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暗殺が得意な佐藤くん  作者: 砂糖
3/7

放課後にて

3話目です。

今回は会話文が長くなってしまいました。

 今日は龍門寺高校に転入してから2日目だ。

 今朝はもう既に生徒が何人か登校していた。

 一通りの授業を受け、クラスメイトと話しをして放課後を迎えた。

 しかしそう平穏には行かず、今日は予想外の出来事が起こった。

 HR中に放送が入り、俺の名前が呼ばれた。

 『1年5組佐藤くん、生徒会室まで来てください』

 クラス中の視線が俺に注がれた。

 可笑しい。

 生徒会室に呼ばれるような事、俺に心当たりが無いぞ。

 「佐藤くん、今から行っても良いわよ」

 担任から許しを得、俺は一足先に教室を後にした。



 目の前にあるのは生徒会室のドア。

 校内を右往左往してようやく発見した。

 この学校の造りはシンプルだが、かなり広い。

 そんな事よりもまずは生徒会室に入らなければ。

 深呼吸を1つ。

 ドアを3回ノックした。

 「どうぞ」

 中からは女性の声。

 「失礼します」

 生徒会室へ入ると3人の人物がいた。

 いずれも女子のようだ。

 会議用の大き目の長い机が1つ置かれており、俺から見て正面の奥の議長席に1人、そして奥の方の椅子に左右1人ずつ座っている。

 「何か御用でしょうか?」

 「ええ。そこの椅子にかけて」

 「はい」

 ドアに1番近い席に座った。

 「初めまして、佐藤悠希くん。私はこの学校の生徒会長の加藤(かとう)由奈(ゆな)です」

 「はぁ。初めまして」

 「そして、私の右に座っている子が会計の鈴木陽菜(すずきはるな)。左に座っているのが書記の井上(いのうえ)翔子(しょうこ)よ」

 「よろしくです」

 「よ、よろしくお願いします」

 2人が自分なりに挨拶をしてきた。

 どうやら鈴木という子は初対面の人間と話すのが苦手なようだ。

 「こちらこそよろしくお願いします」

 「ちなみに、私と井上さんは2年で鈴木さんは1年なのよ」

 なるほど、2人は俺より1学年上か。



 コホンと、加藤さんが咳払いをした。

 「ところで、転入テストの結果拝見しました」

 「そうですか」

 「そこで、我々生徒会一同よりあなたにお願いがあります」

 一体何なのだろう。

 面倒ごとは嫌いなのだが。

 「是非、生徒会に入ってくれませんか?」

 「突然ですね」

 「少々事情があり我々も切羽詰まっているの」

 「詳しく聞かせて貰えますか?」

 「我が校の生徒会は元々生徒会長が1人と副会長、会計、書記が2人の計6人で構成させるものなのですが、少々不祥事があり会計と書記と副会長が1人ずつ免職になったのよ」

 「不祥事?」

 「文化祭の売り上げの横領よ。当時の会計を中心に書記と副会長が加担し、学校側はその処分として3ヶ月の停学と生徒会からの除名を宣告したの。つい2ヶ月ほど前ね」

 「なるほど」

 「この一連の事件は学校内で大騒ぎとなり我々生徒会のイメージが激減したわ」

 加藤さんは悔しそうに下唇を噛んでいる。

 「それでこの時期に転入してきた俺に頼ってきたって事ですか」

 「ええ。あなたは以前の学校、京都第一高校で生徒会長だったと聞いたわ」

 「…その情報はどこから?」

 「校長よ」

 生徒会室に重い空気が流れる。

 「これは俺の予想ですが、今期中は俺を起爆剤として生徒会を再び持ち直し、来期は俺を生徒会長へ推薦するつもり、では無いですか?」

 「ええ。その通りよ」

 「残念ですがこの話、お断りします」

 「そこをなんとかお願い出来ないかしら?」

 加藤さんは本当に生徒会を立て直したいようだ。

 だが俺はもう生徒会長なんぞになりたく無い。

 「俺が以前の学校で何をしようとしたか知ってますか?」

 「いえ」

 「ならば説明しましょう。会長、京都第一高校にはどんな印象を抱いてますか?」

 「この高校を遥かに上回る進学校、ね」

 「そうです。少なくともマイナスのイメージは無いはずです。ですが、内情は腐ってますよ。あの学校は教育理念の1つに『生徒による自治』を掲げています。つまり、生徒たちが何もかもを決定する事が出来るのです。その生徒たちの中心は生徒会です」

 「そんな学校が実在するの…?」

 3人が驚愕の表情を浮かべている。

 「残念ながらします。生徒会は主に会長、副会長、書記、会計で構成されます。人数はどれも1人です。そしてそのメンバーは必ず成績の上位者から選出され、生徒会に入る権利が与えられます。大体は全校順位で15位以内で決まるようですね。役職等はこの学校と大体は同じでしょう。しかし、各委員会、生徒会とは別に独立した『監査委員会』があります。この機関は5人で構成され、主に生徒会並びに各委員会による不正を防ぐ為に公正な機関として設立されました」

