第八話 夏! 合宿! 海! 水着イベント!
あとがきに、『やまだやまだ@yamada_yamada44』様より頂きました、水着イラストが載っています。
いつも本当にありがとうございます!
モンコロの翌々日。夏休み九日目。
俺はなぜか水着を着て海辺でビーチチェアに寝そべっていた。
視線の先には、ごみ一つ落ちていない白い砂浜とエメラルド色の海、それと————水着姿で遊ぶカードたち。
先ほどからビーチバレーに興じているのは、蓮華、メアのキッズコンビと、師匠のアラディアとアンナのエルフのクールコンビだ。
モンスターの力で叩いても壊れないモンスタースポーツ用のバレーボールと共に、激しい言葉の応酬を繰り広げている。
「オラッ! くたばれ、糞魔法少女!」
「魔法少女じゃない……私は立派な魔女。大人の女……」
「どこが大人の女だ! このちんちくりんが!」
「それ、貴女が言う……? それに私の方が胸も身長も大きい」
「アタシは美女形態という切り札があんだよ!」
「それは反則。ノーカウント」
蓮華とアラディアが不毛な言い争いをする横で、メアとエルフも舌戦を交わしている。
「アンタ、メアとキャラ被ってんのよ!」
「だからキャラなんて全く被ってないと言ってるでしょう……!」
「これで負けた方がイメチェンだからね!」
「クッ、相変わらず話が通じない……!」
四名のビーチバレーはなかなかの白熱振りだったが、残念ながら全員がロリ体型かスリムな胸元の持ち主だったため、飛んだり跳ねたところで揺れるモノがないのが残念なところであった。
ちなみに、蓮華は赤と白を基調としたスポーティーな水着を、メアは白とピンクのストライプ柄のビキニを身に纏っていた。
蓮華は色っぽさこそないが彼女らしい快活さを感じさせ、メアは中学入学したての女子が背伸びして大人っぽいのを選んだような可愛らしさがあり、二人ともよく似合っていた。
アラディアのジャネットもワンピースタイプの水着が、エルフのターニャはクロスデザインのビキニが似合っていたが……やはり色気はあまり無かった。
審判を担当しているユウキも、身に着けているのは青色の競泳水着で、色気よりも健康的な魅力が前面にくる。
色気……という意味では、やはりイライザと鈴鹿の大人組の出番だった。
そのイライザはというと、彼女は寝そべる俺の横でゆったりと扇で扇いで心地よい風を送ってくれていた。
彼女が身に着けている水着は、黒のホルターネックのビキニで、豊満な胸元とスラリと長い美脚のラインが色っぽい、大人のデザインだ。
シースルーのパレオと麦わら帽子風の黒いビーチハットがちょっとセレブっぽいというか……なぜか愛人風の色気があった。
そんな彼女にビーチチェアに寝転びながら大きな扇で煽ってもらうと、自分が大富豪になったかのように錯覚しそうになる。
さて、大人組のもう片方はというと、ビーチパラソルの下で涼んでいるところだった。
その巨大な乳房を挟みつぶすように体操座りをして、退屈そうに蓮華たちのビーチバレーを眺めている。
と、俺の視線に気付いた鈴鹿が、ニヤァと笑みを浮かべてこちらへとやってきた。
「ねぇ、マスター。どう、この水着は? マスターが気に入りそうなデザインにしてみたんだけど、似合ってる?」
腰のパレオをカーテシーのように持ち上げて俺に感想を問うてくる鈴鹿。
それをじっくりと見ても良い、という許可と受け取った俺は遠慮なく観察させてもらうことにした。
鈴鹿の水着は、紫を基調としたレースアップのワンピースだった。レースアップとは、胸の谷間などが編み上げとなったデザインで、普通はセクシーだがやり過ぎにならないようにという趣旨の水着…………のはずなのだが、彼女の暴力的な質量のせいで完全に胸元を強調するデザインとなっている。
イライザの水着が、清楚ながらも漂う大人の色気だとするならば、鈴鹿のそれはもう完全にAV女優とかグラビアアイドル方面のエロさだった。
どっちが好きだと言われたら、俺は躊躇ったのちにどっちも……とはにかむだろう。
ちなみに、彼女たちが身に着けている水着は、無駄にパックでダブりまくった人工魔道具の『マーメイドの水着』である。
この魔道具には水中での動きを補助してくれ、息を長持ちさせてくれるメインの効果のほかに、持ち主の望む通りのデザインに変化する効果もついていた。
