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僻地の出逢い



天高く、馬肥ゆる秋。

枯葉や枝が燃える焚き火の煙が昇りたなびき、土気の混じった得も言われぬ匂いが漂う。

秋といえば、食欲の秋でもある。


──そう、ワシは今。

黙々と煙に巻かれながら、魚を焼いておる。




「なんで仮にも魔王であるワシが飯の支度しとるんじゃあああいっっ!!!」




まあ、これにはアララト山脈よりも高く険しい理由があるのである。

心して聞くがいい。悲しくなるから。




さて、前回ワシらは避難先である洞窟から抜け出し、リリスの言う〝集落〟へと向かった。

辿り着いた先にあったのは集落と形容していいかどうかすら疑わしい、枯れ草を折り重ねただけの竪穴式住居が数軒…という場所であった。


そしてそのボロ屋に住まうのは、我が魔王軍から抜け出し、密かに暮らしていたゴブリン、片腕を戦で無くしたコボルトなど…所謂低級クラスの傷痍兵といったところであった。



ま、このくらいの事は予想の範疇である。

ワシが持つなんちゃって未来視を以てすれば、こんな事は分かっておるからな。ハハハ……




「それでですね〜まおーさま。この人たちから精を分けてもらえてたので、私こうして元気なんですよ〜」




そうかそうか、わかるぞ。

お前だけやけに元気だったもんな。1人だけ呑気にセッ〇スなんて羨まけしからん。

いや相手が相手だから別に本気じゃないぞ。


だからワシを変な目で見るな、サイモン…。




「ですから〜、お礼にここを私たちの拠点にしてしまいましょ〜!」




えいえいおー!と、元気よく拳を高らかに突き上げる淫乱悪魔。

言っていることがよく分からないというのが正直なところじゃが…。


「あのなぁ、一方的に精を搾り取った挙句ここを占領するとか。幾ら魔王であるワシとは言えドン引きするぞ?

掟とか法律とか本人達の意思とか、色々問題があるじゃろ」


「ええ〜?でもこの人達が是非そうして下さい光栄でございますぅ〜って言ってくれたことですからぁ〜」


ああ、そうなの…

つまり逃げ隠れてた割に、淫魔の尻に敷かれたので逆らえない逆らいたくないと。現金なやつらめ。

まあいい、再起を果たし勇者どもに復讐が出来るのならば。リスタートがこんなレベルからでも這い上がってくれようぞ…!




