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第1話 不愉快なボーイミーツガール

赤崎は、奇妙な話を続けた。

自分は、相手の目を見たら心が勝手に読めてしまうということ。記憶している限りでは、幼稚園児のときから何となく相手の考えがわかっていたこと。彼女は俯いたまま、呟くように語っている。

「成長するにつれて、何となくじゃなく、相手の心をはっきりとわかるようになっていったわ。中学を卒業したら、もっとはっきりと相手の心がわかるのかもしれないわね」

「お、おう……」

「別に、自分から読むのは平気よ。でも急に目を見てしまうと、怖い。心の準備ができていないのに、相手の感情が浮かんできて、頭に入ってくるから」

「そ、そうか……」

「あと、目が合うと、単に目を見るときよりもはっきりと相手の気持ちを読み取れるようになる。まぁそんなかんじよ」

話がぶっ飛びすぎていて、どれも俺からしたら信じられないものばかりだ。

「何だよそれ、わけわかんねぇしありえねぇだろ。あ、じゃぁ俺が今何考えてるのか当ててみろよ」

「……わかったわ」

彼女は、じっと俺の瞳を覗き込む。俺は、わざと予想できなさそうなことを考えようと、頭にハンバーグを思い浮かべていた。

美味しそうなハンバーグ。じゅーっと音がしていて、湯気が立っていて……。

「『予想できなさそうなことを考えよう』、『美味しそうなハンバーグ』」

「うげっ!?なっなんでわかったんだよお前、何者だ!?」

「だから、心が読めると言ったでしょう」

「じゃぁこれはどうだ!?」

青い空に浮いているふわふわの雲の上で寝転ぶ俺を思い浮かべる。まぁ仮に空を飛べたって、雲の上って実際には横になれない、そのくらいはわかっているけれど。

「何故ハンバーグの次に雲のことを考えるのかしら」

「うおぉぉっ!?」

「何を考えても無駄よ、読めるから」

「お、おいおいマジかよ」

「……ただ、心の中で思い浮かべている映像のようなものは読み取れない」

「そ、そうなのか?」

「ええ、心の中で読み書きするような思考は読み取れるけれど。でも、何かを描いたり映像を思い浮かべたりするようなタイプの思考は読み取れないの。それから、本人がはっきりわかっていない感情であればあるほどはっきり読み取れなくなる」

「ふぅん、中途半端だな」

「そうね」

俯きながら、彼女は淡々と話している。

「まぁつまりさ、お、お前といたら心読まれるってことか……」

「ええ、目を見れば」

そう言って、彼女はじっと俺の目を見つめる。

「わけわかんねぇけど怖いなこいつ、って思っているでしょう」

「だってお前俺の心読めてんじゃん、そりゃ怖ぇよ」

「そうでしょうね」

そう呟き、また俯いた。赤崎の前髪が、彼女の目にかかっていた。

正直今でも半信半疑だが、それでも間違いなくこいつは二度も俺の心を読んでみせたのだ。

何故こんな奴がいるのかはわからない、わからないがいったん信じてみるしかないだろう。

「うーん、その辛気臭い雰囲気なんとかしろよ」

「別に辛気臭いって思われるくらい平気だもの、慣れてるから。だからなおすつもりはないわ」

本当に心が読めるとして、読めてしまうのは仕方がない。だが、そんな力、不気味に決まっている。それは間違いない。ただでさえ不気味なのに、そんな辛気臭いようでは。

はっとして俺は彼女に意識を向けると、彼女はじっと俺の瞳を見つめていた。

ーーあ……!

「別に気を遣わなくて結構よ、慣れてるし」

そう言って、一呼吸おいてから赤碕は続けた。

「仕方がないのよ。私はこういうものだから、諦めるしかない。人の本音や悪意を知ってしまった。どうしても、みんなみたいにうまく笑えない。仕方がないのよ、だからこれでいい」

「いいって言ったってさぁ、あーもう!」

その諦めきった態度が、どうしても受け入れられない。不愉快だ、何でこいつはそんな目をする。

「そうでしょうね、そう思うのも仕方のないことだわ」

「……っ」

俺が黙っていると、彼女はまた俯いてしまう。

「あぁ、それから。さっきの失礼な態度、本当にごめんなさい。貴方は心配してくれただけだったのに」

「んだよ、今更」

「そうね、今更だわ」

事情がわかった今、大丈夫だよと笑顔で言ってやればいいのに、何故かそれができなかった。

心を読まれた苛立ちだろうか、それとも根に持ってしまっているのだろうか。

いや、どちらも何かが違う。

ただ、ただただ不愉快だった。

こんな奴、俺は知らない。こんな奴、俺は違う。俺はこんな、つまらない奴とは違う。つまらない、笑わない、毎日退屈そうに生きてて悟ったような顔しててわけわからなくて……!

何故こうもこいつの存在がひっかかるのか。こいつのその辛気臭い表情が、態度が、何故こうも腹立たしいのか。

俯いた赤崎の悲しげな瞳に、心をかき乱される。こんなに腹が立つのに、何故さっき帰ろうとしたとき、振り向いてしまったのか。

こいつといると、心の奥の触れてはいけない部分が揺れ動く。それがどうしても不愉快だ。

その瞬間、チャイムの音が俺を現実に引き戻した。

「っ!」

その瞬間勢いよく立ち上がり、俺はその場から離れた。

「俺、帰るから」

「そう」

「また、たまにここ来るからな!文句言うなよ、もともとここは俺がいた場所なんだからな!」

「言わないわ、私にそんなことを言う権利はないもの」

「あーっもう、それから!」

「何」

俯いたままの赤崎の正面で、俺は吐き出した。

「痛かったら言えよな、階段の件は悪かったよ!じゃぁな!!」

踵を返し、今度こそ振り返らずに俺はその場から去った。わけのわからない感情をかかえたまま、人気のある方向へと歩いていった。

「ありがとう」

赤崎の声が背中にかかる。酷い態度をとってしまったと、ふと情けなさがこみ上げてきた。

「わけわかんねぇ」

誰に言うでもなくぽつりとそう吐き捨て、俺は一人教室に戻った。

第1話です。読んでいただき本当にありがとうございます、これから話がはじまっていきます!よろしくお願いいたします。

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