デフォルメ
異世界生活二日目の朝は悲劇と共に始まった。
「ぎゃー」
「ぎゃー」
余程疲れていたのだろう。
夜寝てから朝まで起きることなく時間が過ぎた。
無理もない。
文明的な生活から原始的な生活しかも化け物が蠢く異世界生活となれば疲れ果てるの当たり前だろう。
そして、朝。
朝日が洞窟内を照らし出し、新緑の香りを含んだ風が洞窟内へ入り俺を目覚めへと誘う。
これほど快適な目覚めはない。
目の前にゴブリンの顔さえなければ。
開口一番視界に飛び込んできた醜悪な顔に思わず悲鳴をあげてしまった俺を誰も責めることはできないだろう。
俺の悲鳴に悲鳴をあげて飛び起きたゴブリン。
「朝からうるさいだ。」
「お前なんで線越えてんだよ!しかも真横で寝るとかどうゆうつもりだ!」
「本当だ、いつの間にか越えてただ。」
何んだと…
こいつ知らん存ぜぬで通す気か。
それは許さん!
まず謝れよ。
「おい、昨日俺が何て言ったか覚えてるか?」
「そんなに怖え顔してどうしたがそんたに怖え顔してどうしたが」
あくまでもしらを切るつもりですか。
それなら、こちらにも考えがある。
「ディスト…「ちょっと待つだ。私が悪かったぁ」」
俺が手のひらを向けて唱えようとすると某マスコットキャラクターのド○ラ顔負けの見事なジャンピング土下座を繰り出してきた。
想定以上の謝罪に向けていた手を下ろす。
下げた頭を少しあげ危機が去ったことを確認し安堵するゴブリン。
今から別れるのにわざわざ殺すわけないのに…
短い付き合いだったが面白い奴だったな。
「それじゃあ俺は行くから達者でな!」
土下座の体制のまま顔をあげてポカンとしているゴブリンを放置して洞窟から出ていく。
「ちょっと待つだぁ」
河への進路を確認し進もうとすると慌てたようにゴブリンが慌てた様子で後を追ってきた。
「なんだよ。」
「なんで置いていくだ!?」
置いてく?
何言ってるんだ、こいつ……
「言ってる意味がわからないんだが。」
「昨日一緒にいてくれるって言っただ!」
「言ってねーし!」
「言っただ!」
「言ってねー!」
「言った!」
>>>>>>>>>>>
「はぁはぁ…」
「ハァハァ…」
言った言ってないを繰り返すこと数十回。
言い合いは終わることなく、言い疲れ肩で息をしていた。
「じゃあ、いつ言った?」
「洞窟一緒って!」
え~それ?
意味ちがうから!
確かに一緒に使うことを許可したけど、ずっと一緒とか一言も言ってないから。
「それ勘違いだから、それじゃあな!」
「いやだ~置いていかないで、死んでしまうだ……」
勘違いとわかれば問題ないと去ろうとすると凄まじい勢いで俺の足に飛びつき泣き喚く。
本当にゴブリンの泣き顔とか需要ないからやめて。
そして、鼻水が垂れてる。
汚いし、ズボンに付きそうだから離れてくれ。
「とりあえず、一回離れろ。」
「置いていかない?」
「置いていかない。」
くそ!
これが美少女なら即決で連れていくのに。
なんでゴブリンなんだよ…
こいつ俺より弱いし使い道とかなさげだよな。
はぁ、最悪盾ぐらいにはなるか……
「連れていくが俺の命令に背いたりしたら即置いていくからな!」
「それなら大丈夫だ。絶対逆らわないから!」
嬉しそうに返事するゴブリンに溜め息を漏らして河への進路をとり歩き始める。
俺はこの発言を後に後悔することになるのだが、それはまだ先の話。
>>>>>>
「ご主人様は料理が上手なんですね。どうしました?変な顔して…」
河へ向かいながら食べれるものを探して進んでいた。
カボチャみたいないのを見つけたけど調理方法もわからないし持ち歩くこともできないから断念した。
昨日とは違った食える茸を見つけたのと兎っぽいのを捕まえることができた。
調理方法はもちろん丸焼きだ。
焼き加減は一狩り行く某ゲームでやり込んだから完璧だと思ったが少し焦げたな…
そこに鑑定さんで酸味が強いと出た見た目は葡萄だけど香りがレモンっぽい果物を適当に搾ってかけた。
ゴブリンにはこの程度のことでも料理と呼ぶようだ。
長々となったが今はそんなことどうでもいい。
一体どうなったらこうなる…
「お前ゴブリンだよな?」
凄いジト目で見られた。
変なこと言ってる自覚はあるけど聞かずにはいられない。
出発してから数時間興味がなくてまともな会話も顔すら合わさず行動していた。
だから、何か起こっていても気づけなかったと思う。
でも、この変化は数時間で起こっていいことじゃない。
なんでゴブリンがデフォルメされてるんだ……
兎の丸焼きと茸が焼き上がり渡すときに数時間ぶりにゴブリンの顔見ると、そこには見知った凹凸だらけの肌に尖ったかぎ鼻と鋭い目付きの醜悪なフェイスはなく、肌色は変わらないがツルツルな肌に少し高めの鼻で可愛らしいパッチリな目をした別の生き物が俺から肉を貰い嬉しそうに肉を食っていた。
この変化は進化と言っても過言じゃないぐらいだ。
確めるしかないよな…
「"鑑定"」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
フォレストゴブリン
■■の森を生活の場として暮らすゴブリン。
レベル:28
HP: 170/170
MP:75/75
筋力:65
耐久:69
敏捷:35
魔力:42
知力:18
器用: 36
幸運:29
スキル
杖術Lv. 2 土魔法Lv.3 悪食Lv.5
称号スキル
トキヤの庇護Lv.――
________________
なんか知らんが前回と違いステータス全てが開示されてるのはもうこの際置いておこう。
ツッコむべきは一つだ。
トキヤの庇護ってなんなんだ!
