22話「やっぱりキミが、好き」
神社には尋常じゃないぐらいの人で溢れかえっていた。一応は深夜だというのに、割りと小さい子もちらほら見受けられた。まずお参りするために、神社の方へと向かっていく。でもやっぱりそのごった返した人の圧迫感によって、気分が悪くなってきてしまう。
「岡崎、大丈夫か? やっぱり、帰るか?」
そんな様子に気づいた煉は心配そうな顔をして、私を気遣ってくれる。
「大丈夫、私は気にしないで! ほら、だったら早くいこ!」
私はそんな煉にムリして笑顔を作って、大丈夫そうに装う。新年早々、私1人のわがままでみんなに迷惑をかける方がよっぽど嫌だから。私はそう言って、煉を急かす。
「お、おう」
それから私は煉の隣に立って、我慢しながらお参りの列に並んでいた。やっぱり煉が隣にいてくれると、少し安心してくる私がいた。それから煉は私に気を遣って、他愛もない話をして気を紛らわせたりしてくれた。その優しさに煉に感謝しつつそのおかげか、気がつくともう賽銭箱の前にまで来ていた。いよいよ順番が回ってきて、みんな賽銭を入れて手を合わせて祈る。
『煉ともっともっと仲良くなって、ゆくゆくは恋人関係になれますように。そして出来ることならば、煉の記憶が取り戻せますように』
と図々しくも2つのお願いをしてみる。今のこのご時世、こういうのは迷信としか思われていないけれど、チャンスがあるならすがってゆきたい。この間の、静ちゃんたちとした魔術みたいに、当たれば儲けものって感じの心構えでいいと思う。だって結局のところ、願いが叶ったとして、それをそれら迷信めいたものたちのおかげだということは科学的に証明できないのだから。
「――みんな、なに願った?」
そんなことを思っていると、ニヤニヤした感じでさっそく願い事の中身を訊いてくる木下くん。
「秘密よ、いったら叶わなくなるもん」
「私も……一緒かな」
それに諫山姉妹はそんな古めかしい風習を縦にして、願い事の内容を秘密にした。でもそういう時はたいていそのお願い事が人に言うのが憚られるような内容だったりするんだろうな。
「私も……」
かくいう私なんかはまさにそれで、しかも当の相手がすぐ目の前にいることもあって余計に内緒にしなければならないので、2人に合わせることにした。
「俺は家族の安全祈願を……そういうお前は?」
煉は言っても支障がないごく普通のお願い事だったからか、普通に願い事を明かしていた。
「まあ、俺も秘密だけどな」
対して訊いてきた本人は男らしくなく、秘密にするようだ。木下くんのことだし、また何かいやらしいことでもお願いしているのだろう。神の御前で、どんな卑猥なことを祈ったのだろうか。逆にバチが当たりそうだ。
「じゃあ、訊くなよ……」
それから私たちはおみくじをすることとなった。1年の最初の運試し。巫女さんからもらったおみくじを、私はドキドキしながら開いてみる。すると――
「わぁー大吉だ!」
とちょっとテンションが上ってしまう私がいた。大吉なんて人生で初めてだったし、1年の初めから幸先がいいな、なんて思っていた。
「あ、俺も大吉だわ」
どうやら煉も同じ大吉だったようで、私と同じでちょっとした小さな幸せを感じていた。でも、煉は運がいい人みたいだからか、私ほどたいした驚きはなかった。それから私は自分のおみくじの中身を見ていくことにした。そこには――
『恋愛:信じることで結ばれる。
待ち人:想い続ければ来る。
失せ物:程なく出て来ます。
学問:安心して勉学せよ。
病気:全快す。』
と言った具合で内容が書かれていた。その中でも特に気になるのは『恋愛』の『信じることで結ばれる』という項目だった。もう既にそれ自体が半信半疑だけれど、せっかくの大吉なんだし、信じてみようかな。
「はーあ、お前はこんなところでも運がいのかよ……」
そんなことを考えていると、木下くんがぼやくように煉に嫉妬していた。どうやら木下くんは『凶』だったようで、羨ましがっているみたいだ。
「たまたまだよ、それよりお前は厄落とししたら?」
「そうだな、ちょっと行ってくるわ」
そう言って木下くんは人混みの中へ消えていった。そして同じように諫山姉妹のおふたりも、出店の方へと行ってしまう。みんなが空気を読んだ、というわけではないけれど、こうして偶然にも2人きりの状態ができあがった。
「――あ、そうだ岡崎。さっきは悪かったな」
そんな時、なにか思い出したように『あのこと』を謝ってくる煉。
「あっ、ああ、あれは気にしてないよ……」
それで忘れかけていたあの感触が再び思い起こされてしまい、恥ずかしくなってしまう。
「あっ、そのー……ゴメン……」
そんな私の様子を見てか、再び私に謝る煉。
「あっ、あのさ……ありがとうね」
それにむしろ私は煉に感謝の言葉を述べる。
「えっ?」
「わざと口からずらしたでしょ? 後、人混み心配してくれたし」
ホントの事を言うなら……口でもよかったんだけど……なんちゃって。でもそれはやっぱり私を思ってくれて、してくれたこと。煉の優しさだ。
「あっ、ああー友達でもキスはマズイでしょ、やっぱ」
「うん、そうだね。これからどうする?」
「岡崎は大丈夫なのか? ヤバかったら帰るぞ?」
さっき言ったからか、それとも変わらず気にしてくれていたのか、煉はそんなことを言って私を心配してくれる。
「ホントに大丈夫だから。でも優しいね……煉くんはホントに……」
その煉の限りない優しさに、私はしみじとそんなことを煉に言ってみる。それと同時に私の脳裏には、初めて煉と会ったときの記憶が呼び起こされていた。イジメられていた私を救い出してくれた煉。ヒーローのようにカッコよく、でも優しく私を守ってくれた煉。やっぱりそんなところは変わってない。そんな煉がやっぱり私は好きだ、大好きだ。
「や、そんなことないって……俺はこれぐらい普通だと思うよ」
「でも、それが私にとっては優しいんだよ……」
それが私が煉を好きになった理由と言っても過言ではないのだから。そんなことを思いつつ、私の褒め言葉に照れている煉を、私は優しく見つめていた。そしてそんな照れを隠すように、煉は出店を見て回ることを提案してきた。私はそれに何も異を唱えず賛同し、一緒に並んで歩いていく。でも相変わらず私のことを気にかけてくれて……そう時間がかからないうちに帰ることとなった。




