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Destino―栞:Side―  作者: 一二三六
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5話「またとないチャンス」

 12月17日(金)


 私は気持ちを新たに、学園生活2日目の朝を迎えていた。昨日仲良くなったしずかちゃんたちと共に登校し、私たちは教室へと入っていく。すると、そこには思いもよらない意外な光景が私の目に入ってきた。『あの』れんが私よりも先に教室に来ているのだ。たしか、私の記憶の中の煉は朝が弱く、休みの日もお昼近くまで眠っているイメージだったのに。もしかして、朝が大丈夫になったのかな……と思ったのだが――


秋山あきやまくんって、いつも早い時間に来てるの?」


 朝会が始まるまでの時間、私は静ちゃんの席にたむろしてお喋りしている時、そんなことを訊いてみる。


「え、いやー? 来る時間はまばらだけど、だいたいはもっと遅い時間だね。今日はたまたま早く来てたんじゃないかな?」


 どうやら私の思い過ごしだったようだ。その言い方から察するに、おそらく朝が弱いのは変わってないみたい。


「あっ、そうなんだ」


 そんな事実に安心してしまう私がいた。それはやっぱり『昔の煉』の面影が見えてきたからだろう。変わるところがあれば、やっぱり変わらないところもある。それが私との『繋がり』みたいなものが見えてきて、嬉しかった。


「――岡崎おかざきさん、ちょっといいかしら?」


 そんな喜びを1人で噛み締めている時、藤宮ふじみやさんが私たちのところへと来て、そう話しかけてくる。いつもの真面目そうな感じで、その雰囲気から何か業務的なことなんだと察する。


「あ、藤宮さん、何?」


「クリパの事なんだけど、岡崎さんは仕事、何にする?」


 藤宮さんは私の予想通りで、クリパのことを訊いてきた。クリパのことと、このクラスの出し物は既に静ちゃんから聞いていた。転校してきた私はどうするんだろう、と思っていたけれど、一応希望は取ってくれるようだ。


「え、えっとー……う、受付、かなっ?」


 出し物の内容が内容なので……私は一番安全そうな役割を立候補する。そもそも、私がおどろかす役をするのは絶対にムリだと思う。だってあの薄暗く、不気味な空間に私がいるのを想像しただけで、今も恐怖心で震えるぐらいだから。とてもじゃないけど、その役はできそうにない。


「そうね、今から衣装を作り始めるのは大変だし、受付なら制服でも大丈夫だから、それがいいかもしれないわね」


「あ、うん、それでお願いします……」


 幸いにも、そんな理由のおかげで私はなんとか『アレ』の役をまぬがれることとなった。みんなにバレないように、私は心の中でホっと一安心する。


「うん、わかった。それで仕事の担当時間のことなんだけど、23日は人手は間に合ってるからいいんだけど、24日は出てほしいの。前半と後半のどっちがいいかって、希望はある?」


「あれ、25日はないの?」


 静ちゃんたちに聞いた話では、クリスマスパーティーは3日間開催されると言っていたので、藤宮さんの言葉に疑問を持ち、そんな質問を投げかける。


「あー25日は自由登校なの。もう冬休みに入ってるから、出店もやるクラスとやらないクラスがあるの。だから私たちのクラスはやらないってわけ」


「へぇー」


 ここでもやっぱり『本番』の25日は軽く扱われているんだなーと感じてしまう。本来ならその日がクリスマス本番で、大事な日なのに。そんなちょっと面倒くさいことを考えてしまう私がいた。


「で、希望はある? ちなみに石川いしかわさんたちはどちらも前半になってるけど、一緒にする?」


「あ、そうだ栞ちゃん! 後半にしなよ!」


 特にこだわる理由もなかったので、その藤宮さんの提案に乗って同じにしてもらおうとした時、横から入って、静ちゃんがそう提案してくる。


「え、どうして?」


 それだと24日は休憩時間がズレて、一緒に回れなくなってしまうのに、そんなことを言う静ちゃんの意図がよくわからなかった。


「ねえ、藤宮さん。確か煉くんって担当後半だったよね?」


 そんな困惑している私をよそに、静ちゃんは藤宮さんにそんなことを確認する。その『煉』という言葉が出てきたことで、さっきの発言を加味すると、なんとなく静ちゃんの思惑が読めてきた。


「え、ええ。そうね」


「一緒に回ればいいじゃん!」


 やっぱり。静ちゃんは私の予想通りの答えが返ってきた。たしかに私もできることなら、煉と一緒に回りたい。でも――


「で、でも……秋山くんにも予定あるかもよ?」


 これは煉にも関係のあることだから、私たちだけで勝手に決められるようなことじゃない。もう既に誰かと回る約束をしている可能性だって、ゼロではないのだから。そこが私の不安要素だった。


「大丈夫、私がうまく言っておくから」


 それに対して、自信満々にそう答える静ちゃん。それだけ自信があるということは、よっぽど何か秘策があるのだろうか。


「そ、そう?」


 その得意げな顔に、私はちょっと賭けてみたいな、なんて思う気持ちがあった。私としては煉と一緒に回りたい。だから、すがれるチャンスはすがっておきたい。


「23日は私たちと一緒に回ろうよ!」


「じゃあ後半に仕事を担当で、決まりね?」


「うん、それでお願いします!」


「了解! あ、後、急な話になるけど、明日は土曜日だけど、学園来てね。クリパの準備があるから」


「わかった。時間はいつもどおりでいいのかな?」


「ええ、それで大丈夫だから。じゃあ、よろしくね」


 藤宮さんは用件を済ませると、そのまま自分の席へと戻っていった。そのタイミングでちょうどチャイムがなり、私も同じように自身の席へと戻っていく。まだ確定ではないけれど、煉との、言ってしまえば『デート』ができるチャンスがやってきた。

そのことに少しテンションが上り、気分が高揚している私がいた。でも、私たちの関係はまだ『サイアク』な状態。クリパまでの間に、関係を修復していきたい。仮にできなかったとしても、その当日がきっかけとなって、仲良くなっていければいい。そのためにも、今は準備が必要。そんなことを思いながら、私は意識を朝会へと戻していくのであった。

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