第十一話 蓮ノ谷光彦、青海航也に寂しいと告げる。(前編)
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前回(第十話)のあらすじ
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青海航也です。
昼休み、突如として我が企画広報室に現れた総務部女性軍団が、主任をランチに連れ去ってしまった。
俺は俺で、昼を共にした先輩の田之上さんから、女子大生合コンメンバーに無理矢理組み込まれそうになっており……。
帰社途中、池端で主任を見つけた俺は。
彼と缶コーヒーを飲みながら。
のんびりと癒される束の間の時間を過ごしたのだった。
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第十一話 蓮ノ谷光彦、青海航也に寂しいと告げる。(前編)
【蓮ノ谷side】
今日のランチは僕のリクエスト、讃岐うどんの人気店。
『ごはんつぶ』さんのYouTubeチャンネル『福岡おすすめランチ情報』で見て以来、ずーっと来てみたかったところだ。
福岡では柔らかいうどんが主流で、福岡市内にもたくさんのチェーン店や個人店が鎬を削っている。
だからこそなのか、コシのある讃岐うどんのこの店は、いつもお昼時に行列ができていて。
素直に並んでしまっては、昼休み時間内で戻ってこれない可能性がある。
今は特に、昼休みの後半に青海君の動画講座も受けているから、余計に時間が厳しいと選んでこなかったのだけど。
……今日は朝から雨が降っている。
なので、もしかしたら空いているかもと思い、青海君と一緒に来て見たら、ビンゴ。
あっさり席に案内してもらえた。
というわけで、かねてより行きたかった店に、ついに来られて嬉しいはずなんだけど……。
「……具合でも悪いっすか」
青海君に不審がられてしまうくらい、僕は心ここにあらずだったらしい。
「え? いや、そんなことないよ! ごめんごめん。うわ、やっぱ『ごはんつぶ』さん動画で見たとおり、美味しそうだよね!」
なぜ僕が、そんな状態かと言うと。
今日も普通に青海君と二人でランチに来ちゃって良かったのか? ……と。今更ながらに迷いだしてしまったからなのだ。
聞けば昨日、僕が晶城寺さん率いる女性集団に拉致……げふんげふん、ランチ、行っていた頃。青海君は、村野君と田之上君とお昼を食べたらしい。
部下三人のコミュニケーション不足っぷりに悩んでいた上司としては、喜ぶべきことで。
知った時は、すごく嬉しかった。
それなのに、そんな彼らの上司の僕自身が。至極当然のように青海君を誘ってしまったりなんかして。
いや、部署メンバーでお昼行くのが普通とかそういうんじゃないけど!
「……主任」
うどんを一本つまんだまま動きを止めている僕を気遣って、声をかけてくれる青海君。
あわててなんとか取り繕おうとする僕。
「あの、えっと、……『ごはんつぶ』さん動画と言えばさぁ、最近新作がアップされないんだよね! 寂しいなあ〜」
「……そっすか。……えっと……ゴールデンウィーク前ですし、あっちも忙しいんじゃないですかね……多分」
フォローされてしまった。青海君に聞いても困ってしまうようなことを、上司のくせに僕って奴は……っ。
すると、ためらいがちに青海君が、こんな質問をしてきたのだ。
「……昨日の昼、どんな感じでしたか。……その、総務の皆さんとの、ランチ……」
……びっくりした。
青海君とは、その手の話……女性関係とか、結婚恋愛関係とか……なにげにしてなかったなと気づきもして。
あ、上司部下間だと話さないか、普通……。
鳥越部長なんかは構わず直球で聞いてくるから例外として……。
僕はかなり驚いた顔をしていたらしく、あわてて青海君がこう続けた。
「あ、違くて、その、田之上さんが、村野さんも、なんかスゲー気にしていたっつーか!」
「え? 田之上君たちが? 君たち、そんな話するくらいに仲良くなったの? え、すっごく嬉しいよ! 主任として!」
正直な気持ちだった。
だから思わずウェルカム、どんと来いな気分に盛り上がってみたりして。
「何が聞きたい? 大して何にもないけど!」
「えっと……その、田之上さんが、昨日のメンバーの中で気になる人がいるらしくて。主任的にあの中で……その、いいなって人がいたのかな、みたいな……」
うわぁ、甘酸っぱい質問。
感動してしまった。長らく体験していないアオハルな感覚に、しばし痺れる僕。
思えば青海君は確か二十五歳。僕より三歳だけ年下で。
彼がもし高校一年生なら、僕は三年生。部室とかで先輩後輩として、恋バナの一つもしてる年齢差じゃないか。
なんだかんだと楽しくなってきた僕は、きちんと答えてみることにした。
「あはは、みんないい子たち……とは、思ったんだけどね。ただ……勢いがすごくて。僕自身、女性に押されると引いてしまいがちになっちゃうんだよね」
……実際話し出すと、情けない感じだ。
でも、青海君が真面目な顔で聞いてくれるから、なんとか続けてみる。
「僕自身、学生時代から社会人三年目くらいまでは、彼女がいたこともあったんだけどね。会社に入ってから、色々と忙しくなって。僕も器用なタチじゃないから、彼女のことをなにかと後回しにしがちになっちゃって……そのまま自然に連絡途絶えちゃったな。その辺りも、イマイチ女性に対して及び腰になる原因かもね……」
