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旅の目的もなく

 「ジャックたちはこれからどうするの?」

 お金についての講義が終わったタイミングでガネットは僕にそう質問した。

 「え?」

 「旅するんでしょ。なにか目的でもあるの? どこか行きたいところとかあるんでしょ?」

 そう言われて僕は何も考えていなかったことに気が付いた。旅をして、学んできなさいとは言われたけど、どこに行くとかどうやって行くとか、何よりもこの町のこともよく知らなければ、他の町の事、ひいては国の事を一切知らないことに気が付いた。

 「何も考えてなかったって様子ね」

 僕が何も答えない様子を見て、彼女は察したようだ。

 「アハハ……」

 と乾いた笑いしか出ない。でも事実何も考えていなかった。一応路銀もあることだしと高をくくっていたところもある。持っていたお金の価値も一切分かっていなかったという情けない話なんだけど。

 あれ、もしガネットに会っていなかったら僕らは結構危なかったんじゃないかなって少し背中が寒くなる。この町でガネットに会えて本当に良かった。

 「まあ、何も考えてなかったみたいね。とりあえずこの町を回ってみればいいんじゃない。この町の事なら私が教えてあげられるしね」

 「お嬢ちゃんが教えてくれるのか。それならありがたいな」

 それを聞いて、机の上で結局最後まで講義を聞かずに寝ていたパクが起きてそう言う。ガネットならこの町の事に詳しいからすごく助かる。

 「ええ、教えてあげられることならいくらでも、でもね。パク、そのお嬢ちゃんって言うのやめて、なんか嫌な感じするから」

 身震いがすると、ガネットは腕で体を抱く。ホントに嫌がっているようだ。その様子にパクもさすがこれ以上は言わねえよと返した。

 「とりあえず、もう今日は日も暮れるからジャックたちもここで休んでいけばいいんじゃない?」

 気が付けば、もう空は暗くなっている。夜が訪れようとしているのだ。

それにして、ここ二日は野宿だったから、ガネットの申し出は正直ありがたかった。外で寝ることには耐性はあっても、僕とパクの二人だけで知り合いのいない場所での野宿は案外神経を張るものだとこの二日ほどで身に染みていた。

 「ヤッホー、これで虫とか気にせずに寝られるぜ」

 パクはそんな風に喜んでいるが、虫なんか気にせずに熟睡してしまっているのを、僕は知っている。あえて言うほどの事じゃないけど、彼は図太いことだけは確かだ。

 彼が先に寝てしまったから、僕は寝ずの番をしていたのだが、それもどうやら気が付いていなかったようだ。

 「毛布とかはそこの戸棚の中にあったから適当に使って」

 戸棚の中には薄手の毛布に、厚手の毛布、シーツもあれば、クッションのようなものまで入っていた。

 「一応、一回は洗ったから汚くはないはずだから」

そう言うとガネットは二階の部屋へと戻っていた。ここがもともと廃墟だったことを忘れるくらいには物がそろっている。ガネットが一から用意したものなのだろう。ここまで至れり尽せりだとなんか申し訳なくなる。

それを言うと、

「そうね。じゃあ、今日の受講料は明日の買い出しの手伝いでいいかしら。情報に対して労働力で返して頂戴」

と、なんとも商人の町の子らしいことを言われた。

とりあえず明日の予定はガネットとの買い出しになりそうだ。







「それで? その使い魔を持った少年にやり返されて帰ってきたと」

 「……はい」

 意気消沈と言った沈んだ声で答えた。

暗闇の中、手にはこの土地で作られた最高級品のワインを飲みながら、部下の報告を聞く。どうやら、新たな商品を手に入れるのに失敗したようだ。

「ほんと使えねえな」

顔を見ずとも相手の顔が強ばっていることが分かる。

うん、人間の恐怖ってやつは案外何度味わってもいいものだ。悲鳴を上げたくて、上げたくてそれでも我慢しようとするその恐怖に歪んだ顔も面白い。そのまま絶望の淵に落としてやってもいいかもしれないが、あいにくその使い魔を持つ少年の顔を知っているのは、そこ居る使えない奴らだけだ。一杯食わされたままで、はい、負けましたとするのは自分の信条に合わない。

やるなら徹底的に、そして絶望の淵に落とす。それが自分の信条だ。

「それで? そんな、やられてきましたって報告だけをしに来たわけじゃないだろ?」

「へ、へい。その少年は例の娘と一緒に移動していたみたいです」

大通りの商店街でその姿を見つけたという情報。そして、そこからどこかへと消えたという情報。参考程度にはなりそうだった。だが、それ以上に自分が心躍ったのは例の娘という言葉だ。

例の娘。

そうか、それは随分と面白いことになりそうじゃないか。

「使い魔だっけ? そいつは喋ったんだろう?」

「はい、そして魔法も使っていたと思います。もしかしたら幻獣の類かもしれないですね」

幻獣。ただでさえその数が少ない生物だ。その幻獣を商品として売り出したら、とんでもない金になる。そんな金になる木と例の娘を一緒に奪っちまえば。

ああ、面白い。想像しただけで面白いことが起きそうだ。

「ひとまず、そいつらの足取りを探さないとね。次、へましたらどうなるか分かっているよな」

小さく悲鳴が上げ、部屋から一目散に出ていく音がする。

まあ、へましなくてもしても、もう用済みだが、それは後のお楽しみにすればいい。


「さて、面白くなってきたようだ」

ある部屋の一室で上機嫌にワインを傾ける人間の姿があった。


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