Ep1:1
「あははははは、無様よねえ?」
「ねえ?」
「ほんとほんとー!」
私を見下す三人の女子生徒・・・そして、信じていたはずの最愛の彼。
どうして?
昨日まであんなに・・・。
なんで・・・?
どうしてなの・・・?
「おら、わめけよ!ブス!!」
「おらおら!何とか言えよ!このクソ女!!」
「ぎゃははははは!ほんときもーいぎゃははははは!」
ひどい・・・。
私が何をしたの?
私は普通に過ごしていた。
普通に彼氏を作って、普通に生活して・・・それで・・・それで・・・。
なのに・・・なんで?
・・・ど・・うして・・・。
「チッ、つっまんねーの」
「ほんとほんとー」
「あーあ、無駄な時間過ごしたわ。それもこれもこのっ!クソ女のせいよ!!このっ!どうしてくれるってのよ!!」
痛い・・・。
けらないで・・・痛いから・・・。
「チッ、最後までだんまりかっての。とことんつまんねー女ね」
つまらないの?
つまらなかったらいけないの?
それに私よりあなたたちのほうが絶対に悪い。
なのにどうして私はこんな目にあってるの?
「ねえー?あんたはあんなのと私らとどっちが・・・いい?」
「はは、おかしなことを聞くんだな。そりゃあ、もちろん・・・」
もちろん・・・私だよね?
私は期待を込めた目で最愛の彼を見つめる。
お互いの幸せを誓い合ったわたしたち。
そんな彼ならきっと私のことを・・・。
「お前らだよ」
・・・え?
「ぎゃはははは!見た!こいつの目!!バッカみてえね目!!ギャハハハハハハハハハハ!!」
「ほんとー!なーにこいつー!まだ彼女面してやがるんだー!」
「あははははは、ごめんなさいね。そうとは気づかなかったわ。なら、教えてあげる」
今度は頭をリーダー格の女に踏みつけられる。
鼻からは歪な音がしたので、たぶん思いっきり踏まれた。
「もう!こいつは!!あんたのことなんて!!!これっぽちも好きでも何でもないのよ!!ねえ?」
「ま、ヤらせてくれるなら別だがな。もちろんお前が金を払ったら・・・だけどな」
「なにそれキチクー!」
「えー?でもこの女ならそれでもいいのかもよー?なんたってこいつは『あなたが大好きなんですぅ』だしー!!」
「あーそれめっちゃウケるー!てかまんまじゃん!!」
違う。
違う違う違う違う違う違う。
悪いのは私じゃない。
お前たちが悪い。
全部全部お前たちが悪い。
なら・・・もういいや・・・。
全部・・・全部ぶっ壊してやる。
私が味わった苦痛を、すべてをお前たちにぶつけてやる。
帰宅。
「・・・ただいま」
といっても誰もいない。
わたしはいわゆる孤児というやつだった。
最初は孤児院で育っていたが、この年になると経営の関係もあって半ば追い出されるようにして孤児院を出た。
それからはバイトなりなんなりでうまくやっていってる。
幸いにも一人なのでうまく節約すればそれほど光熱費や食費などもかからない。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
復讐する対象は四人。
特に私を散々もてあそんだ挙句裏切ったあの男・・・あいつだけは絶対に許さない。
だから最後にとっておくことにした。
では、最初に誰を殺すか。
当然リーダー格のあの女は最後から二番目だ。
あいつもとことん苦してから殺す。
だから、取り巻きの中でも・・・一番周りに同調しているあの女。
あいつからだ。
幸い住所などはすでに分かっている。
普通の一軒家で回りの家とは少し距離がある。
とてもいい。
最高の条件だ。
そして、この周辺は昼間は人気が少ない。
みんな学校や仕事などで家を空けているのだ。
当然物取りの犯行などを疑うだろうが、意外とこの周辺にはなぜか物取りが起きない。
だから『自分だけは大丈夫、どうせ他人事だ』という認識が強い。
今回はそれが命取りとなる。
「起立、礼!」
「おはよーございまーす」
適当に朝礼を済ませてホームルームを終える。
するとやはりやってきた例の三人組。
あいつはいないようだ。
「なーにー?あんたまだ生きてたのー?てか、こっち来ないでくれる?チョー迷惑なんだけど」
勝手によってきたのはそっちだろうに。
「つーか、その鼻なに!?そんなんでよく外に出れたわね、あんた周りとか気にしないタイプなわけ?マジケーワイかっての」
誰が原因でこうなったと思っている。
「ホントホント、あー、もう話してるだけで口腐るわー」
