ダンゴムシ
ピロン
何かアイコンが開かれたような音が脳に直接響くように聞こえた。
閉じていた目を開け、腹の上ぐらいにステータスウィンドウのような半透明の窓が浮遊していた。
「うっ…」
後頭部に感じる鈍痛に顔を顰めながら体を持ち上げ、目の前に浮いているステータスウィンドウのような窓に目を向ける。
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死亡。(残り:∞)
初の死因が転落死とかウケるんだけど!
そこは喰われるとこでしょ!笑
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下部は一旦無視だ。
死亡。
言葉のままの意味だと今俺は死んだということだけど生きてる。
思い当たるのは一つしかないな。
スキル不死者(仮) の力ってことか……
俺が考察してると窓は光の粒子となり消えた。
暫くすると消えるのか。
異世界生活数時間で死ぬとかやばくないか。確かステータスの耐久は500だろ。それで死ぬとか値が低いということか。てことは、他のステータス値はカスじゃねか。
これじゃ龍なんか億分の一にも勝ち目はないな……
「はっ、龍!」
死亡に意識をとられ、死亡追いやられた原因を漸く思い出し慌てて立ち上がり周囲を確認する。
「いないのか……」
いないことに安堵し、腰を落として座り込んでしまう。
あれはヤバかった。
逃げ場がないから立ち向かうなんて無謀な行動に移してしまったが普通なら逃げ一択だ。
「あんなのがゴロゴロいるとかだったらこの世界ヤバ過ぎるぞ……一刻も早く人のいるとこへ行かなければ!河は─あっちだな。」
生き残る為の決意を胸に先程見た景色を思い浮かべ歩み始める。
異世界に到達して早数時間、漸く後にいい意味でも悪い意味でも世界に名を轟かせるトキヤの物語が始まった。
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「死んでしまう~!!」
河へ向け意気揚々と出発して数分、涙と鼻水を垂らし残念フェイスを曝しながら森を爆走していた。
ドカン!バキバキ!
「この世界化け物しかいねーのかよ!」
岩や樹を押し退けてトキヤの後方を転がる黒光りする物体。
それは誰もが一度は目にしたことがあるだろう生物。
奴はそう───ダンゴムシ!!
しかし、只のダンゴムシではない。
小山ほどある体に岩をも砕く硬い甲羅に覆われている。
色はダンゴムシだけど見た目からいったら完全にオ○ムの強化版だ!
なぜそんな化け物に追われることになったか。
そんなもん知らん。
歩いてたら爆音撒き散らして転がってきやがったんだから。
絶対轢き殺される……
何とかして逃げきる方法がわかれば──そうだ!
「"鑑定"」
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メガロピルバック
巨■ダン■ムシ。
■が■■して■■、■■で■■を狙う。転がるは■■■にしか■■■■■■■■。
レベル:■■■
HP:■ 2 ■/■■■
MP:■■/■■
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ステータスに載ってた鑑定スキル。
異世界ものでは定番でありチートくさい力を発揮する期待のスキル。
そう期待のスキルと思ってた。
2秒前までは。
結果はくそだ。
何にもわからね……
無駄な時間を使ったことで真後ろまで迫ってきている。
轢き殺されるまで有余がない。
一か八か。
ゴロゴロ
「──えっ、助かったのか?」
勢いに任せて横っ飛びで避け、樹の陰に逃げ込むように隠れる。
引き返してくるのに合わせて何時でも走り出せるよう構えていたら、巨大ダンゴムシは戻ってくることなく遠ざかっていた。
「立てね…」
去り行く巨大ダンゴムシを唖然と眺め、先に進むために立ち上がろうとするが全力で走り続けた結果、生まれたての小鹿のごとく膝が震え動くことができない。
膝の震えが収まり呼吸が整ったのを見計らい立ち上がる。
龍に巨大ダンゴムシと化け物のだらけの森に最大警戒を持って河を再び目指す。
時折、遠くで響く音が気にならなくはないが触らぬ神に祟りなしと言い聞かせ無視を決め込む。
「腹減ったな。」
動き回ってカロリーを消費したからだろうかお腹が鳴った。
歩きながら食べれるものがないか探すが簡単に見つかるはずもなく時間だけが過ぎていく。
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歩き始めて数時間、途中で見つけた赤い傘が特徴的なキノコを手に歩き続けている。
食べようかと思ったが明らかに毒がありそうな見た目に躊躇い、最終手段として確保だけした。
因みに鑑定した結果は
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クラースヌイダケ
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名前しか表示されなかった。
長い横文字、怖いだろ。
この情報だけで食う勇気は俺にはない。
もし猛毒だったらどうする!
出血多量→転落→食中毒
死因がどんどん間抜けになっている。
それだけは阻止する!
フラグじゃないからな!!
「あれ食えんじゃね。」
少し開けた場所に森を埋め尽くすように生えている大樹とは違った種類の黄色い果実をつけた木が群生していた。
近づき一つもぎ取る。
形は瓢箪のような形でバナナのような色の果実。
役に立たないだろうが鑑定してみる。
「"鑑定"」
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サワーナップル
甘い果実。■には■■■を含む。
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これは本当に食えんじゃね!
意を決して一口かぶりつく。
「うめ~!」
水気たっぷりで糖度も高くうまい。
梨のような感じだ。
あまりの旨さにあっという間に食べ終わってしまった。
二つ三つと次々に食べてしまった。