俺は俺自身のことで手一杯で守る気なんて更々ないぞ。
勝手に庇護下に入ってんじねぇ。
「本当にどうしたんですか?」
「お前自分の姿が変わってるのに気がつかないのか?」
「えっ、そうですか?特に変わってないとと思いますよ……」
「めっちゃ変わってるし、それに話し方も普通になってるからな!」
「そうかな?」と言いながら手足を見ているがわかってなさそうだ。
本当に一体何が起きたんだ。
称号スキルの影響な気がひしひしと感じるが称号スキルには鑑定さんは反応しないから詳細はわからない。
結局謎は謎のままに食事を終えた俺はデフォルメされたゴブリンを引き連れて河を目指し続ける。
「遭遇率高過ぎるだろ…」
「あれからこんなに逃げれるなんて凄すぎます。」
そんな尊敬するような眼差しを向けられてもな…
進路上から退けば後はやり過ごせば勝手に通りすぎていくからな。
本日三回目のメガロピルバックが通りすぎていくのを樹の陰から眺める。
異世界生活二日にして巨大ダンゴムシと四回目の遭遇からの慣れが、隙を生んでしまった。
「ふぅ…」
過ぎ去った脅威にひと安心し、視線を戻すと手を伸ばせば届く距離にヤツがいた。
ぷるんとし半透明なボディは光を通し向こう側透けてみる。
鑑定さんに頼らずともわかる異世界定番のスライムだ。
不意討ちに出会ったのがスライムというのも隙を作る原因かもしれない。
これがオーガとかだったら逃げるか魔法唱えようとしただろう。
相手は体当たりしかできな弱小生物だとこの時は思っていました。
スライムを見たゴブリンは即座に逃げ出した。
最弱生物に逃げるとかあいつどんだけだよ……
呆れていると唐突に腹部へと走る痛み。
昨日も同じような痛み感じたことで瞬時に状況を理解する。
「あっ、死んだ。」
スライムの身体が槍状に変化し俺を突き刺しているのが映る。
俺は意識が途切れる前に懸命に口を動かす。
「"ディストラクション……」
>>>>>>>>>>
「────いやだ──」
凄くうるさい。
泣き続けるゴブリン声が響いてくる。
目を開けば突き刺された位置を抑えながら泣きじゃくるゴブリンの姿が目に映った。
そして、目の前には窓が出ている。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
死亡。(残り:∞)
ださ!www
スライムに殺されてる!www
ウケる!www
__________________
草がうぜぇ……
あれだ。
必死に傷口を抑えて泣く姿が相手がゴブリンであったとしても少し嬉しいもんなんだな。
「おい、死んでないからいい加減泣き喚くな。」
「えっ……えぇぇぇぇ」
「うるせぇわ!」
「痛い。なんで生きてるんですか?」
「死んでないからに決まってるだろ!」
「よくわからないですけど、これで私も死ななくてすみます。」
どうやら俺が死んだら生き抜くすべがなくなり、自らの生命が脅かされるから泣いていたようだ。
俺の喜びを返せ!
覆い被さるようになっていたゴブリンを退け、死因となったスライムを探すと少し離れた位置にゼリー状の物体が砕け散っていた。
どうにか詠唱が間に合ったようだ。
残りのMPが56か。
死に戻りでMP全快とかだったら良かったが、そんなに都合よくはいかないか。
早くも切り札を使ってしまった。
MPがディストラクションを使えるまでに回復するのに何時間いるかわからない。
咄嗟の判断だったとはいえ軽率過ぎたかもしれない。
残骸と化したスライムを"鑑定"するとスライムゼリーという素材らしいが身体一つで連れてこらて俺は鞄なんて持ってないし、アイテムボックスなんてど定番の魔法も持ってない。
出来れば売れそうなものは持ち歩きたいが断念する。
やるせなさに苛まれている横では多量の涎を垂らしてゴブリンがいる。
こいつあれも旨そうに見えるのか …
たぶんこいつが持っている悪食スキルが関係してるのだろう。
それにしてもせっかくデフォルメされてマシに見えるようになったのに残念だ。
「あれ食うか?」
「いいんですか!」
「あぁ…」
捨てるぐらいならと聞いてみると食い気味に来られ、許可すると脇目もふらずに駆け寄り食べ出した。
ゴブリンが食事している間に進路の再確認をするために樹へと登る。
また龍との遭遇は勘弁願いたいので慎重に登り、天辺までは行かずにある程度見晴らしが確保できる位置で方角を確めると下で待つゴブリンの基へと向かう。
下りていくとゴブリンは満足したのか樹にもたれ掛かり休んでいた。
そんなスキだらけだから一人では生きていけなのではと言いたいが満ち足りた表情に開きかけた口をつぐむ。
「ほら、行くぞ。」
「待ってくださいよ~。」
俺はゴブリンを伴い、河へ目指し大樹が立ち並び化け物が犇めく森を突き進む。