Ep1:4
※注意:今回は陶芸家の皆さんをバカにするような表現が出てきますが、この作品はフィクションです。実際にそう思っているわけではありませんのでご理解ください。
「こんにちはおじさん」
「お、よお!久しぶりじゃんかー。元気だったか?」
訪れたのはとある陶芸工房。
そこにいるのが私のおじさんである。
普段はたまに遊びに来たりしているのだが、今日はまた陶芸を習いに来たのだ。
「ん?どうしたんだ急に。また陶芸を習いたいだなんて」
陶芸に関しては昔ノリで習っていたことがあり、その才能もある程度は認められていた。
まあ、やめたのはほんの数か月前なので2、3日練習すれば目的は達成できるだろう。
今すぐにでもぶち殺してやりたいものの私がつかまったりしては元も子もない。
これは必要なことだから仕方ない。
そう言い聞かせるしかないだろう。
「お、結構まだできるんだな」
「そりゃあ、猛練習しましたから」
ノリとは言ったものの、結構まじめにやっていた。
一応人に見せても恥ずかしくない程度のものはできた。
といっても、肝心の焼き物ではなく釉だったが。
「やっぱお前のは綺麗だよなー」
配薬を1パーセントでも大参事だ。
それだけでとてもではないが、見るに堪えない汚らしい色合いになってしまう。
その点私の配薬は完璧で、なおかつ綺麗に色を出すことができる。
「けどなー・・・悪いけどこれだとダメだな。そこに捨てといてくれ」
釉を作るのに一日近くかかる。
一応電気窯もあるのだが、私が使いたいのはそっちじゃない。
「本当にそっちで大丈夫か?」
「ええ、私は機械苦手だし」
「ねえ、あんたー。お見舞いいったわけ?」
「・・・」
たぶんこのリーダー格の女はあの同調女のことを言っているのだろう。
「だからなんか言えっての!!」
今日は取り巻き女も来ているようだった。
ショックで自殺でもすればよかったのに。
「あ、そーいえばこいつの趣味聞いたー?」
「あ、知ってる知ってるー!土いじりでしょー!?」
ほら引っかかった。
わざとお前らの取り巻きの前で陶芸の本を落としてやったのだ。
これで私の趣味が陶芸ということがきっと伝わったのだろう。
「ちが・・・ます・・・」
精一杯の否定の演技。
ぶっちゃけ、お前らをぶっ殺すためにしていることだから趣味でも何でもないし、バカにされても痛くもかゆくもないのだが、やはりこれも復讐の過程では必要なことだから。
「えぇー?なぁーにぃー!?きっこえなぁーい!!」
うっざ。
思わず言いそうになるが、そうなっては陶芸の話題から外れてしまい、もう一生その話題がこいつらの口から出ることはないだろう。
ここは我慢だ。
「違います・・・土いじりなんかじゃありません・・・」
「はぁ!?土いじりじゃなきゃなんだってのよー!あんな小汚い土こね回して何が楽しいっていうのよ!」
ここで、私はがたっと立ち上がる。
逆上した風を装うためだ。
「そ、それはあなたたちが陶芸ができないからねたんでいるんでしょう!?自分にできないことが私にできるのが悔しいからそう言ってるんでしょう!?だ、だからってそんなバカにしないでください!」
私が突然そんなことを言ったためか、一瞬きょとんとする。
しかし、その表情はみるみる憎悪にゆがみ、言葉より先に手が出た。
気が付いたら私は地面に転がっていて、どうやら殴られたらしい。
「調子に乗ってんじゃないわよ!このブス!!あー、いいわ!そこまで言うならやってやろうじゃないの!あんたみたいな幼稚な土いじりよりも私のほうがよっぽどうまくできるっての!!」
「い・・・痛い・・・痛いです・・・や、やめ・・・」
「ハンッ!あんたが調子に乗るのが悪いのよ!そこまで行ったんだからあんた自分がどうなるかわかるわよねぇー・・・?陶芸教室だか何だか知らないけど、そこに先生はいるわけでしょ?ならそこで私らが作ったやつとあんたが作ったやつ、どっちがすごいか見てもらおうじゃないの」
「えー!?マジー!?それって私もあんなきったないことするってこと!?」
「そうよ、なに?あんたこいつにバカにされて悔しくないわけ?」
「そ・・・そりゃーさー・・・悔しいけどさー・・・」
「フン、なら決まりよ。今日の放課後案内しなさい!」
「えー!!やっぱり私もキョーセー!?」
これでうまくいった。
私は床に顔をつけて、周りから見えないようにしながらこっそりと笑うのであった。
「うっわ、なにここ・・・つちくっさ」
「しかも見るからにくらーい感じだし―・・・。ほんと、根暗で陰険なあんたにはお似合いよ」
陰険なのはそっちだろうに。
まあ、復讐の仕方は確かに根暗で陰険ではあるけども。
「・・・お、どうした?友達か?」
「あ、はい!じつはぁーわたしたちもぉートーゲーにキョーミがあってぇー」
相手が中年オヤジと分かったとたんこの態度である。
おおかた、その勝負というのも色仕掛けなりなんなりしてイカサマする気なのだろう。
本当にどうしようもないクズどもだ。
まあ、万が一にもおじさんなら色仕掛けに騙されるようなことはないだろう。
ガキが調子に乗るな、10年後なら相手してやる、とか言いそうだ。
それはそれで見てみたい気もするが。
「あー、悪いけどな。結構大変だぜ?完成するのに何日もかかるし、数時間で完成ってわけにはいかねえんだ」
「あ、大丈夫ですよぉー。わたしたちぃーケッコー暇なんでぇー」
ていうか、色気でも出しているつもりなのだろうがはたから見たら頭が残念なバカにしか見えないのが滑稽だ。
笑いをこらえて真顔でいるのが相当つらい。
たぶん今の私の顔は若干ひきつっているだろう。
おじさんはそんなバカ女二人に若干あきれているのか面倒くさそうに相手している。
ふと、私と目が合ったのだがその目は『友達は選べよ』って目だった。
わたしは『すいません』とアイコンタクトする。
なんとか意志は通じたのか、二人は工房内に案内される。
普通はこういうものは出入り禁止のはずなのだろうが、うちのおじさんは何かと緩い。
しかし、当然のことながらその辺にあるものに触れるのは禁止だった。
「釉程度ならそんな危険はねーし配薬さえ間違えなければバカでもできるだろ」
そういって、私たちは釉を作る体験をすることになった。
本人たちはみんなでツボなりなんなり作って勝負がしたい、と提案したが
「はあ!?お前らみたいな危なっかしいやつらにそんなことさせれるわけねえだろ!」
と、一蹴されていた。
一応おじさんも『そんなに勝負がしたいなら釉の出来栄えで勝負していろ』と言っていた。
おじさんは配薬をきちんと守っていれば経験などで多少の違いは出るが、だいたいは同じになるだろうと思ったからか、そう言ったのだろう。
そうなると勝つのはもちろん私であるのだが、この二人はわたしのことを過小評価しすぎている。
何をやってもダメ、何をしても最底辺、絶対に自分たちに勝つようなことはありえない、そう思い込んでいるのだろう。
しかし、今はそんなことは関係ない。
どうせ、お前たちはここで死ぬんだから。