Ep1:7
「なあ、俺と付き合わないか?」
玄関で会っていきなりそういわれた。
思わず眼球抉り出しそうになったがそこはこらえた。
「・・・ええ、かまいませんよ」
で、ふと思った。
これって逆にこいつにべたべたしまくって満足の絶頂にいる状態で捨てたら面白そうじゃないかってこと。
「あ・・・けどさ、俺最近不良に絡まれてマジ迷惑してんだよね。どーにかできね?それで来たら彼女にしてやるんだけど」
いつの間にか立場が逆転しているんだけど。
・・・本当にどうしようもないクズ。
今すぐ目の前から消えてしまえばいいのに。
でも、この瞬間が一番どうやって殺してやろうか、そう考えられる。
「わかりました、任せておいてくださいね」
「お、マジ?ラッキー!んじゃ、よろしくー」
「あのー、すいませーん」
「あ?なんだよてめー」
例の不良集団に会いに行くことにする。
普通に頼んだのでは言うことは聞いてくれないだろう。
「最近リンチしてる男いますよね?わたしもあいつに一発ぶち込んでやりたいんですけど」
「ハ!女が男にぶち込むぅ?逆だろフツー!!」
「黙ってろ!!品のねえのは嫌いだ」
意外にもこのリーダー格の不良はそういうのは嫌いなようだ。
空き教室でどうどうと煙草をふかし、机の上にはビール缶。
もう典型的な不良のイメージ通りだが、意外と好きかもしれない。
「で、お前もヤられたクチか?」
「ま、そんなような感じです。あとあの男一人だけなんですよね」
「あ?ほかにもいたのか?そいつらはどうなったんだよ」
言うまでもない、復讐済みだ。
「一人は全身やけどで意識不明の重体、あとの二人は『行方不明』になりました」
「・・・おもしれえやつだな、おまえ」
こいつらにとって私はおもちゃみたいなものだろう。
しかし、それは私も同じだ。
私にとってこいつらはただの道具でしかない。
変にとりつくろわず、はっきりと示してくれるなら別に何も言うことはない。
意図的に隠す悪意ほどひどいものはないのだから。
「と、いうわけで私の復讐に協力、もしくは関与しないでくれませんか?」
「んだと!?」
「黙ってろ!・・・やっぱお前はおもしれえよ。で?具体的には何をすればいいんだ?」
このリーダーとは気が合いそうだ。
悪ぶっているわけでもなく、かといって善人面しているわけでもない。
ただ、こうなったのは己に忠実に生きているのだろう。
周りにいるのはただの取り巻きに過ぎない。
「手を出さないでください。私の復讐がすんだらその時は教えます。後は好きにしてください」
「わかった。約束は守ろう。ただし、俺が楽しませるようにしてくれ・・・でないとツリがあわねえ」
放課後。
「よーし!よくやったー!!お前を俺の彼女にしてやる!!」
・・・どうして私はこんなゴミみたいなやつに惚れてしまったのだろうか。
どうやら、あの女たちに感謝することが一つだけあったようだ。
『こんなクズと引き離してくれてありがとう』と。
「はい、ありがとうございます」
精一杯の笑顔。
一応顔はそこまで美人ではないが、並ではあるはずだ。
それなりに様にはなっているだろう。
現にこいつは下品な笑みを浮かべていたのを私は見逃さない。
今見ると行動の一つ一つが自分勝手で、くだらなくて、そして汚らわしい。
ここにはこんなやつらしかいない。
全部自分勝手だ。
だから私も自分勝手にあいつらを殺した。
今まで散々自由にしてきたのだ。
少しぐらい私に自由を与えてくれてもいいだろう。
「んじゃ、デートでもすっか!」
ロマンチックさのかけらもない台詞。
お前にとってはそんな軽いものなの?
お前にとってデートってそんな気軽にやるものなの?
・・・それもそうか。
こいつはただその時の気分だけで付き合っているのだ。
こいつにとって彼女とはただ都合のいい無料のおもちゃなだけだ。
無料だからこそ気軽に捨てられる。
何の未練もない。
だけど、思い出は?
お前には作った思い出にも興味はないの?
「はい、どこに行きますか?」
いったのはゲームセンターだった。
私はゲームセンターは嫌いだ。
ここはただ、単にうるさい。
この音が耳障りな人も中に入るだろう。
私はゲーム自体をあまりしない。
だからだろうか、私はこの場所が嫌いだ。
最初にそう言ったはずだが(というか、来るたびに行っているのだが)こいつはそれすら覚えていないらしい。
きっと、私でなくてもいいのだ。
というか、誰でもいいんだ。
ただ単に一人になるのだが怖いのだろう。
臆病で、でもくだらないプライドにしがみついている虚栄心だけの人間。
そのくせ、他人を見下していて、好きなだけ利用するだけすることしか考えていない。
「おい、なに浮かない顔してんだよ」
いけない。
ここは笑う場面だ。
「そうですか?」
「なんつーかさー、お前何様よ。お前がデートいきたそーにしてるから俺がわざわざ誘ったんだけど?俺が気つかったのわかってる?それなのにお前なんなんだよ。さっきからクッソつまんなそーにしやがって」
・・・何様なのはお前だよ。
こっちは苦労して笑顔張り付けてあわせてやってんだよ。
いい加減ぶっ殺すぞ。
「ごめんなさい・・・。あ、ならあれやりませんか?」
指さしたのはガンシューティングゲーム。
このストレスをどこかにぶつけたい。
「あ?何お前そーゆー趣味あるわけ?すっげー根暗で陰険なお前らしいわ。そんなんだからいじめられるんだよ、わかれっての」
うざい
うざい
うざい
うざい
うざい
なんなんだろこいつ。
すごいうざい。
気持悪い。
本当に死んでしまえばいいのに。
「ごめんなさい・・・次から気を付けますね」
「あのさー、ごめんなさいごめんなさいってロボットかっての。それにつまんねーの!あーあー、マジおまえないわ。ゴミ、クズ、虫以下」
そういえばよく私はこう言われていた。
いつもこうだったが、ただの照れ隠しと思っていた。
非常におめでたいことだが、人間何かに妄信的になると何もかもを肯定的にとらえてしまうのだ。
「ごめ・・・」
「あー、もう!お前シンポねーわ!サル以下だなクズ女!お前の頭ン中どーなってんだよ!」
ここまで私のことを言えるこいつは何なんだろうか。
本当に人間なのだろうか?
私にはこいつは人間には見えない。
それどころかすべてが人間に見えない。
何もかもが自分の欲望のままに生きる獣。
汚らわしい獣だ。
「・・・」
「んだよ、だんまりかよ。どこまでも意味わかんねーし」
なんだろうか。
もう言葉にノイズが走ってきている。
汚らわしい獣が話す人間の言葉。
でも、そんなものは汚らわしくてとても聞けたものじゃない。
だけど私はこいつを殺さなくてはならない。
こいつだけじゃない。
この汚らわしい獣どもを
全部殺して
そして理想の世界を
作るんだ
自由で
抑圧されなくて
幸せで
友達がいっぱいで
それで
報われる世界を。