18
テーブルに座って、さっき買った本を読んでみる。
えいゆうのぼうけん
む、むかし?むかし、むかし、ある、ば、しょ?にこどもが、ありました?
これはなんて読むんだろう。
こども、は、?ときに、うーん、わかんない、おい、かけたい?とお、もっていました。
「昔々あるところにひとりの子供がいました。その子供は村の人たちを苦しめる魔獣を退治して、みんなを助けたいと考えていました。」
後ろから聞こえた声に振り返ると、リタさんがそこにいた。
「こんな簡単なのも読めないのね。文字を覚える機会すら与えられないから、エクシルの場合は仕方ないんだけど。ほら、教えてあげるから続きを読みましょ。」
リタさんに文字を教えてもらいながら、本を読んでいく。
本も3ページくらい読んだ。
どんなにつっかえても、リタさんは優しく教えてくれた。
僕の質問にも全部答えてくれた。
「リタさん。」
「なあに?」
「無属性、嫌いじゃないの?」
リタさんがびっくりしてる。
「何よ藪から棒に。嫌いよ。あんな何もできない奴ら。」
テーブルに肘を突いて手を頬に当てて、唇をとんがらせてる。
どこ見てるのか全然わからない。
「でも、エクシルは光るものを持ってるわ。ていうかあんたの才能は反則よ。でも、そうね、そこが他の無属性と違うからかしら、嫌いじゃないわ。」
こっちを見てニヤッと笑う。
白い歯が見える。
「起死回生の絶技って、隠すの?」
「またいきなりね。あたしは隠しておくわ。わざわざ手の内を晒すことないもの。この世界はね、襲ってくるのは魔獣だけじゃない、人もエルフも、襲いかかってくるわ。いろんなやつらと戦わなきゃいけないの。だから、隠しておく。」
そうか、そうだね。
僕も追い出されたから。
「僕もそうするよ。」
「エクシル、あんたなら見せても良いけど、絶技というだけあって加減はあたしにはできない。覚えるためにはその絶技を体に叩き込まなきゃいけないんでしょ?」
そう、見るだけじゃダメ。
棒の振り方とかは見るだけでも覚えられるけど、絶技はダメ。
「うん。魔法は何してもダメ。」
「絶技として使われる魔法なら覚えられるのにね。まあそれが才能なんでしょうけど。このこと考えてるとこんがらがってくるからもうやめましょ。」
頬に当ててた手を顔の前で振って、大きく伸びをしてる。
そういえば、リタさんは見せるのを嫌がってる絶技をを僕には見せてくれるってどうしてだろう。
でも、今は覚えたくないな。
リタさんと戦うってことだし。
「見せてくれなくても良いよ。」
「なんでよ。」
目だけこっち見てる。
「敵じゃないから。」
「・・・ふん。まあいいわ。」
あっち向いた。
「絶技を使わないでいられると良いのに。」
「はあ、そうね。そんな平和な世の中ならね。女っていうのはそれだけで狙われやすいのよ。使わなきゃいけない時が必ずくるわ。セシリアもそう。願っても無いのに災難はあちらからやってくる。あたしは必死に戦ったわ。必死に戦って、自分の体だけは守ってきた。このリタという名前が売れて、ようやく手を出してくる男が少なくなってきたところよ。」
「パレントさんに言ってたのは?」
「あれは駆け引きよ。あれで乗ってくるような男なら叩き潰すわ。」
なにを?
急に股が寒くなった。
「パレントも何考えてるか分からないわね。エクシルに利用価値を見出しているようだけど、何に利用するのか検討もつかないわね。」
利用?僕を?パレントさんが?
「エクシルが倒れている時に言ってたのよ。無属性の研究をするのに良いって。」
無属性研究日誌。
僕は、殺される?
「どうしたの?エクシル?」
体が震える、とても怖い。
死んでも、当たり前?
