現代社会における召喚魔法の実際。
寒波とやらやって来るそうなので、ホームセンターから金盥を購入してきてその中にサラマンダーを召喚してみた。
無事に召喚に成功したサラマンダーはパチパチと勢いよく燃続ける体躯を持ち、手をかざしてみると非常に暖かい。
勢いよく燃え続けるのはいいのだが、その度に身体中からもうもうと黒い煙を吐き続け、ついには火災報知器が反応することになった。
あわてて報知器のスイッチを切り、窓を開けて換気扇を回す。
ミゾレはすでに止んでいたが、外気の気温は思いのほか冷たく、ボロアパート内の空気が入れかわるのと同時に、室温ががくんと一気に低下し、わたしは大きなくしゃみをした。
「どうしたもんかな」
今のわたしでは、喚び出したサラマンダーを元いた場所に戻せるところまで魔力を回復するためには、たっぷり数日は必要となる。
その間、盛大に煙を吐きつつ燃え盛るこの物騒なトカゲを、どこかに置いて置かねばならない。
アプリで不特定多数の知人たちに相談をしてみると、某飲食店勤務の先輩から預かってもいいという返信があった。
「定期的に召喚してもらって、食材として卸してくれるのが一番手っ取り早いんだが」
とも、提案をされた。
「美味いんですか? サラマンダーって?」
「試してみなければわからん。
前に試してみたウーパールーパーはなかなかいけたが」
ちなみに、そのウーパールーパーも一部の文化圏においてはサラマンダーと呼ばれているらしい。
ただ、その先輩が提示してきた卸値が予想外に低額であったため、その申し出については丁重にお断りしておいた。
数日分の魔力と引き換えにして千円以下では、いくらなんでも割りが合わなすぎる。
ということで、件のサラマンダーは、その先輩が勤務する炉端焼きの店の囲炉裏の中に匿われている。




