31話「私と煉と映画」
1月24日(月)
昨日に続き、今日は予め約束していた映画デートの日だ。私はもう今すぐにでも煉に会いたくなっていた。だから、待ち合わせの時間には少し早いけれど、もう家を出て待っていることにした。もちろん、煉が早く来る可能性はないけれど、でも待っているのもなんか『彼氏を待つ彼女』みたいでいいかなって思えてきてしまう。なので、私は早い時間に待ち合わせ場所へと着き、煉を待っていた。待ち合わせの時間にはまだだいぶ早いから、結構待つことになるかなと思っていた。でもその予想に反して、遠くから見覚えのある、会いたかった人がこちらへとやってくるのがわかった。
「やっほー、し……お、岡崎!」
手を挙げながら、そんな感じで挨拶をする。でもどこかその挨拶が、ちょっと変だったのにが気にかかる。
「あっ、やっほー煉! 早いね」
「岡崎もな。どうする? バスあったっけ?」
両者とも揃ったはいいけれど、映画やバスは時間が決まっている。だから早く行っても、バスがあるとは限らないし、映画もまだ入れるまで時間があいてしまう。
「んーなかったらなかったで、適当に時間潰せばよくない?」
でもそんな時間だって、私には幸せな時間だ。だからそれが始まるまで待っている時間だって、全然苦じゃないし、むしろ楽しい時間だ。なので、私は煉にそんな提案をする。
「ああーそれもいいかーんじゃ、とりあえずいってみっか」
そんな無計画な感じで、私たちはビル街へと向かうことになった。もちろん自然な流れで手を繋いで、バス停へと歩いていく。それはもう、学園とかでも繋いじゃうんじゃないかと思えるほど、自然で当たり前となっていた。だからそうなった時が、ちょっと怖いななんて思いつつ、でも煉とのこの幸せに中毒のようになっている私もいた。
「楽しみだね、映画!」
そんなことを思いながら、これから行く映画の話をしてみる。静ちゃんにチケットをもらったからとはいえ、今日みるこの映画自体にも私は興味があった。
「そうだねーこれ結構CMとかで宣伝してるから気になってたんだよねー」
煉も私と同じようで、どこか楽しみにしている感じだった。
「そうそう、私もそのCM見て、見たくなったんだー!」
その映画の宣伝もいっぱいされていて、どのワイドショーでもこの映画のことを話題にしているぐらいだった。だからその宣伝が私の目に触れる機会が多く、その刷り込みみたいな感じで話の展開が気になってしょうがなかった。
「あーいうCMって、コマーシャルだから当たり前なんだけど、魅せ方がウマいよねー」
「あ、わかる、それ! すっごく内容気になる作りだよねーホント、楽しみー!」
それからずっと煉とそんな映画の話題で盛り上がっていた。バス停でのバス待ち、バスの中、映画館に着いてから、ずっとその話題で、見る前からかなり映画のハードルが上がっていた。そして私たちは受付でチケットを渡して、指定の部屋へと入っていく。もう後数分で、上映が開始される。私はそれが待ち遠しくて仕方がなかった。そんな感じで期待に胸を膨らませつつ、私たちは映画始まるのを待っていた。
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そしていよいよ室内の照明が落ちて、暗くなっていく。まず最初に他の映画作品のCMがいくらか上映された後、ついに本編がスタートする。映画は王道の高校生同士のラブストーリーで、シチュエーションや登場人物の設定なんかはベタなものだけれど、それでもストーリーが私たちを引き込んでいく。どこかせつない感じで、でも甘いイチャイチャシーンも織り交ぜていたり、そのバランスが絶妙だった。また魅せ方も、演出もうまくて、ついついその登場人物に感情移入してしまう私がいた。直球な青春映画で、みんなが推しているのもわかる作品だった。そしてラストシーンでは感動の告白シーン。ここまでの積み重ねてきたものがあるからか、とてもそのシーンが感動してしまう。あぁ、やっぱり青春っていいなぁーなんて思うような、幕引きで映画は終わりを告げる。
「……よかったね……」
それから室内が明るくなり、私は煉にそんな感想を述べる。あまりにも感動して、ちょっと涙目になっていた。
「ああ、すごい感動する作品だったね」
煉も煉で、満足した作品だったみたいで、私と同じように感動している感じだった。そんな映画の余韻を味わいながら、次の映画が始まるのを待っていた。この映画は2作品の同時上映なので、自動的に次の映画も見ることになる。今は休憩時間で、私たちは特にお手洗いに行く用もなかったので、そこに座ったままさっきの映画の感想を言い合ったりして、次を待っていた。
「――そろそろ、次始まるね」
そしてしばらくして、照明が暗くなっていく。
「うん、そだね」
そしてその次の映画が始まった。だけれど、その中身はさっきの映画の感動をぶち壊すような……言い方は悪いけど『最低』の作品だった。中身はお笑い重視の映画であるけれど、その肝心な『笑い』がスベってしまっている。それにさっきの感動ものの次に、これは噛み合わせ……というのか、それがあまりにも悪すぎる。どうしてこれが同時上映になっているんだろうと、ホント不思議なくらいだった。そのあまりにも退屈な内容に、私の脳がボケーッとなっていくのがわかった。まぶたが重くなっていき、ゆっくりとゆっくりと頭が船をこいでいく。終いには――
「――岡崎、起きろ。もう終わったぞ」
それからどれぐらいの時間が経ったのだろうか、遠くから煉の声がしてくる。そして頭が揺れるのがわかった。
「……ん、ふぇ……?」
それで徐々に意識が戻ってきて、私は目をこすりながら辺りを確認する。
「もう行くぞ、岡崎」
ここは映画館、そして照明が明るくなっている。そして煉のその言葉。これから導き出される答え、それは――
「えっ!? もうしかして寝てた? しかも……」
たぶんあまりにもあの映画が退屈すぎて、眠ってしまっていたんだ。しかも、あの時に感じていた頭の感触、あれはきっと……煉の肩だ。だから無意識のうちに、私は煉の肩で眠ってしまっていたんだ。その事実がわかってくると、途端に恥ずかしくなってきてしまう私がいた。
「ようやく起きたか。ほら、早くしないと次始まるから、行こう」
「あ、うん、ごめんね。なんか……いろいろと……」
ちょっと申し訳なくなってしまう私がいた。きっとずっと私の頭があって大変だったろうし、たぶん体勢とかも辛かったと思う。
「いいから、いこうぜ」
そんなこと気にしていないよ、と言わんばかりの顔で、席を立つ煉。
「あっ、うん」
私はとにかくここから出ないと、と思って私も煉について席を立ち、部屋から出ていくことに。でもそんなことがあったから、2人の間にはなんとなく気まずい感じになっていた。そんな折、当たり前のように煉は私の手を握り、何も言わずに私をどこへと連れていくようだ。これからの予定は何も決めていないので、何をするにもそれは自由。だからたぶん煉がどこかへ連れてってくれるのだろうと、勝手に憶測を立てていた。そんな男らしい煉にキュンときつつ、私は煉に連れられるがままデートを続けていた。