「クシル!エクシル!!ねえ!」
「あっ。」
「大丈夫?!急に震え始めたから、どうしたの?」
僕は本屋で無属性研究日誌のことを聞いたのを話した。
パレントさんがその研究をしている人なら僕は殺されるかもしれない。
「エクシル、直接本人に聞いてみましょ。こういう時は考えたら考えただけ、闇に飲まれるわ。さあ、しっかりして。行くわよ。」
リタさんが僕の手を無理やり引いて、リュックを持ってユニオンの外に連れ出した。
宿への道を歩いている時の、リタさんの手はとても温かかった。
宿に着くとズカズカとリタさんが階段を登って、ドアを勢いよく開けてパレントさんのいる部屋に入った。
また上が裸で寝てる。
「起きなさいパレント。」
「ん、あー、ん、えっと、何のようだい?」
「エクシルのことで話があるわ。」
「んー、はい、なんでしょうか。」
話してくれるのかな?
「あなた、クルシオンのユニオンでのこと、覚えてる?」
「クルシオン?ああ、床を壊した。」
「そう、その時言ったあなたのセリフ、覚えてる。」
「ん?えーっと。・・・それが、どうしたんだい?」
「起きたわね。」
起きたね。
「無属性研究日誌。」
パレントさんがすごく驚いた顔をした。
「どこでその日誌を?」
「まさか、あなたが書いたんじゃないでしょうね。」
顔が元に戻る。
真剣な顔だ。
たぶんこっちの考えてることがわかったんだ。
「いや、私が書いたものでは無いよ。でも中を読んだことはある。クルシオンでのことも、リタ、君に言ったことも覚えているよ。確かに、私はそう思っていた。日誌を読んだことを思い出して、真似事をしようとしたんだ。」
エクシルがリタの手を強く握る。
リタはその子どもの顔の、血の気がどんどん引いていくのを見てパレントの方を睨む。
この子は今、何も考えられないほどの失意のどん底にいる、そうリタは思った。
「無属性であるにもかかわらず、絶技を覚えるエクシルを見て、私は胸が躍った。日誌なんかよりよっぽど面白いものがそこにある。連れ出して、今後この無属性の者がどうなるのか、早く見てみたかった。ゼコンの村では元々の才能を遺憾なく発揮するエクシルに、私は興奮を抑えるのに苦労した。それがいつから変わったのかは分からないが、覚えているのは、エクシルがクルーエルホルンのクエストを受けた時だった。私は焦った。それは君が研究対象だからではなく、単純に君が死んでしまうかもしれないと思った。何でも覚えられる、そう思って魔法をかけたがそれはできないと聞いた時、私は目の前が真っ暗になった。いつからかエクシルを、研究対象ではなく、ひとりの子供として時を一緒に過ごしていた。私の大切な弟子であり、息子のような存在として。始まりはそう研究対象だった、でも今は違う。信じてもらえないかもしれないが。エクシルは、もう私の一部だ。」
気がついたら、僕はパレントさんに抱きついてた。
泣いてた。
パレントさんもなぜか泣いてた。
背中を優しく撫でてくれて、嬉しかった。
「なによ、心配して損した気分。本当の親子みたいね。」
「本物でありたいと思っているよ。」
「ふうん。」
リタさんが僕をパレントさんから引き離した。
リタさんはパレントさんを見ながら、僕をぎゅーっと抱きしめてくれた。
「良かったわね。エクシル。もしパレントが下衆野郎だったらあたしが連れていく、と思ってたけど、どうやらそれはしなくても良さそうね。」
ゆっくり僕を降ろした。
なんとなくだけど、ぎゅっとリタさんの手を握った。
ずっと僕のそばにいて欲しいと、本気で思った。
「リタさんも、一緒にいてよ。」
「・・・いいわよ。」
嬉しい!
リタさんに飛びついて、また泣いちゃった。
リタさんも優しく背中を撫でてくれる。
「パレント!もし、この子を泣かすようなことがあったらタダじゃおかないからね!」
「悪いがその台詞、そっくりそのまま返すよ。うちの子を泣かしたら、ただじゃおかない。」
なんだかくすぐったい。
お父さんとお姉ちゃん?ができた。
嬉しい、嬉しい。
笑顔が止まらなかった。
妹もいたらな、そう思った。
どん底に貶めたり、どうあがいても絶望させるつもりは、ありません。
書けません。




