にありがとうございます!
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【作者からのお知らせ】
週一回更新です。
次回十三話は2023年1月28日(土)22:00を予定しています。