あ、あれ? 全然アオハルじゃなくて世知辛い話になってきちゃったぞ。
なので、方向性を変えようとして。
「あ、青海君は、どうなの?」
「いないっす。えっと、学生時代も、今も」
「そっか。……」
割にこういう話題って、マウントの取り合いというか、経験アリを主張したがる傾向になるものだけど。
青海君が妙に即答だったことに、少しおかしみを感じた。
ただ。この後、自然に聞く流れになる質問……。
今、気になる人はいるの? とか。これからどう考えてるの? とか。そういう問いかけをすることが。なぜか、ためらわれる。
もちろん、セクハラパワハラ的なことを避けたいという意味もあるけれど……。
それ以外にも。
なんだか内心ストップがかかる。
唐突に、こないだ韋駄天酒場で見た……女性店員と親しげに話している青海君が思い出された。
あの時は、微笑ましい光景だなって本心から考えていたはず。
どうしちゃったんだろう、僕は。
……そして。そのまま思考は、慰労会にまで飛んだ。
『……時計、使ってくれてたんだね、僕が買ってあげたやつ』
たまたま聞こえてしまった、鳥越部長の言葉も想起されて。
「……時計」
「時計、ですか?」
思わず口に出てしまった単語に、意外にも即反応が返ってきてしまったので。
ごまかすように、こう続けた。
「あの、青海君って、腕時計しない人なんだね」
「えっと、普段はつけてるんですが……その、今、修理に出してて。大切なやつなんで」
「そ、そ-なんだー……」
大切な時計……。
時計をプレゼントされて、かつ、その時計を大切にしてるような間柄。とは。
何となく手首付近に青海君の視線を感じたので、これ幸いに、自分の時計に話題を変更してみた。
「僕は時計には特にこだわりとかなくて。でも鈴本には、いいもの持てよって何度も言われててね」
「鈴本……さん、ですか」
「あ、鈴本ってのは僕の同期。すごくしっかりしてる優秀な奴で。東京本社時代は色々頼ってばかりだったなあ。今は本社の……とある企画室の室長、してる」
「……そっすか」
※※※
ランチのあと、いつものように会社のラウンジに移動した。
本日の動画講座は、ナレーションやBGMなど、動画の音声部分を設定する過程だった。
ナレーションは、撮影の当日録音した僕のボイスを使うことも検討したけれど。
青海君と話し合った結果、今回はつなげた動画に合わせて全体を通じたシナリオを作り、それを読み上げる形式にすることにした。
しかし……シナリオ作りのためとはいえ、録音した自分の声を聞くのって結構恥ずかしい……。
でも、我慢してなんとか聴き続けていくと。
……あれ?
「なんか僕の声さ……」
「……主任の声、ですか?」
「え、ううん、なんでもないよ」
青海君にはこう答えたけれど。
……実は。イヤホンから聞こえてくる当日の僕自身の話し声が。
……『ごはんつぶ』さんの声に似てる……気がしちゃって。
まあ、僕の声は妙にはしゃいでいて、流れるようにナレーションする『ごはんつぶ』さんとはテンションが違うから。言うほど似ているわけではない。
ともかく残り時間も少なかったので、ナレーションに使う文章を簡単に書き出してからササっと読み上げて設定しておいて。
BGMその他の調整は次回への持ち越しにすることにした。
そういえば……僕のお刺身食べてる姿が映った動画、顔が入ってるほう。
今もおそらく青海君のスマホに入ったままなんだよなと、唐突に気になり出した。
僕が言わないと消しにくいかな……。
……消してほしいってのも、自意識過剰な感じがするな……。
……なんてことを益体もなく考えていたら、青海君が話しかけてきた。
「あの、次の講座なんですけれど」
「ひゃ、ひゃいっ、な、なに、次の講座?」
「明日は、ちょっと……用事ができてしまって、リスケで、いいっすか」
少しためらうような様子だったので、安心させるように笑顔で答えてあげることにした。
「うん、わかった。また予定調整しようね」
【続く】
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第十二話予告
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蓮ノ谷光彦です。
青海君との動画講座について、鳥越部長からヒアリングされる僕。
報告しながら思い出されていく、青海君との時間の記憶。
彼のこと、苦手だったはずなのに。いつのまにか僕は……。
次回、第十二話「蓮ノ谷光彦、青海航也に寂しいと告げる。(後編)」
……おや? 部長のようすが……。
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……ええと。
僕たちのお話を読んでくださる皆さんにお願いがあります。
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今回も読んでいただいて、誠にありがとうございます!
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週一回更新です。
次回十二話は2023年1月21日(土)22:00を予定しています。




