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モブ高生の俺でも冒険者になればリア充になれますか?  作者: 百均
第七章

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第9話 トレード③



「————さて、トレードに出す物も決まったことですし、いよいよガチャの時間ッスね!」


 それからしばし話あった結果。

 ペレのタパ。無限の大岩。無限の丸太。デメテルの大鎌。若返り、不老、復活系アイテム。銘有りの武具。異空間型カードのDランクカードと有用なCランクカード。カード化の魔道具。宝箱、宝籤、転移系のカード。

 以上のアイテムは残し、後は交換リストに載せてみることになった。

 ただし、それらのアイテムも有用な物が多いため、キーアイテム候補があった時のみトレードすることになった。


『蓮華』『ああ、準備はできてる』


 ウキウキと手をこすり合わせるアンナとキラキラと目を輝かせる織部を尻目に、さっそく一枚目を引く。

 ガーネットが砕け散る音と共に、宝籤のカードが変化した。

 その結果は――――。


「玄武、か。キープだな」

「そうッスね、絶対結界は疑似安全地帯に迫る性能がありますし、相手に渡さないという意味でも四神や四天王系は基本キープで良いでしょう」

「これで宝籤のカードでBランクが出るのも確認できたか。ガーネットの消費は大丈夫か?」


 織部の問いかけに、消費されたガーネットの数を数える。


「四十個だな。普通だな」

「ふむ、フェイズの影響は特に無しと」


 一通りの確認が終わったところで、二枚目を引く。

 現れたのは、北欧風の鎧を身に纏った光り輝くような美貌の青年。

 これは……!


「フレイッスか!」


 俺が反応するよりも前に、そう声を上げたのはアンナだった。

 フレイは、俺がアンナに渡したフレイヤの双子の兄だ。

 男女の双子の神は、アポロンとアルテミスのように二体一対系スキルである双神スキルを持つことが多く、このフレイとフレイアも例外ではない。

 しかもフレイは、妖精の国アルフヘイムの王としてアルフヘイムの展開と、エルフやドワーフを始めとする多種多様な妖精系の眷属召喚スキルを有する強力な異界クラスの異空間型カードとして知られていた。

 ふんふんと鼻息も荒くフレイのカードを凝視していたアンナだったが、やがてチラリと俺を見た。その眼は明らかに物欲しそうで……俺は苦笑するとフレイのカードを彼女に差し出した。


