1話 『妹が可愛いだけの退屈な一日』
5月のとある月曜日の朝6時。いつも通りの音で目覚める。
「起きるか…。」
俺は、重い体に鞭を打つように体を起こした。
俺…弦楽奏介の朝は早い。部屋から出て1階に下りると、家事上手で可愛いJK妹…弦楽美央が毎日朝食を作ってくれている。可愛い。大事なことなので2回言いました。シスコンじゃないよ?ホントだよ?
「おにぃちゃんおはよっ!」
「おう、おはよう。」
いつも通りの元気な声で挨拶をしてくるが、寝起きの俺は小動物のような声しか出ない。のどよ働け(怒)
「今日の朝ごはんは美央お手製のパスタなのだー♪」
美央の作る料理にハズレはない。いつも美味しい料理を作ってくれる。そのうえ、他の家事もそつなくこなす、完璧な妹なのだ。さらに可愛い。将来のお嫁さんは美央がいいなぁ~
「今日は何時に帰ってくるの?」
「ん~、今日は先生のレッスンがあるから8時くらいかなぁ?」
そう、俺には妹が可愛いだけではなく、他に特殊なことがある。東京の音楽高校に通っているのだ。ちなみに3年生、専攻はバイオリン。通常の高校とは違い、ほとんど普通科の勉強は無く、音楽の勉強しかしない。放課後、今日のようにたまにレッスンが入ることもある。音楽高校に通う生徒はプロを目指しているものがほとんどで、俺ももちろんプロのバイオリニストを目指している。思ってるよりハードだぜ?マジで。
朝食を食べ終えた俺と妹は、それぞれの学校の準備をして家を出る。妹は近所の中学校に通っているので俺の方が早めに家を出てしまう。さらば妹よ。
「いってきまーす」
靴を履くのに少々手間取りながら妹に声をかけると、とててて…と可愛い足音をたてながら妹がやってきて送り出してくれる。
「いってらっしゃい、おにぃちゃん♪頑張ってきてね♪」
「ありがとな。じゃ、いってくるわ!」
妹に見送られながら家を出る。ここから駅まで徒歩10分。電車の時間が7時8分で今6時50分。これは余裕ですわ。などと、大国の戦国大名のようなことを言いつつ駅に向かう。駅の途中にコンビ二が一つあり、団地もあるような、見慣れた感じの風景を目にしながら歩く。だが、歩くだけで疲れる。バイオリンを背負っているからさ☆
「途中で美少女にでも会わないかな…」
謎な願望を抱きながらも無事、駅に到着。この電車に乗れば遅刻もないだろう。多分。
ここからはいつも通りの登校でいつも通りの授業、いつも通りの1日になるだろう。多分。
「退屈だな…」
俺の心は音楽以外で満たされたことがほとんど無い。妹は別だが。
今日もまた同じだろう。そう思っていた。
このときの俺はまだ知らない。今日という日が運命の分かれ道となることに。