Ep1:8
ニコニコ笑い続けて。
それで得られたものは何だろうか?
こんな偽りの仮面にとらわれて。
己の復讐のはずがいつの間にか自分を縛っている。
抑圧している。
どうして?
「あー、もう!女ってのはどーしてこーもうだうだぐだぐだノロマなんだよ!マジうっぜーし、しかもすかした顔しやがって・・・!!」
「・・・ごめんなさい」
「だーかーらー!それがむかつくんだよ、このクソ女!」
答えは簡単だ。
私以外のすべてが私に自信を抑圧することを強制するからだ。
それを人は律するという。
法を律するものだから法律というし、規則を律するから規律という。
全て縛るものにはこの律という字が入る。
正直見飽きた。
それに、この文字を見るだけでも反吐が出る。
社会の秩序だなんだといっているが、所詮は自身の利益のためでしかない。
国一つとってもそうだ。
別に国を守る必要はないし、民族としての誇りも誰かが植え付けたものだ。
私たちは幼いころからそれを教わり続け、洗脳されてしまったからそう思い込んでいるだけだ。
所詮は欺瞞と虚栄でしかない。
偽りの仮面は裏切りという一つの行為を生む。
必要以上に偽るから裏切ってしまう。
必要以上に虚栄をはるからボロがでて裏切ってしまう。
ならば、殺されてしまえばいい。
死という事実は何の飾り気もなく、そして無機質で冷たい。
だから偽れない。
だから裏切れない。
だから私は死をもたらした。
復讐は慈悲だ。
死を与えるのは救いだ。
この汚らわしい獣も幼いころ読んだ童話のように腹の中にやさしい人間という本性が隠れているのだ。
・・・いなければそいつは正真正銘狼だ。
「なー、次どこ行くよぉー・・・っ!?」
・・・よけた。
せめて痛まないように気絶してから腹を割こうと思っていたのに。
「て・・・てめえ!な・・・なにしやがががが・・・なにしややああ・・・」
強がろうとしているのだろう。
しかし、恐怖のためか口がうまく回らないらしい。
姿勢も逃げ腰で、少し驚かしたら一目散に逃げていきそうだ。
もちろん逃がしはしない。
だからゆっくりと近づく。
・・・ゆっくりと。
「く・・・くる・・・なぁ・・・あ・・あああああ・・・」
この汚らわしい獣も人の心を持っていたらしい。
こういう時人は恐怖で動けなくなる。
逃げようと思っても、恐怖で体が硬直し動くことができない。
さあ、お前のおなかの中にいるやさしい本性を吐き出しなさい。
「う・・・うわあああああああああ!!」
私が鋸を振り下ろすのとほぼ同時によける。
しかし、本気で殺す気だったのが伝わったのか勇気を振り絞って逃げたようだ。
まさに間一髪という感じだった。
「・・・」
わたしは無言で鋸を構える。
といってもこの子はただの鋸じゃない。
刹那狂閃
人を殺すことに特化した形状で、並みの刃物よりよっぽど殺傷力がある。
粗末ではあるが、スイッチを押すと振動してさらに破壊力が上がる。
もっともこちらはただ苦しめるためにしか使わないだろうが。
「や・・・やめ・・・そ、そうだ!も、もうお前は一生俺のカノジョだ!俺の嫁にしてやるよ!そ、それなら・・・っ!?」
減らず口の減らないやつ。
いや、『減らず』だから減らないのかな?
・・・まあ、最後まで減らないのならそうなのだろう。
どこまで喋れているかとても楽しみだ。
「く・・・くるなあ!くるなあああ!!」
私ではこの男にとてもではないが、追いつくことできない。
しかし、こいつは今は混乱していてそれどころではない。
私やあの女どもなら警察に連絡するだろう。
そう思っていたら、携帯を取り出した。
しかし、恐怖ですくんだ手ではうまく操作できずに取り落としてようだ。
すかさず、私は全力で走って携帯を奪う。
ここで踏みつぶしてしまうのはさすがに面倒なことになりそうだ。
「・・・・・・・」
「っ!?い・・・行き止まり・・・?」
さっきから複雑に入り組んだ道を走り、何とか私をまこうとしていたみたいだがそれもかなわず袋小路のような場所に来てしまった。
私は再び鋸を構える。
「く・・・くるなぁ・・・!あ・・・!!」
と、扉を見つけすかさずそこに入る。
・・・まだ逃げるつもりなんだ。
私もその後を追う。
そこはどうやら廃棄された工場のようで、一応ドアには南京錠で内側からカギがかけられていたようだが、それが壊されていたようだ。
そう遠くない位置で金属が床にぶつかる特有の音がする。
おおかた、慌てたあの男がその辺にあった工具か何かを床に落としたのだろう。
・・・見つけた。
「く・・・クソ!ど、どこにいやがるんだよ!で・・・出て来いよ!!」
どうやらレンチを武器にしているようだ。
それで私に勝てるつもりなのだろうか。
普段ならば、武器を持ったあの男には勝てないだろう。いや、私が武器を持っていたとしても勝てるかどうかは怪しい。
しかし、あの男は恐怖でまともな思考や行動ができていない。
それに、いまだ足が震えてもいる。
・・・開き直る前に早く始末しないと。
私はその辺にあったドライバーを手に取り投げつける。
当然まったく違う方向へ行くが、それで十分だ。
「そ・・・そこか!へ・・・へへへ・・・い、今ぶっ殺してやる・・・!!」
男は私に背を向けドライバーを投げたほうへと向かっていく。
かかった。
「・・・・・」
すかさず隠れていた場所から飛び出して、後ろから後頭部に鋸をたたきつける。
「ぐぅ・・・ぁ・・・ぁぁぁぁあああ・・・・」
さすがにこの程度では死なないか。
仕方ない。
私は頭をつかみ、首筋に鋸をあてる。
「や・・・やめ・・・」
男の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、見るに堪えない。
本当に汚らわしい。
「・・・・・・」
「あ・・・謝るから・・・お・・・俺が悪かっあああああああああああああああああああああああ!!????」
いまさら何を言っても無駄だ。
お前はここで死ぬ。
お前らのような汚らわしい獣はすべて死ぬべきなんだ。
そして、いま理解した。
こいつの腹の中にそんな優しい人間がいるはずない、と。
なら腹を割く必要もない
さっさと殺すだけだ。
「痛い痛い痛い!!やめ・・・やめろおおおお!!痛いいたぐあああ・・・ぁ・・・ぐふ・・・ぉぉ・・・」
首の三分の一ほどに刃が届くと、ごぽごぽとした汚らしい音しか出さなくなる。
あたりは血まみれで、放っておいても失血死するだろう。
しかし、それでは殺したことにならない。
それでは私の復讐は完了しない。
この汚らわしい獣どもに蹂躙された私の幸せに対しての復讐にはならない。
もっと苦しんでもらわなければ困る。
「ぐぉ・・・ごぽぉ・・・っぽ・・・・」