鯉を抱く。
ネチネチと部長に小一時間ほど説教をされたその夜、おれはコンビニで購入した缶ビールをチビチビと舐めながらいつもの遊歩道を通って家路を急いでいた。
その途中、いきなり大きな水音が立ったので、思わず身をすくませて音がした方を振り返る。
遊歩道の脇にある小さな水路にはふさわしくない、かなり大きな魚影が薄暗がりの中に確認できた。
この水路、こんな大きな魚が棲んでいたのか。
半メートルまでは届かないものの、三十センチ以上はあるだろう。
おそらくは、鯉だ。
やつら、多少は劣悪な水質でも、あまり関係ないというしな。
酔っていたこともあり、おれはその場で靴を脱いで水路の中に飛び込む。
浅く、せいぜいふくらはぎくらいまでしか濡れないようなチンケな水路なのだ。
おれはそのまま浅い水路の中でのたくっていた鯉に一気に近づき、高笑いをあげながら身を屈めて、がばっと一気に両腕でその鯉を抱きあげた。
そして次の瞬間、おれは盛大なくしゃみをして、それと同時に一気に空しさに襲われる。
いい年齢をして一体なにをやっているんだ、おれは。
鯉を抱きあげたときの高揚感が、一気に霧散していた。
当然、おれは腕の力を抜いてだらんとさげ、いましめを解かれた鯉はそのまま水路の上に落ちる。
鯉はそのまま身をくねらせて暗がりの中に姿を消した。




