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ギリギリの攻防

新年明けましておめでとうございます。

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"」


「グルアァァ」



耳を(つんざ)く咆哮に覚醒する意識。

目の前には馴染みある死んだことを告げる窓。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



死亡。(残り:∞)



起きた?

早くしないと彼女死んじゃうよ!

__________________



目に入った文字が意識を急速に覚醒させる。咆哮が聞こえた先に目を向け絶句した。


先ほどのバトルウルフを一回り大きくし、全身の発達した筋力は全てを力でねじ伏せることができるだろう出で立ち。

覆う毛は漆黒、見たものを怯ませるであろう鋭い眼光を有した二足立ちの狼とミリンは対峙していた。


ただ対峙しているだけだったら俺の心がこんなに乱されることはなかっただろう。



「ミリィィン。」



俺の悲鳴にも近い叫びにミリンは反応することはなく、目の前の敵から視線を外さない。


立ち上がりミリンの側へと駆け寄る。



「…キヤ様。」



側まで来て漸く横目で俺のことを確認し、消え入りそうな声で俺の名を呼んだ。

狼から視線を外さないよう正面を向いたままのミリンの横顔は玉のような汗をかき、苦悶の表情に歪んでいた。



「下がれ後は俺がやる。」



俺の言葉に素直に従い、数歩下がって膝をついて荒い呼吸を繰り返していた。


俺たちの反応を楽しんでいるのか狼は手に持った物を咀嚼しながら動こうとしない。


その様子に俺は込み上げる怒りに拳を握りしめ肩を震わせる。

俺は足元にある石を拾い上げ狼に向かって"メテオシュート"を放った。

しかし、正面からの直線的な攻撃は容易に避けらてしまった。

そこから数発攻撃を繰り返すが単調な攻撃が当たるはずもなく、狼は嗜虐的な笑みを浮かべ食事を続ける。



「ミリンの腕を返しやがれぇぇぇ」



怒気を孕んだ叫び声に狼は口角を吊り上げ、腕をまる飲みにした。

その光景を目の当たりにした俺の中で何かが切れた。



「~~~」



声にならない叫び声をあげて狼目掛けて駆け抜け、帯刀してい剣を抜き放ち斬りかかる。


狼に当たる寸前で狼の姿が消え去り、空を切り裂き地面へと突き刺さる。


側面で感じた気配に腕を折り畳み剣を盾代わりに顔の横まで持ち上げガードする。


盾とした剣が砕け散り、次いでお襲いかかってくる衝撃に吹き飛ばされ地面に打ち付けられ二転三転と転がる。

勢いがおさまると即座に立ち上がり次へと備えるがガードした腕があらぬ方向へと曲がり激痛で顔が歪む。


痛みに堪えながら次を警戒していたが狼は腕を振り抜いた場でこちらを伺って動いていない。

目を見開き驚いたような表情だが俺が死んでないことにでも驚いたのだろうか。

次いで驚きが嫌らしい笑みへと変わる。



「ウォォォン」



雄叫びをあげた次の瞬間その場から姿が消えた。


背後から感じた悪寒に飛び退く。

凄まじい音の後に地面が抉れ、腕を振り抜いた狼の姿が現れる。


またも驚いた後に嫌らしい笑みを浮かべる。


完全に遊ばれている。



「"ディストラクション"」



余裕の笑みを湛え隙だらけの狼に向け最強の一撃を放つ。

黒い霞が狼の頭上を捉える。

狼の体が霞から発される力により地面へと沈み込む。



「グウォォォォン」



勝利を確信したその瞬間に狼は雄叫びをあげ立ち上がった。

立ち上がったのと同時に黒い霞が散った。


少しは効いたのか口から血を垂らしているが見た目はほぼ無傷。


何度死んでも勝てそうにない格上の相手に額から頬へと冷や汗が伝う。


そこからは一方的な展開となった。

目で終えない動きに何度もうまく回避などできるはずもなく、幾度となく殴り続けられ最初に殴られた左腕は辛うじて原型をとどめてはいるが肘から骨が突き抜け動かすことは叶わない。

右腕は動かせるが動かす度に激痛が走る。



「ぐぅ…」



何度目かわからないぶっ飛びで転げて即座に立ち上がるが全身を突き抜ける痛みに思わず声が漏れでる。

痛みのお陰で意識を失わずにはすんでいるが、狼が本気になれば俺を殺すなんてすぐだ。

そうなれば後に控えているミリンの死をも意味する。


"ディストラクション"が効かなかった今俺の持ちうる手段で可能性があるとすれば暗黒魔法Lv.2に上がって覚えた新魔法"インベイジョン"。

どんな魔法わからないが現状これにかけるしかない。


確実に当てるために奴の動きを少しでも止める必要がある。

しかし、目で追うことのできない相手を止めるなんて不可能に近い。

死ぬ覚悟でいけばなんとかなるだろうか。

不死者(仮)に頼るのは忌避感があるけど、死なないという仮説が俺に勇気をくれる。


飽きたのかこれまで殴るために握り込んでいた拳をほどき、貫手のような構えをとる。


あれで貫きか。

痛いだろうな…

けど、こちらとしは好都合か。

その時がお前の最後だよ!

たぶん…


貫手で構えた狼が視界から消え去る。


神経を研ぎ澄まし狼の出現場所を探る。


狼が駆け回る音だけを耳が拾う。


後ろ!


振り向くと貫手を振りかぶった狼が映る。


覚悟したつもりだったが直前になり、恐怖心が沸き起こる。

すくみ逃げ出したくなる足へ力を込め、確実に貫かせる為に体を正面へと向ける。

痛みに耐えるために歯を食い縛った。



ガン


「──グル?」



鳴り響いた異音に狼の貫手が俺を穿つ直前で止まる。


俺の視界には片腕で棍棒を振り抜いたミリンが映る。



「トキヤ様は殺らせない。」



狼の視線がミリンへと向けられる。


ヤバい。

意識がミリンへと向いてしまっている。



「くそ狼!お前の相手はこっちだ!゛インベイジョン゛」



ミリンへと動き出す直前で目の前の狼へと飛びかかり、新魔法を唱える。


魔力をごっそりと持っていかれ、意識が朦朧とする。

魔法の発動は成功。

俺と狼を闇が取り込む。



「グウォォ……」



闇に取り込まれまいともがき暴れるが、闇が侵食する速度は変わらず狼を飲み込み俺をも飲み込んだ。



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