……ぐぅ〜。




いかん、腹の虫が鳴ってしまった。

これでは魔王としての威厳も何もあったものではないな。


「ならば今日からこの集落はワシらのものとする。早う飯の支度をせい」

「は、はぁ。それなんですがね…」


ボロボロの衣服を身につけた、隻腕のコボルトが前に出てくる。少しワシが睨むと、目の前の小物は地にひれ伏した。

此奴がここの頭目といったところか。


「何じゃ申してみよ。まさか食糧の備蓄も無いとか言うまいな?」

「ハハハ…聡明なる魔王様にはお分かりになっちまいますか」



マジか。

確かに山奥にある辺鄙な土地とはいえ、そこまで貧窮しているとは…


恐らく周辺に街道などが無い、完全な隠れ里だからという事もあろうが。

確かに彼らが住まう住居のみで、倉庫や畑らしきものは見当たらぬ。



「では、今までどうやって暮らしてきたのだ?幾ら魔族と言えど、数ヶ月も飲まず食わずとはいくまい」

「はぁ、実はここから暫く山脈方面に進むと沢がありまして。その周辺にある山菜や木の根、川魚で辛うじて生き繋いで来たのですわ」

「ふむ…」


ゴブリンは雑食、コボルトはどちらかと言えば肉食の魔族である。

川魚も毎日取れるわけでは無かろうから、つまりギリギリの生活をしてきたという事だろう。

これでは生活のレベルが上がるはずもない。


「とりあえず、腹が減っていては何も出来ぬ。その沢に案内せよ」

「はは、畏まりました魔王様」



地に頭をつけコボルトは答える。

うむ、敗残兵の割にはちゃんと忠節を心得ているではないか。

まー今のワシも敗残兵みたいなもんじゃけども。


「それでは魔王様、わたくしはこの集落と周辺の詳しい調査をして参ります。どうぞお気を付けて」

「うむ、其方は任せるぞサイモン」




☆。.:*・゜_(:3」∠)_•*¨*•.¸¸☆*・゜




「魔王様、もうすぐ到着しますぜ」


山中の獣道を掻き分けて1時間ほど。

視界の開けたところに、そこそこの水量のある沢が確かに存在していた。

遠くに聳えているストノヴォ山脈からの水流が、この沢を形成しているのだろう。


魔力の篭った眼を通じて周りを見て生命反応を確かめてみる。

少なくとも十数匹の魚が川底を泳いでいる。これならば腹を満たすには充分じゃろ。


「うむ、では魚を取って参れ」

「えぇ…お言葉ですがね魔王様、俺は片腕しか無いもんで、うまく捕まえられないんでさ。数時間やり合って魚を追い込んで、ようやく川辺で釣り上げられるでしてね」


そ、そうか…そりゃそうじゃよな。むしろよく今まで片手で魚採れたものだ。大変だったのだな。

とは敢えて口には出さないワシ。


「なら仕方ない、ワシが仕留めるので引き揚げはお主がやるんだぞ」

「はぁ、しかしどうやってやるんです?」

「水中の生物を簡単に仕留める方法など、決まっておるよ」


身体に流れる魔力を指先に集め、小さく詠唱する。




「穿て、雷のサンダーアロー




指の先端から魔力を帯びた閃光の奔流が迸り、川面に直撃する…!


水とは基本、電気をよく通す物質である。

水を介して電流を身に受けることを、感電と呼ぶわけであるが。こうした物理法則に関した知識を持つ魔族はそう多くない。


ともあれ、川に強い電流が流れれば、水中にいる生物はどうなるか。


数秒もしないうちに、水の上に数匹の魚が浮かび上がってくる。

全滅させない程度にしなければ、明日食うのに困るからな、調整は上手くいったようだ。


「さあ、はやく水揚げせねば流されてしまうぞ。急げよ」

「は、ははっ!!」


一瞬の出来事にやや気が動転していたコボルトが、ワシの声に我に帰り、命令を果たすべく川に入っていく。


あんまり川の中央に行くんじゃないぞ、間違っても流されるなよ。


泳ぎを得意とする魔族ならばともかく、泳げもしない魔族が川で溺れてはまず助からない。

折角得た部下を、こんな事で失うのも馬鹿らしい。

とはいえ冷たい川に魔王自ら入るのもなんか違うしな。

それはそれ、これはこれなのである。


「魔王様!6匹も獲れましたぜ!大漁でさぁ!」

「うむ、ご苦労である」


これで貴重なタンパク源を確保できる。実に約1ヵ月振りのまともな食糧…


「さて、適当に石を積み上げて竈を作るか…それとも焚き火で直火焼きにするか…」

「え、魔王様?このまま食わないんですかい?」


いや待て、川魚をそのまま食ったら腹壊すぞ?

野生の生肉には寄生虫や病原体など、危険が付き物である。火を通して安全に食することがどれだけ大事なことか…


「いや、料理した方が美味いのでな。お前はそのまま食っていたのか…」

「ま、俺は肉なら何でも食えますんでね。ゴブリンどもはたまに腹をやられてましたがね」


全然駄目じゃないか。

とりあえずより確実に火を通す為にも、ここは直火焼きといこう。

ワシが火を熾すのは洞窟暮らしで慣れたものである。


「ほれ、お前はさっさと燃料になる枯れ枝とか枯葉とか持ってこい。布切れに包んで運べば早いぞ」

「はは、畏まりまして」



…残された兵の質が良くないのは考えものではあるが、言っていても仕方ない事である。

さて今後どうしたものだろうか。サイモンが集める情報次第では、今の状況は決して芳しいとは言い難い事には変わりないのだ。


火に枯れ枝を焚べつつ、じっと思案に耽る。

こうして火を見つめながら考え事をするのも、悪くないなと思ってしまうが。


ワシは魔王である。


魔の民を統べ、秩序の為に身を尽くすのが我の役割である。

こんな隠者のようなことを死ぬまで延々と続ける訳にもいかぬ。

然しどうすれば良いものか…。


堂々巡りとなる思考で惚けてしまい、意識が薄れていく……。



…。


……。


………。



「魔王様、魔王様」


「…んん、何じゃ…まだ寝かせよ…」




「いやあの、魚焦げてますぜ?」

「ほ、ほあああっ!?」




世の中、上手くいかぬ時は儘ならぬものよなぁ。

ううむ、世知辛いものよ…

消し炭になった魚が、にがい。




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