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知らないことばかりのはじめての町

3話投稿です。

ここから新たな登場人物が登場です。

島暮らしの二人には島の常識はあっても、町の常識はないですよねってことでこんな話を想像してみました。

ではでは、3話もごゆるりとお楽しみください。

 「へえ、島から出てきて旅してるんだ。いいなぁ、旅か」

 赤く熟したリンの実をしゃくりとほおばりながら、女の子はそう言う。

 

 

 僕らは今、この町一の商店街を歩いていた。道行く人は誰もが忙しそうで、だけど誰もが楽しそうな顔をしている。

そして、ほとんどの人が僕と同じ顔つきで羽が生えていなかった。

僕の暮らしていた島がドラゴンの島だったのか、僕と同じ顔つきの人は誰もいなかったし、それを当たり前に思っていたから、初めて島から出て、人に会ったとき僕らにとって驚くことがいっぱいだった。だけど、それも少しずつ慣れてきたけど、こんなにも人が多いとやはり圧倒される。

 商店街といっても、露店もあれば、しっかりとした佇まいのお店もあって、十店十色というありさまだ。

 こんなに活気のある場所は初めての僕とパクはその勢いに飲まれそうになっていた。

 

 「おいおい、少年。こんなところで立ち止まってたら危ないぞ。俺は、ほれ、そこの果物屋やってんだ。なんか食っていくか?」

 

 なんて声を掛けられて気が付けば、リンの実を三人分貰っていた。

 

 「この町は活気がすごいね?」

 「でしょ? ホント商人の町って感じでさ。誰もかれもが商売に命かけてるって感じなんだよね」

 

 金髪の女の子はガネットというらしい。自分で「私は冒険家だ」と言っていたっけ。その割には、旅に憧れているところを見ると彼女の冒険はそう遠くないところで行われているのかもしれない。

彼女の腕にはさきほどの果物屋で買った色とりどりの果物が入った袋があった。

 

 「おお、これ旨いな」

 

 僕の肩ではパクが先ほど貰ったリンの実に夢中になっている。

 

 「それにしても、君、使い魔を持っているなんて珍しいね?」

 「へ? 使い魔」

 「そういや、あの三人組もパクの事を見て使い魔だって言ってたね。ねえ? ガネット? 使い魔って何?」

 「え?」

 

 僕がそう質問するとガネットはえ? と言って固まった。

 あれ? 僕おかしいこと言ったかな?

 

 「ねえ、なんか僕が常識ないみたいな感じになってない?」

 「そうだな、俺もよく分からないけど、その金髪のお嬢ちゃんの反応だと俺たちがおかしいみたいだな」

 

 二人で顔を見合わせるけど、特に変わった様子はないし、周りからの人の視線も何も変わらない。

 

 「いやいや、のんきに何言ってるのよ! 使い魔の事を知らないの?」

 「長老とか、みんなに教えてもらったことはないよね?」

 「そうだな、初めて聞いた言葉だ」

 

 そんな僕らを見て、頭を抱えるガネット。

 

 「君らがすっごい辺鄙な島から来たことは分かったけど、そこまで知らないとは思わなかったわ」

 

 どうやら僕らがいた島の常識はこの町では、常識じゃないようだ。島の常識がすべてに当てはまる訳じゃないってどこかで思っていたけど、こんなにも早く常識が崩れるとは思わなかったな。

 

 「いい、私についてきて。私の家で君たちにこの町とかのことを教えてあげるから」

 

 先をどんどん進んでいくガネット。金色の長い髪が目立つから離れても見つけられるけど。

 

 「いいのかな? なんかついていっても」

 「いいんじゃないか? 悪い奴じゃないし、あんなにやる気になってるし、俺たちの知っていることが通じないのはこれから先の旅が大変になるかもしれないだろう?」

 

 パクはリンの実を綺麗に食べ終えると、僕の肩でまた小さくなる。数分もしないうちに小さな寝息が聞こえてきた。





 ガネットの後ろを追いかけて歩くこと十分。少し商店街から外れたその場所は空き家が多くある場所だった。彼女は勝手知ったる自分の庭のように歩いていく。

 

 「ここら辺も昔は人が住んでいたんだけど、町の開発の影響で人が住まなくなった場所なのよ。それで私はこういうところで寝泊まりしているの」

 

