共同生活
目の前では顔の秩序が崩壊し汁とい汁を垂らしながらオークの血まみれなのゴブリンが震えている。
訛ってることは置いておこう。
まさかの魔物に知性があるパターンか。
交渉もせずに殺したのは失敗だったか……
殺してしまったものはしかたないが問題はこいつをどうするかだよな。
化け物を見るかのような目を向け震え続けるゴブリンをどうすべきか頭を悩ます。
「おい!」
「はい、殺さねぁで。」
「殺さないから。あんし「本当だが?」あぁ……」
ゴブリンが食い気味に反応を示し少し距離を詰めてきた。
ごめんなさい。
生理的に今君の状態は受け入れがたいからそれ以上は近づかないでくれ。
「殺さない代わりと言ってはなんだが、ここから離れてくれないか?俺はその後ろの洞窟を使いたい。」
「それは困るだぁ。」
困るってお前の扱いに困ってるのはこっちだっつーの!
「何に困るんだ?」
「こんた森さ放り出されだら生ぎでいげねぁ。」
え~そんなこと知らないよ。
自分で何とかしろよ!
お前この森の住人だろ。
余所者の俺に優しく明け渡せよ。
なんだこのやり取り俺が悪者みたいじゃないか……
「じゃあ、どうしたいんだ?」
「大人しくしてらがらおいにも使わせでほしい」
え~ゴブリンと共に夜を明かすとか無理だって……
俺の嫌そうな雰囲気を察したのか「おねげぇだぁ~」と土下座して頼み込んできた。
その光景に魔物も土下座するんだと見当違いなことを思ってしまった。
「はぁ…わかった。その代わり条件がある。」
「本当か!なんでも聞ぐよ!!」
今さら殺すのも忍びなく放置しても会話してしまった手前放っておきにくい為、妥協案を提示してみる。血まみれと醜悪な顔からはわからないが、声色から判断するとめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「喜ぶのは早いぞ!暗くなる前にそこの二つの死体をなんとかしろ。あと、血まれなをなんとかしてくれ。でないと洞窟には入れないからな!俺は洞窟の中を確認してくるからその間にやっとけよ。」
「えっ、あれ食わねぁんだが?」
食う?何を?
洞窟へ向かおうと進めていた歩みを止めて振り返り、ゴブリンが指差す先を辿る。
ゴブリンが指差す先には肉塊と成り果てたオークだった。
こいつ元仲間を食うとかどういう神経してんだよ。
そもそもオークって食えるのか?
「それは食えるのか?うまいのか?」
「もぢろん。しったげんめぇ。」
もういいよな?
俺は堪えたぞ。もうツッコミ入れても許されるよな。
てか、これ以上は堪えられん!
「訛りがきつい!何言ってるかわかりにく!標準語プリーズ!オーケー?」
「そんたごど言われでもこれが普通んだんて……」
「意識するだけでも少しはマシになるはずたから!あと、あれは食べないからな。」
「え~」
不満そうな声が聞こえたが聞き流す。
例えうまくても砕け潰れミンチで砂利と混ざった肉なんざ食べたくない。
洞窟の中は成人男性が立って動き回れる程の高さがあり、奥行きは二十メートル程。
高い樹から洞窟前の開けた広場に向かって吹き下ろす風が入ってくるのか少しひんやりとしていた。
ゴブリンが来るまでに先の戦いの反省をしよう。
魔法ぶっぱなして石投げただけだから、そもそも戦いという表現が正しいのかわからないが。
まずは"ディストラクション"の二発目が出なかったかだな。
これについては大方検討がついているが確認した方が早いだろう。
「"ステータス"」
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トキヤ=フジ 18歳 男 人間
職業:無職
レベル:10
HP:350/350
MP:26/230
筋力:180
耐久:580
敏捷:130
魔力:160
知力:60
器用:150
幸運:6
スキル
火魔法Lv.1 水魔法Lv.1 痛覚耐性Lv.5
エクストラスキル
暗闇魔法Lv.1 鑑定Lv.2 世界言語Lv.2
称号スキル
変人Lv.7 不死者(仮)Lv.―― 創造伸の加護Lv.――
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やはりと言いたいけど、その前にレベルめっちゃ上がってるし。
オークとゴブリンを倒したからか?