 「不正? 一体どんな不正があるのですか?」

 「主に賄賂ですかね」

 「賄賂ですか…」

 みんな俺の言う事が信じられない様子。

 しかし俺は事実のみを述べる。

 「続けますね。しかし、監査委員会はとっくに生徒会に飲み込まれ、その存在意義は失われていました。話が変わりますが、生徒会は前期と後期の2期制で、1年生は入学した年の後期から生徒会に参加する事が出来ます。その前期の間、俺はあの学校の実態を垣間見ました。校則の一部に『①この学校に属する如何なる人物は生徒会へ月に一定額を納めなければならない。②購買の売り上げの5%は生徒会へ納めなければならない。③生徒会及び部活動及び各委員会の予算の采配は生徒会に一任される。④上記の校則の決定権は生徒会に委託される。⑤尚、生徒会の権限は全て生徒会長に帰する。⑥上記の違反者には裁判を科す』と書かれていました」

 「狂っているわね…」

 「各期の終わりに全校統一テストが実施され、約1週間後に全校生徒の順位が発表されます。そのテストで俺は1位を取り、生徒会に入る権利を得ました。俺はこの腐った環境を改善したいと考え、迷わず生徒会長を選択しました」

 「あの京都第一高校で1位!? あなた今1年生だよね!?」

 「努力が実っただけですよ」

 「本当に凄いわね」

 「続けます。就任式の日に2、3年生からは批判の目を受けました。ですが、俺の目的はこの環境をなんとかする事です。なので早速改善する為に動きました。校則には『生徒会の権限は全て生徒会長に帰する』と書かれているので、大抵の無茶は融通が利きます。そこで俺はまず、お金を納めることを廃止しました。これにより一般生徒からの俺の株は右肩上がり。ですが、成績上位陣からは批判を浴びました。そして次に年度末に行われる予算の分配の公平性を確認したところ、見事に真っ黒にでした。記録されたやり取りを見ると、少しでも予算が上がるように色んな部活や委員会から賄賂が生徒会に流れて来てました。予算は合計で1000万円近くあり、成績が優秀な部活と賄賂が多い部活や委員会には200万近くの予算が割り当てられていました。この記録を見た俺は、生徒会が実権を持ち過ぎていると判断し、徐々に手放すことにしました。ですが俺の目論見はすぐに水の泡に消えてしまいます」

 「なにがあったの?」

 「俺が把握していない7つ目の校則があったのです。内容は『校則並びに生徒会、各委員会、監査委員会の各委員の免職には投票により全校生徒の3分の2以上若しくは生徒会一同及び監査委員会一同並びに各委員長の過半数を要する』です。恐らく俺には意図的に隠したのでしょう。彼らは後者の生徒会や監査委員を利用して俺を免職にしたのです。しかも賛成が100%で。俺が抜けた後の生徒会は俺が無くした制度を次々と復活させ、結局元の状態に戻ったのです」



 生徒会室は重々しい空気に包まれた。

 「大体の流れは分かったわ。でも委員会や部活動の予算に普通1000万円も出すものなの?」

 「京都第一高校の受験料は3万円です。そして、受験者は最低でも毎年3000人は居ます」

 「3000人も!?」

 「はい。全国から受験生が集まりますからね。受験料だけでも集まるお金は単純計算で9000万円ですね。それに加えて入学金や国からの援助金でざっと1億円は超えますね」

 「1000万くらいなら余裕があるって事ね…」

 「はい」

 「でも、それらの出来事がどうして私たちのお願いを断る事になるの?」

 「端的に言うと、疲れたからです」

 「そうなの…。だったらお手伝いやアドバイスだけでもお願いしても良いかな?」

 手伝いか…。そのくらいなら良いだろう。

 「はい。構いませんよ」

 「本当!? ありがとう!」

 3人とも無邪気な笑顔を浮かべている。

 彼女たちは悪い人間では無いと分かる。

 だが俺は信用出来ない。

 小さい頃や生徒会長だった頃の出来事のせいで俺はなかなか人を信用出来ない。

 仕方無いのだ。

 「ごめんね、嫌な事を喋らせちゃって…」

 顔に出てたのか、加藤さんが謝ってきた。

 「いえ、別に大丈夫ですよ。それより今日は帰っても良いですかね?」

 「構わないわよ。こんな時間まで引き止めてごめんなさいね」

 時計を見ると5時を指していた。

 1時間以上話していたのか。

 「大丈夫ですよ」

 「私たちは昼休みや放課後なら大体居るから、いつでも来てね」

 「はい。それでは俺は先に失礼します」

 そう言って生徒会室を出た。

 なんだか疲れたな。

 その日は疲れもあり足早に帰宅した。

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