ウチのカードたちが多彩な水着を着ているのはそのためだ。
無駄に十一個もダブったこの魔道具ではあるが、この景色を見ると『まあいいか』という気持ちになるから不思議だ。
それによくよく考えると、俺とアテナ、ニケ、メイドマスターのシルキーの分を考えるとそんなに数に余裕がなかった。
店にまとめ買いしに行くのも恥ずかしいし、パックで当たって良かったと思うことにしよう。
そんなことを考えながら目の保養をしていると……。
「マロ……凄いだらしない顔してるよ……」
いつの間にかやってきていた師匠が俺の顔を見てあきれ顔で言う。
師匠は、膝下まで隠れる大きな水着に、上はTシャツとパーカーというガチガチに肌を隠す格好をしていた。
だが俺はそれには触れずに。
「そう言えば師匠。この前ギルドパックを買ったんですけど、あの薬が当たったんであげますよ」
「お、ありがとう! アレもなかなか手に入りにくいモノだから助かるよ。えっと、定価で良いかな?」
「タダで良いッスよ。色々世話になってるんだし」
「そうはいかないよ。こういうのは親しき仲でもきっちりしとかないとね。何ならDランクカードとの交換にしようか?」
そう言うと、師匠はカードケースからカードの束を取り出して渡してきた。
とりあえず受け取り眺めていくが、いまいちピンとくるカードはない。
女の子カードも時折混じってはいるものの、この間のパックでDランクカードの種類がだいぶ増えたこともあり、俺のコレクターとしての欲を刺激するようなモノもなかった。
と、その時。
「お、メニアがあるじゃないッスか。これとか大丈夫ですか? 差額はお金で埋めるってことで」
「メニア? ああ、フェニアを手に入れたんだ。うん、良いよ。お釣りは要らない」
「師匠……自分でこういうのはきっちりしないとって言ってたくせに」
俺が呆れながらそう言うと、師匠はニコッと微笑み。
「需要と供給だよ。お金があってもいつも手に入るとは限らないモノと、一枚だけじゃ使い道のないカードとの、フェアな交換さ」
「……ま、師匠がそう言うなら良いですけどね」
この話題はデリケートな部分でもあるため、俺はそう言って引き下がった。
「それにしても、予定とは少し違っちゃったけど、ちゃんと合宿できて良かったよ」
「ですね。……俺の都合に合わせてもらっちゃって申し訳ないですけど」
俺はそう言いながら、この海の迷宮へとくることになった経緯へと思いを馳せた。
————昨日。夏休み八日目、昼。
俺たちは、アンナの呼び出しを受けて学校近くのファミレスへと集まっていた。
「この度は、私の不徳により、合宿の開催に多大なご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
一週間の勾留から保釈されてきたアンナが、開幕そう詫びて頭を下げる。
その顔は罪悪感とともに、一時の自由を得たことによる解放感に溢れていた。
もっとも彼女は一週間後に再び補習に拘束されることが確定しているのだが。
「というわけで! 次の補習が始まるまでの短い間ではありますが、合宿をしたいと思います!」
『おぉ〜!』
アンナの宣言に師匠と小夜がパチパチと拍手をする。
それをウンウンと頷きながら受け止めていたアンナが、ふと一人だけ拍手をしていない俺に気付き首を傾げた。
「それについてなんだが……」
俺はおずおずと手を上げ、言った。
「すまん、今回はちょっと俺参加できそうにない」
俺の不参加表明に、冒険者部の面々に衝撃が走る。
「ど、どどどど、どうしてッスか?」
「実は……」
動揺するアンナに、俺はモンコロレースに出ることになったことを伝えた。
「というわけで、すまん! どうしても賞品の零落持ちのサキュバスが欲しいんだ」
テーブルにゴンと頭を打ち付け詫びる俺に、アンナは「なるほど……」と頷くと。
「そう言うことなら、今回の合宿はいっそのこと、そのレースの対策に当てることとしましょう」
思わぬ提案に俺は目を丸くした。
「そりゃありがたいが……いいのか?」
「元々ウチのせいで計画自体グダってますからね。一週間じゃ海外遠征とかCランク迷宮攻略とかは厳しいですし……。むしろ適当な迷宮を攻略するより明確な目標ができた分、モチベーションが上がって好都合ッス! 皆さんもそれで良いッスか?」
