第三話 手錠が熱い
十七の袋とじを開けて
十七歳の時の俺を語れるくらい、
ずっと覚えておきたい思い出の日。
登校するのに足を使うのは勿体ないが、駄菓子屋へ向かう足取りは軽い。
人っ子ひとりと遭わず路地を行く。
店の前に着くと、扉越しに声がした。
静かな通りだと、ひそかな声でさえ敏感に耳が聞きたがる。
一度躊躇したせいで入るのに勇気が必要になった。
ちらちらと周りを確認しながら、扉に耳を当てて盗み聞きをする。
奥のほうに居るのか声が籠もってて内容は聞き取れない。
その声は若くて自分と近い歳に感じた。
そう思うと躊躇より、勇気が沸いてきたから入ってみた。
古い扉の軋む音が、いつになく響くよう。
その音に気付いたおばちゃんが、来てこう言った。
「丁度よかった。遊びに来ている子がいるから、おいで」
そう言って、奥の居間へ誘う。
ちゃぶ台に置かれた、
飲みかけの三瓶のラムネのそこに、新しいラムネが加わった。
「皆、この子も同じ十七歳だから話してみたら」
そうしたちょっと困る配慮に、照れた俺は遠慮して、おばちゃんの後ろに隠れるように引いた。
すかさず「照れ屋なの」と間を埋める。
「俺達も照れるよ」となんだか楽しそうに言った。
続けて「何処の高校?」と同じ子が聞く。
おばちゃんが代わって。
「すぐそこの東高校だよね」に、うん。と頷いた。
「じゃあこの駄菓子屋にもよく来てるの?」
「ほぼ毎日だね」にも、うん。と頷く。
「俺達もたまに来てるけど、会ったこと無かったね」
「この日のために神様が取っておいてくれたのよ」
場の雰囲気が軽やかに変化するのを肌で感じる。
最初に俺に興味を示したのが、けっくんだったから、初めてじゃないみたいなどこかで会ったような感触が心地よかった。
あとから知った、明人は歳が一つ下だということ。
友達は友達を生む、学校よりも家よりもここがいいんだ。
嗚呼、汗で蒸れて痒みを生む手首の、熱くなった金属が現実へ引き覚ます。
手錠を外してもらわなければいけない、そもそもの自分が悪いのだから、
ーやっぱり戻ろうー
なんて言えない。
すると
「やっぱ戻るぞ」とけっくんが言った。
顔にでも出ていたのか俺の気持ちを察したようだった。
「おばちゃん自転車借りるよ」と言って立ち上がった。
ちょうどある二台ともども、錆びたカゴ、黒板を爪で引っかいたようなブレーキ音、漕ぐ都度引っかかったチェーン音がする、おんぼろの二人乗り自転車を手錠をしたまま突っ走った。
中心を掴んでバランスをとった、不規則に当たる風が汗を冷やして気持ちいい。
倒れそうで倒れない感覚が楽しくて、ここは笑い声で溢れてる。
数十分走っただろう、目前の警察署の入口を曲がった際、それでバランスを崩した車輪は八の字を描きながら横転した。
一部始終を見ていた、入口に居る警備員が「大丈夫?」と聞いてきた。
この時はまだ手錠に気付いてなかったもんだから爽やかに笑っていたが、
中心に寄せられた、手首の光る飾り物は手錠だと気付いた瞬間、鬼の形相で俺達を軽蔑の目で見てきた。言葉が詰まり息を飲んだ。
更新遅めで申し訳ありません。