「ほら、これはアンナが持ってろ」

「ええ!? いいんですか!? この前もフレイアを貰ったばかりなのに、そんな受け取れないッスよ!」

「いや、そういうの良いから」


 口では遠慮するアンナだったが、その手はガッチリとフレイを掴んで離さなかった。


「フレイを一番活かせるのはお前なんだから、遠慮せずに受け取っとけ。しかも、おあつらえ向きに神のプライドも無いしな」

「えへへ、そうッスか? じゃあ遠慮なく! ありがとうございます!」


 ホクホク顔でフレイを受け取るアンナ。

 まぁ、これでようやく織部の黄泉津大神とも釣り合っただろう。

 そんなことを思いつつ、三枚目のカードを引く。


「ふぅむ、スクナビコナか」


 スクナビコナ。一寸法師の源流となった小人の神である。

 その権能は、酒・薬・温泉・呪術(魔法)・常世(冥界)・穀物・知識(知)・石など驚くほど幅広い。

 これだけの権能をもっていると普通はいくつか欠落するものなのだが、日本のスクナビコナはネイティブなだけあってそれらの権能をすべて兼ね備えていた。

 残念ながらあまり戦闘向きの神とは言い難いが、その汎用の高い権能の数々は、俺たちの日々の暮らしを助けてくれることだろう。

 特に酒と穀物の生産に特化した権能はウチに欠けているもので、温泉の権能もマヨヒガなどの異空間型カードのリソース節約につながることだろう。

 それを確認した上で、俺は悩ましい顔で二人へと問いかけた。


「うーん、どうする?」

「悩ましいところですね……できればキープしてウチで使いたいところですが」

「ここまですべてキープしているからな。この調子で出たカード全部キープしていたらトレードに出すカードが一枚もないまま終わりかねん」


 織部の懸念に、頷く。

 Bランクともなると、さすがに有用な物が多く、ついついキープしがちとなってしまう……。ここからは少しシビアに判断する必要があるだろう。


「とりあえず保留だな。他にトレード用にちょうど良いのが出なかったらトレードに出すということで」


 二人が頷いたのを確認し、四枚目のカードを引く。

 そうして現れたカードを見て、俺は思わず目を見開いた。


「ッ……! メルクリウス……!」


 古代ローマ風の衣装を身に纏った中性的な容姿の少年、あるいは少女の描かれたカード。

 それを見た二人も俺同様に歓声混じりの驚きの声を上げる。


「メルクリウスといえば、ローマ版ヘルメス!」

「商業神か!」


 そう、メルクリウスはローマ版のヘルメスと言うべき存在であり、ヘルメス同様、商業神としての権能を有していた。

 その名は、 商品、財貨に由来するとされ、商業神としての側面はむしろヘルメスよりも強い。れっきとした商業神であった。


「おおお! これでウチにも商業神さまが……!」

「これは絶対にキープだぞ、先輩!」

「ああ! わかってる!」


 念願の商業神のカードに俺たちも大興奮である。

 これで魔石さえあれば、アンゴルモア前の品も手に入るようになったのだから、当然である。

 気分的には、これ一枚でここまでのガーネットすべての元手が取れたような感じだった。

 これはもう、ここまでのカードはタダだったと考えても良いのでは? つまり、ここから四回引いても実質タダ……?(ギャンブラー特有の思考)

 俺は目をグルグルさせながら、五枚目のカードを引いた。

 そうして現れたのは――――。


「ヘカテー……だと!?」


 まさかの三枚目の月の三女神であった。

 ここで、メアの霊格再帰先のカードが来るとは……! これは、メアをランクアップしろということなのか?

 あまりに意味深なカードに、俺が『蓮華の中のナニカ』の関与を疑っていると……。


『マ、マスター。少し良いですか?』


 ふいにユウキがそう声を掛けてきた。


『どうした?』

『もしかしたらなんですが、そのヘカテー、ボクの真眷属召喚で取り込めるかもしれません』

「なにッ!?」


 思わず声に出した俺を見て、ヘカテーのカードを興味深げに覗き込んでいたアンナと織部が何事かと振り向く。


「どうしました?」

「いや、ユウキがこのヘカテーを真眷属召喚で取り込めるかも、と」


 俺の言葉に二人は顔を見合わせる。


「真眷属召喚って、同種族を取り込めるスキルでしたよね」

「アルテミスのユウキがヘカテーを取り込めるということは……二体一対系カードも対象というか!」


 その可能性がある、と頷く。


「しかし、こう言ってはなんだが……三相女神を真眷属召喚で取り込んでもあまり意味は無いような……」


 織部がやや気まずそうに言った言葉で、俺も若干テンションがダウンをした。


 三相女神の最大の特長は、三枚召喚しても一枚分しか枠を使わないこと。真眷属召喚は元々枠を使わないので、この特長が相殺されることになる。

 一方の真眷属召喚の特長は、眷属がロストしたとしても一日経てば復活させられることだが、三相女神は生命力を共有するため、眷属が死ぬ時は本体も死んでいるということで……。

 もちろん、その時の復活コストはユウキ一枚で済むため、そういう意味では三相女神を真眷属召喚で取り込む利点は大きい。

 が、やはり二体一対系スキルの利点と真眷属召喚の利点が被ってしまうことは否めなかった。

 せっかく、ここにきて真眷属召喚の株が急上昇したかと思ったが、やはり真眷属召喚は不遇、か?

 いや、待て。真眷属召喚には、もう一つ疑惑があったな……。

 猟犬使い事件の際の大量のアヌビスは、『真眷属召喚で召喚した眷属をカード化の魔道具でカード化した物なのでは?』という疑惑が。

 ユウキがライカンスロープの頃はカード化の魔道具が自由に使える状況ではなく、自由に使えるようになった時にはアルテミスにランクアップしてしまっていたため、これまで検証できずにいたが……それを検証する絶好の機会か?

 いや、待て、早まるな。このヘカテーは、メアのランクアップ用に『蓮華の中のナニカ』が俺に遣わした可能性がある。であれば、メアにはAランクへの霊格再帰の余地があり、それを開花させられなければ俺が危機的状況に陥る可能性もある……。


「……保留、だな。今は判断つかん」


 とりあえずこのヘカテーはキープだな。もちろんトレードには出さん。

 というわけで、六枚目のカードだ。Aランクへのキーアイテムとなると、Bランクカードであっても二枚は欲しい。アタリが続いて有難くはあるが、そろそろトレード用のカードが来て欲しいところだが……。


「……アンドロマリウス、か」


 現れたカードを見て、俺はまたも頭を抱えることになった。

 アンドロマリウス。ソロモン七十二柱の中でも、詐欺や不正を発見し、盗人を捕らえて盗品を取り戻す、という正義よりの権能を持つ悪魔だ(もちろん悪魔らしく自身も窃盗の権能を持っているが)。