アンナの確認に、師匠も織部も乗り気で頷いてくれた。
「もちろん」
「むしろそっちの方が楽しそうだ」
「おお! ありがとう!」
やはり持つべきものは仲間だと俺は感動に打ち震えた。
「できれば冒険者部全体で参加したいくらいッスけど、一般公募がもう打ち切られてるんじゃ仕方ないッスね。冒険者部代表として先輩になんとしても優勝してもらいましょう。とりあえず大会のルールについてからまとめてみるとしましょう」
〜基本ルール〜
・選手の数は全部で百名。その全員が三ツ星冒険者。使用して良いカードは、女の子カードのみ。
・選手は、合計三つのDランク迷宮を踏破し、その合計タイムを競う。
・選手はスタート時に一律十個の星とゴール時に着順に応じた『星』を貰える。
・一着は星を五百個、二着は三百個、三着で二百個の星を獲得できる。
・道中で他の選手と遭遇してしまった場合は、この『星』を賭けて勝負。『星』を失った選手は失格。
・星はゴール後に賞品のカードやお金に換金可能。最初に配られる星が出演料の代わりとなるわけだが、ゴールできなかった選手の『星』は換金不可。
・賞品を選べる順番は着順の早い方とする。同着の場合は、星の多い方を先着とする。
・タイムリミットは、一週間。万が一誰も完走できなかった場合、その時点で所有している星の換金に応じる。
・安全地帯を破壊するような行為の禁止(安全地帯付近での戦闘禁止)。刑事罰に問われる行為の上、番組側としても企画を中止せざるを得ないため賠償請求をさせてもらう。その他、窃盗・暴行など法律・公序良俗に反することは全般禁止。一発失格の後、通報。
・レース中に生じた選手のありとあらゆる損害は自己責任とし、番組はこれを補償しない。ただし、緊急時の救助要請は番組が行うモノとし、救助費や治療費は請求しない。
・イレギュラーエンカウントの発生が確認された場合は、レースを一時休止とし、アナウンスがあるまでその場で待機(最寄りの安全地帯への避難は可)。イレギュラーエンカウントの討伐及び、選手の救助は番組のプロ冒険者が請け負うが、プロが討伐を失敗したとみなされた時はその時点でレースを中止とする。
・やむを得ない事態によりレースが中止された場合、その時点で獲得している星一つにつき100万円の報酬を支払う。また、その時点で踏破階数の多い順に三名に星百個を別途支払うモノとする。
〜補足ルール〜
・レース中の魔道具の使用は基本的に自由とする。ただし、召喚系の魔道具は不可。
・ゴールまでのルートは最短ルートではなく、道中のチェックポイントを探し当て、通過しなくてはならない。チェックポイントを通過せずに、その次の階層へと移動してはならない。チェックポイントでは虚偽察知のスキルを使った不正チェックも行われる。
・チェックポイントは魔道具により隠されているが、各階層にヒントがちりばめられているので、まずはそれを探すべし。
・選手は一人一つ撮影兼不正防止用のドローンが配布される。このドローンを自ら破壊したり、相手のドローンを破壊した場合一発で失格。不慮の事故で壊れた場合は、すみやかに最寄りのチェックポイントで新しいドローンを貰わなくてはならない。
・三つの迷宮の内、二つはどの順番でクリアしても良いが、残りの一つは最後に踏破しなくてはならない。迷宮はそれぞれ、真昼の海と地下迷宮。最後の迷宮は二つを踏破してからの発表。
・他の選手と遭遇——互いの距離が半径十メートル以内に一瞬でも接触——した場合、三分以内に『闘争か逃走』を選択し運営へと送信。選択しなかった方は、自動的に逃走を選択したとみなされる。
・闘争を選んだ場合、星をいくつ賭けるかを同時に宣言。賭ける数が一つでも多い方は、場に最大四枚までのカードを出すことができる。数が少なかった方は、三枚まで。同数の場合は両者三枚。敗者は賭けた星を渡し、一時間その階層で待機。数が少なければ負けた時のデメリットも少ないが、戦いには当然不利となる。
・逃走を選択した場合、星を一つ渡すことで戦闘を回避することができる。ただし逃走を選択した側は一時間その階層で待機しなければならない。
・互いに逃走を選択した場合、または、互いの距離が50メートル以上離れた場合は、戦闘自体が回避される。十分間は同じ相手と接触判定が行われなくなる。