 数件の空き家を越えたところに少しだけさっきまでの空き家より新しい建物があった。先ほどのまでの家とはだいぶ作りが違うのが分かる。家の前には塀のような門があった。立派なのに中に人がいる様子はない。

 その家のまでガネットは停まる。

 

 「さて、ようこそ私の家へ」

 

 どうやらその建物が彼女の家のようだ。

 


 

 「さあ、入って入って」

 「えっとお邪魔します」

 「邪魔するぜ」

 

 門をくぐって、中に入ると外から見た以上に広く、意外なほど明るかった。二階に続くらせん状の階段。そして天上から何か吊り下げられている。

 

 「あれ? これって何だろう?」

 

 吊り下げられているそれを興味本位で触ってみる。コツっと音がした。ガラスのような肌触りだ。だけど簡単に壊れたりはしそうにない硬い感触だった。

 

 「え、それは灯りをつけるやつなんだけど、島で見たことなかったの?」

 「へえ、初めて見たよ。島だと灯りは炎をランタンとかに入れてたからね」

 「へえ、どんなふうに?」

 

 彼女の興味津々といった様子だ。その視線に耐えかねて僕は応えることにした。

 

 「ちょっと待ってね」

 

 背負っていた袋の中からランタンと炭を取り出して、実際にやって見せる。

 ランタンの中に燃えるときに光を放つ炭を少量入れる。この炭は燃え尽きるまでもかなりの時間が掛かるから夜なんかにピッタリだ。

 ランタンの中の準備が出来たら、少し指先に集中する。そして小さな炎をイメージする。

 少しずつ指先に熱が集まるように集中するとほわっと小さな炎が出た。

 

 「魔法も使えるんだ、凄いね」

 

 ガネットは少し驚いたような顔をしたけど、僕にとってこれくらいは簡単だったりする。毎日やっていれば上達もするし、疲れないやり方とかも考えるようになった。

 小さな炎を炭に移すと炭は明るく燃え上がる。これで灯りの完成だ。

 

 「ほら、こんな感じ」

 「そうか、明光炭か。そりゃいいね。明かりも長持ちするし、何より安い」

 

 今まで名前なんて気にしてなかったけど、今まで使っていた炭は明光炭というらしい。彼女の言葉を信じるならこの炭はこの町ではかなり安く、そして大量に流通しているのだろう。この町を出るときには、大量に買っていってもいいかもしれない。そんなことを思いながら、ランタンの中の灯りに目を細めてみる。

 

 「それにしても、魔法も使えるんだ。まあ、便利だよね。魔法は」

 

 彼女の口ぶりだと彼女も魔法を使えるみたいだ。

 

 「こっちの灯りはどうやって使うの?」

 

 僕は吊り下げられているそれの使い方を知りたくなった。魔法を使わないような言いぶりだったから少し気になったのだ。

 

 「うーん、私も原理はよく分からない」

 

 そう前置きをして、

 

 「炎って熱を出すよね」

 「あ、うん」

 「その熱を使うと水とかを温められるよね」

 「そうだね」

 「そんな感じに魔法の力を伝わらせることで灯りがつくようにしたみたい。先人の知恵ってすごいよね」

 

 これといって納得できるような説明ではなかったけど、なんとなく言いたいことは分かった。そしてたぶん僕も説明されてもよく理解できないようなすごい技術が使われていることはよく分かった。

 

 「まあ、それはいいとして、そうそうそのトカゲ君のこと」

 「あ? 誰だ? 今俺のことをトカゲって言ったやつ」

 

 肩の上で眠っていたパクが起きてきて、口調を強める。トカゲって言われると機嫌が悪くなるのは昔から知っていた。大体言ったのは僕だったけど。

 

 「トカゲじゃないの?」

 「俺はドラゴンだ」

 

 長老曰く、パクたちの種族はドラゴンと呼ばれているらしい。だからパク自身もそれを気にいっているみたいだ。トカゲだと島にいたあの小さい奴と一緒になるからっていうのもあるのかもしれない。

 だけど、パクがドラゴンだって言うとガネットは笑い出した。

 

 「ドラゴン? いえ、そんなジョークを言うなんておかしいわ」

 「ジョークなんかじゃない」

 

 パクは怒り心頭といった様子でガネットを睨みつけている。

 

 「だって、ドラゴンって伝説の種族よ。ここ何百年も見つけられていない伝説の種族。私からしたら御伽話の生物よ」

 怒り心頭のパクもガネットの言葉を聞いてぽかんとしてしまうのだった。

 