 その権能は、学校内の治安を保つのにも活躍してくれることだろうが、俺が悩んでいるのはその権能故ではなく……。

 

「これまた悩ましいカードが来ましたね。ここまで出たカードの中ではトレード最有力候補ではありますが……」

「ソロモン七十二柱は有用すぎる。トレードに出すこと自体が不自然となるぞ」

 

 これがソロモン七十二柱であること、それが問題であった。

 ソロモン七十二柱は軍団召喚スキルに加え、魔石次第でズブの素人でも扱えるというBランクカードの中では比較的扱いやすいこともあって、この状況下ではまずトレードの場に出てこないカードだ。

 俺が想定していたトレード用のカードというのは、「神のプライド等のせいで相性がウチでは悪くて使いこなせない」か「戦闘向きではなく権能がすでにあるカードと丸被り」のどちらかであり、魔石次第で誰でも使えるアンドロマリウスはそれに当てはまらない。

 相手がつい先日まで謀略を仕掛けてきていた相手というのも相まって、よりトレードに出すのは不自然だった。


「……これも保留だな」


 他に有用なカードが出てこなかったら、あるいはキーアイテムがあったらの交換にするとしよう。

 しかし、次で七枚目か。貯めてあったガーネットの半分近くを使いきる計算になる。

 まさかこのまま全部使いきることにはならないよな……?

 そんな微かな不安を頂きつつ引き当てたのは――――。


「バッカス! 良し! ようやくちょうど良いのがきた!」


 バッカス。ローマ神話における酒の神だった。


「あまり戦闘向きではなく、その権能もウチら学生が軽視してもおかしくない酒造。ようやくトレードに出してもおかしくないのが来ましたね!」

「これでスクナビコナは残せるな。実は、温泉の権能には密かに期待しておったのだ」


 二人の言う通り、バッカスならトレードに出してもおかしくないし、これでスクナビコナも残せる。本当にちょうど良かった。


「とりあえずこのバッカスと魔道具のリストを見せて、トレードを持ちかける。アンドロマリウスを出すのは、リストにキーアイテム候補があり、対価が足りなくなったら……ってことで良いよな?」


 俺の言葉に、「異議なし」と二人が頷き返す。

 良し、決まりだな。いやぁ、なんとか半分くらいでちょうど良いのが出て良かった。

 と残ったガーネットを片付けていると、ふとアンナが思い出したように問いかけてきた。


「そう言えば先輩はディアーナもお持ちでしたよね? そちらはトレードには出さないんですか? あれこそアルテミスと権能が丸被りで、トレード用のカードだと思うんスけど」

「ああ……ディアーナか」


 そう言えば、それがあったか、と思い出す。

 完全に意識から外れていた。……アレは師匠に、と思っていたからな。

 フレイヤをアンナに、黄泉津大神を渡すとなった時に、当然の如くディアーナは師匠へと考えていた。

 ディアーナは、師匠の相棒であるジャネットの種族であるアラディアと神話的に強い繋がりがあり、当然そのスキルも高いシナジーがあるためだ。

 残念ながら、俺が星母の会と手を結ぶと言って以来、会えず仕舞いでいるため渡せずにいるが、師匠にディアーナを渡すという意思は変わっていなかった。


「ああ、まぁ、とりあえずキープしとく」

「……そう、ですか」


 とはいえ、なんだか師匠とはわだかまりがあるっぽいアンナにそれを言うのは何となく言い辛い。

 なので、曖昧に濁すと、アンナも深くは突っ込んではこなかった。

 ディアーナは、俺のカードであり、それをどう扱おうと俺の自由だからだろう。

 ……しかし、一瞬、ほんの一瞬だけ。

 いつも明るく光るその瞳が、深く暗く、ドロリと濁ったような……。


「さて、ギルドの方々も結構待たせてしまっていますし、そろそろ行くとしましょうか」

 

 そう言うアンナは、いつも通りの快活なもので……。

 俺が気のせいだったのか、と思いかけたその時。


「「「ッ!?」」」


 ドクリ、と何かが頭に流れ込んできた。

 まるで走馬灯か何かのように一瞬で脳裏を駆け巡るそれは、小良ヶ島へと派遣した分身の記憶だった。


「ま、マジかよ……」


 今、島がどうなっているのかを知った俺は、強い眩暈に襲われ膝から崩れ落ちた。


「ユージンさんが……」


 床に手をつき、呆然と呟く。


「ユージンさんが、レイナと結婚して……子供まで出来てる、だと?」


 七年という歳月は、童貞の俺では到底太刀打ちできぬ領域までユージンさんを押し上げていたのだった。


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