・互いに闘争を選んでおきながら階層を移動する、安全地帯やチェックポイントに逃げ込む、大きく距離を取るなど、戦闘が起きなかった場合、逃走したと判断される選手を敗北とする。
・闘争中以外に選手やカードに直接的に危害を加える行為をしてはならない。また、通路を物理的に塞ぐなどの妨害行為をしてはならない。
・レース開始一時間以内、及び各階層の安全地帯、チェックポイントでは、他の選手との接触判定は行われない。
・星は一個につき二百万円かDランクカード一枚で補充可能。購入可能地点はスタート地点と各チェックポイントにて。ただし、この方法で補充できる星は十個まで(所有する星の数が十以上の場合は補充不可)。
〜特殊ルール〜
・番組側からは時折特殊ミッションが発令される。
・ミッションの結果次第では、プロの冒険者がハンターとして放たれることも……。
〜バトルのルールについて〜
・戦闘に使用可能のカードは、デッキに登録された十枚のカードに限る。カードをすべてロストした場合はリタイア。
・勝敗は、降伏宣言か、先にダイレクトアタックを受けた方、及び召喚したカードが全滅した方を負けとする。またデッキ登録したカードが三枚を下回った者は、リタイアとする。
・冒険者保護のための防御用の魔道具は、最初に十個配られ、チェックポイントで補充される。万が一魔道具を使いきった場合、バトルは禁止。速やかに直前のチェックポイントに戻り、防御用の魔道具を補充しなくてはならない。他参加者に出会った場合、自分が防御用の魔道具を使い切っている旨を宣言し、相手に星を一つ渡してバトルを回避しなくてはならない。一度星を渡した相手には、次に防御用の魔道具を補充するまで星を渡す必要はない。
・冒険者同士の戦闘に遭遇した場合、これを妨害してはならない。また、負けて待機中の者に勝負を挑むことはできない。
・不正があった場合星をすべて没収の上、失格。
……零落スキル持ちのサキュバスは、星150個で交換できる。なので最低でも三着には入りたいところだが、交換が着順優先なので、確実に手に入れるためには優勝する必要があった。
「なるほど……あえて所々穴を作ってはあるようッスけど、基本的に問題なさそうッスね」
ルールを一読したアンナが言った。
「穴?」
「色々あるが一番は、冒険者が徒党を組んで連戦を仕掛けることを禁止していないところと、防御用の魔道具を失った冒険者は無条件で星を渡し続けなくてはならないところだな。優勝候補を潰すために波状攻撃的に攻撃を仕掛けてくるチームが出る可能性がある」
俺が首をかしげていると、織部が答えてくれた。
なるほど、敗者には一時間戦闘を挑むことはできないが、勝った相手に挑んではいけないとは書いてないからな……。レースでの勝利を諦めた相手を買収して、ライバルに嗾けるヤツが出てこないとは限らない。
続けて師匠が言う。
「さらに言うと、冒険者同士の戦闘に乱入してはならないとは書いてあるけど、迷宮のモンスターとの戦闘中に勝負を仕掛けてはならないとは書いてないね。Dランク迷宮だから六枚まで召喚できるわけだけど、モンスターの戦闘中にバトルを吹っ掛けられたら多い分は引っ込めなくてはいけなくなる。しかもモンスターは基本的に最初に交戦してた方を優先して攻撃する習性を持つからね。戦闘中の選手に挑むのはそれだけで有利だ」
つまり、モンスターと交戦中に仕掛けられたら三つ巴ではなく二対一になるというわけか。勝敗はダイレクトアタックとパーティーの全滅のみだから、ダイレクトアタックするのがモンスターだったとしても勝敗はついてしまう。
道中のモンスターならそれでも選択の制限時間内に始末できるだろうが、問題は主との戦闘中だな……。
「まあ深く読み込んでいけば他にも穴を見つけられそうッスけど、それは実践を通して先輩自身に見つけてもらいましょう」
「実践?」
俺が首をかしげると、アンナは自信満々に胸を張った。
「はい! 実際に、レースと似た環境の迷宮を使って、冒険者部でレースをやってみるんスよ。先輩は実戦形式で、先輩以外の部員は他の選手の想定ということで」
なるほど、それは面白そうだ。
「まずは海の迷宮からいくとしましょう! 今日は準備期間で、明日はウチが選んだ迷宮で現地集合とします! それでは解散!」
こうして、俺たちは冒険者だけの模擬レース合宿をすることとなったのだった。