 「御伽話って」

 「嘘じゃないわよ。えっと確か」

 

 そう言いながら彼女は壁の本棚から2冊の本を持ってくる。薄い豪華な表紙の本に、分厚く重そうな本。

 

 「はい、これを読んで頂戴」

 「あ、うん。ありがとう」

 

 ぽかんと放心しているパクを尻目に僕は薄い本から開いてみた。どうやらそれは子供向けの絵本のようだ。文字も問題なく読める。

 読み進めていくと、ようやく彼女が御伽話だって言った意味が分かった。

 

 「これって世界の創生の話だよね? これ、登場人物が女神様だったり、それを守る使い魔がドラゴンだったり」

 「そうよ、だから私からしてみればドラゴンなんて、御伽話の存在」

 

 彼女が見せてくれた絵本はこの世界を創造するために、世界を歩いて、少しずつ作り上げた女神さまとその護衛をしたドラゴンの話だった。その話に似た話は島でも聞いたことがあるけど、どちらかというと長老が本当の事のように話すものだから御伽話だとは思わなかった。

そうか、あの話は御伽話だったんだと今更納得できた。

 

 「だけど、何百年も見つけられていないって、それじゃあ誰かが見つけたみたいだよね」

 「そう、だから、その疑問に答えてくれるのがそっちの古い本。私のじゃなくて、前にここに住んでいた人が好きでそういう本をたくさん持っていたみたいなのよ」

 

 へぇ、と感心しながら、次に分厚い本に手を掛ける。この分厚さだとどこに書いてあるのか調べるのも一苦労だな。

 

 「索引を調べてみればすぐ分かるわよ。えっとドラゴンは幻獣だから、ここのカテゴリーね」

 

 また、僕の知らない言葉が出てきた。

 

 「幻獣って?」

 「あ、そうね。ドラゴンの事も知らないなら幻獣の事も知らないのね」

 

 どうやら本格的に常識がないことを言われているみたいだ。常識がないというよりも僕の暮らしていた島とこの国で初めて知る常識がかみ合っていないだけのような感じなんだけどな。

 

 「幻獣って言うのは、簡単に言えばとても珍しい生物の事よ」

 「珍しい?」

 「そう、珍しい。そしてもう一つ特徴があって、魔法を使うことができるっていう能力を持っているの」

 「魔法……ね」

 「私もよくは分からないわよ。けどその本にはより細かく書いてあったはず。多分私が説明するよりも分かりやすいはずよ」

 「そっかありがとう」

 「その本を読んだうえで、あとで質問に答えて頂戴ね。ちょっと君たちの常識を疑ってるから」

 

 そう言うとガネットは部屋の奥へと行ってしまった。ぽかんとしたままのパクをそのままにしておくのも忍びないので、彼に声を掛ける。

 

 「ねえ、パク。大丈夫?」

 「あ、ああ」

 「伝説の種族で、御伽話の存在だって、面白いね」

 

 そう冷やかすとこっちをぐるりと向く。

 

 「俺が伝説だってよ」

 「うん、みたいだね」

 「あれ? ジャックはあのお嬢ちゃんみたいに疑ってないのか」

 「だって僕と君が何年一緒にいると思っているの? ちょっとこの本の幻獣の部分だけぱらっと見てみたけど羽の生えた種族で君みたいな外見のやつは一種類しか載ってなかったよ」

 「その一種類って?」

 「ドラゴンだった。それもかなり昔のものだから、古い絵だけだったけど」

 そう言えばと僕はパクに聞いてみる。

 「パクは幻獣って言葉聞いたことある?」

 「ゲンジュウ? なんだそりゃ食べられるのか?」

 

 どうやら聞いたこともなければ、さっきの僕とガネットの話も聞こえてなかったみたいだ。

 

 「なんかね、魔法を使える生物の事なんだって、今から詳しく解説している部分を読んでみるけど、一緒に読む?」

 「なんだ、魔法なんて誰でも使えるんじゃないのか。あ、でも島のトカゲどもは使ってなかったな」

 「多分そういうところが違いなのかも」

 

 二人でその幻獣に関しての解説を読んでみることにした。


 ……どうやら僕らは知らないことがたくさんあるみたいだ。長老様はそんなことを見通して僕らを旅に出したのかもしれない。


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