格上を倒したことで経験値を大幅に貰えたってことか。
ほとんどなんもしてないのにレベル上がってもいいものなのか…
レベルは一旦おいておくか。
MPの残り26。
そら二発目が撃てないわけだ。
確かレベル上がる前が200ぐらいだったから一回の消費が174なのか。
いや、ここに来るまでの時間に回復してる分もあると考えると180ってところが妥当か。
あの破壊力だから妥当な消費量だと思うが、これから生き抜く上で連発できないのはきついな。
最終手段として考えておくか。
「終わっただ。」
振り替えれば血まみれゴブリンが洞窟の入り口で此方に向かって手を振っていた。
早くないか。
まだ十分ぐらいだぞ。
まぁいいか。嘘なら追い出せる理由になるし。
「本当に終わってるな…どうやったんだ?」
「掘って埋めただ。」
オークとゴブリンの死体がきれいになくなっていた。
ゴブリンは埋めたであろう場所を指差した。
指された辺りは掘り返されたことで生えていた草がなくなり、茶色い土肌がさらけ出されていた。
「あそこか。こんな短時間でどうやって掘って埋めたんだ?」
「魔法使えばすぐだ。」
そうか、ここが異世界だということを失念していた。
先入観で人力?ゴブリン力?でなんとかすると思っていたが魔法使えば力仕事も簡単にできてしまうのか。
それにしても、こいつ血まみれのままだよ。
それもなんとかしろって言ったのに。
少し試してみるか。
「"ウォーター"」
ゴブリンに手のひらを向けて呪文を唱える。
ゴブリンの上に水が集まりだし一定量になったら降り注いだ。
ゴブリンは多量の水を浴びて水圧に堪えきれず地面と抱き合ってる。
「行きなりなにするだ!」
「──いや、汚かったから。」
すごい剣幕で迫ってくるから思わずたじろいでしまった。
「きれいにしてぐれだのだが。ありがとう。」
自分の身体を見回して血が落ちてきれいになったの確認すると嬉しそうに礼を言われた。
ちなみに表情からは感情が読み取れないから嬉しそうというのも雰囲気から察した。
さっきの検証でなんとなくだが魔法というものが理解できた気がする。
検証なんて難しく言ってみたが大したことじゃない。
よくある魔法はイメージが大事ってのが当てはまるか試してみただけだ。
結果は成功。
ゴブリンの上に水球が発生し落下をイメージ。
見事に俺がイメージした通りに発動することができた。
あとは威力やMP消費にどう作用するか調べる必要があるな。
「言うとおりやれたから洞窟を使ってもいいが俺が書いた線より奥には来ないこといいな?」
「わかっただ。」
グゥ~
洞窟へ戻ろうかとすると盛大にゴブリンの腹の虫が鳴った。
「腹が減ってるのか?」
「恥ずかしながら。今日の獲物はオークが一人で殆ど食べてしまっただ。」
「それは残念だったな。まだ少し明るいから狩ってこればいいんじゃないか?」
「無理だ。一人では死んでしまう。」
一人で行けないのかよ。
俺がそこまで面倒を見てやる義理はないがこいつの腹が鳴りっぱなしでうるさい。
こんなやつと一夜を共にしたら食われそうな不安で眠れないな……
「はぁ、俺がなんか食えそうなもの探してきてやるからお前は薪を集めておけ。」
「本当に?ありがとー!」
食い物は簡単に見つけれた。
鑑定さんがレベル2にアップしたことでより詳細な情報がわかるようになった。
そして、衝撃を受ける。
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クラースヌイダケ
■■の■■土地のみで生息する魔茸の一種。
希少性が高く■味として高価取引される。
癖になる味は■■■としても有名。
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毒キノコと思っていた赤い傘の茸は食えるそうだ。
しかも希少ときたら旨いに決まってる。
ゴブリンに食わせるだけはもったいないと自分の分も採取した。
あの腹の鳴りかたは茸だけでは足りないだろうと戻る途中で遭遇した蛇も捕まえた。
石を頭にぶつけたら一発だ。
茸と蛇を持ち帰るとゴブリンが集めた枝を前に座って待っていた。
「お帰りなさい。それ食えるのが。」
「あぁ、食わせてやるから少し落ち着け。」
涎を垂らして今にも飛びつきそうなゴブリンを抑え準備する。
まずは近くに群生していた大きな葉を皿がわりにして茸と蛇を"ウォーター"を使って洗い並べる。
腹の虫が止まらないゴブリンの為にも手早く手頃な枝を数本選び出し、これも洗う。
串代わりにして茸と蛇を突き刺し準備完了。
残っていた枝に"ファイア"を使って着火。
暫くすると焼けるいい臭いが漂い出す。
ゴブリンか滝のように涎が流れ出ている。
普通に汚いから口を閉じろよ。
そろそろいい感じかな。
「ほら食えよ。」
「えっ、えんだが?」
差し出した蛇を溢れ出る涎を垂らしながら見つめ聞いてくる。
何言ってるんだ、こいつ。
お前の為に捕ってきたんだろうが。
「いいからさっさと食えよ。」
「でも、そんな一番の獲物……」
しつこいな。
よっぽどの空腹でない限り蛇は食いたくないからさっさと食えばいいのに。
「俺はさっき別で食べてるからこっちだけで大丈夫だからお前が食え!」
「わかった。食べる!」
納得したのか蛇を受け取り、物凄い勢いで食べてる。
こいつどんだけ腹減ってたんだ……
俺も茸を頂きますか。
簡単に言うと茸は絶品だった。
元々、椎茸が好物な俺には最高の一品。
醤油がないのが残念で悔やまれる。
ゴブリンは物凄い勢いで蛇と茸をペロリと平らげた。
お腹が満たされ幸せそうだ。
たぶん…
「じゃあ、この線よりこっち側には入ってくるなよ!」
「わかった。」
食事を終えると夜の帳が下がり、森を闇が支配しだした。
焚き火を入口近くに配置し、微かに洞窟内を照らし出すようにして中に入り、真ん中辺りで線を引いた。
そして、入口側をゴブリン、奥を俺とした。
もし何かが侵入してきても先ずはゴブリンが犠牲になるだろうし、その間に俺は魔法で対象すれば問題ないだろうという寸法だ。
非道?なにそれ?
利用できるものを利用して何が悪い!
それに俺はあいつに襲われるリスクも背負ってまで一夜を共にしようとしている。
寧ろ、優しいはずだ。
疲れていたのだろ。
数分もしないうちに微睡み意識を手放してしまった。
こうして俺の異世界生活一日目が終わりを告げた。