私はお前とは話していない。
勝手にお前たちが私に言いがかりをつけているだけだろうに。
しかし、私は何も言わない。
いや、何か言ったところでこいつらにはどうあがいても勝てないのはわかっている。
結局うまく周りを利用して私のせいにされるだけだ。
「だから何と言えよ、このブス!」
机をけられる。
若干おなかにめり込んでいたい。
そして、私が何も言わないのをいいことに次第に行動はエスカレートしていく。
「は?あんた何様よ!私らはなんとかいえって言ってんのよ!!」
「ああ、もう!どうせ無駄よ。かまうだけ時間の無駄!」
「ほんとそれ。とりまー、ジュースでも買わせる?」
「あんた何言ってんの!?こいつのことだからクソまずいの買ってくるかもだし、毒とか入れられかねないっての!」
どうやって蓋も開けずに缶ジュースのなかに毒を入れるのか。
「あー、それなー。んじゃ、こーゆーのはどう?こいつに授業中になんか一発芸やらせるっての!次の授業クソまじめちゃんの田村でしょ?それやらせたら田村がマジ激おこでこいつエンドじゃね?」
「お、それいいじゃーん。んじゃ、そーゆーことで。よろしく!」
「絶対やれよ!」
「やらなかったらどうなるかわかるよな!?」
当然私はやる気はない。
どうせ大したこともできないのに粋がっているだけだろう。
なら、無視するのが一番だ。
もちろん、復讐はするけど。
「てめえ!どういうことだよ!!」
「なんでやらなかったんだよ!!」
昼休み。
私はオン・ザ・ライスというどうみても普通の白米にしか見えないご飯を食べていたところ、半ば強引に旧校舎の空き教室に連行された。
「・・・」
「だから何と言えよ!」
旧校舎という人気の少ない場所のさらに空き教室という人が通りかかりすらしない場所ということもあってやりたい放題だ。
まあ、殴られたわけで。
「ね・・・ねえ・・・殴るのはやりすぎなんじゃない・・・?午後の授業もあるし・・・」
「はあ?あんた何言ってんの?私はねー、あざにならないように殴ったりできんのよ」
「マジ!?んじゃ、やりたい放題じゃん!!」
「そゆこと、ってわけであんた・・・一時間目はよくも私らの言うことバックレたわね」
・・・バックレるの使い方が少し間違っている気もする。
しかし、やらせたいようにやればいい。
その分だけ復讐に上乗せされるのだから。
今日は復讐の日だ。
例の同調女の帰りは割と早い。
部活などもやっていないためか、まっすぐ家に帰る。
意外と真面目らしい。
ここ数日で分かったのだが、こいつどうやら彼氏に手作り料理をあげるのに嵌っているようだった。
そういうわけで高確率で台所を使用する。
だいたい家の構造はわかったので、台所のある位置をしばらく観察していたところ、どうやら帰ったらそのまま台所にいくらしい。
つまり、家のほかの状況などには眼もくれないわけで。
あと、この周辺には空き地がある。
そこではよく子供たちが野球なりサッカーなりをやっているみたいだ。
観察している間も何度か野球ボールを窓にぶつけて割り、怒られるという定番の展開が繰り広げられていた。
ここの家では起きなかったものの、位置的にここもそうならないということはない。
むしろ、そうなる可能性は高い。
私はちょうどそのボールが当たるであろう位置の窓にガムテを貼り、コンポで殴る。
すると対して音はせずに窓ガラスは割れる。
あとはガムテをはがすだけだ。
念のため買ってきた野球ボールを転がし、窓の破片もまとめて散らばしておく。
多少無理があるが、まあ関係あるまい。
今度は台所に入り確認をする。
思った通りガスコンロだ。
ガスボンベがあったため、たぶんIHではないだろうと掛けていたものだが。
あとは包丁でガス管に切れ込みを入れ、ライターで適当に炙る。
若干劣化していた風に細工をしておく。
まあ、あまり関係はないだろうが。
あとは、ガスの元栓を空けて放置。
入った経路から出て何食わぬ顔で散歩している風を装う。
都合のよいことに台所にはドアがついていたため、ドアを閉めて台所を密封する。
さて、何がしたいかはもうわかっただろう。
あとは、あの女が勝手にやってくれる。
家ごと爆発ということにはならないだろうが、あの女は重傷を負うだろう。
窓が割れていたのは近所の空き地の子供のせい、ガスコンロが爆発したのは経年劣化のせいという風に見せかけてある。
結果が楽しみだ。