雨の朝の憂鬱
まださほど冷たくはないな、というのが今朝の雨に対する率直な感想だった。
雨よりも時折吹いた強い風の方に、冷たさを感じる。
この時期ならばこんなもんか、と拍子抜けしている部分もあった。
それでも自宅からえきまではそれなりに歩くので、特に足元はすっかり濡れ鼠となる。
傘をさしていてもそれなりに濡れてしまう部分でもあり、特に靴の中にまで水が入り込んできて大変に気持ちの悪い思いをする。
職場がある駅までには、湿気がこもる車内に乗り込んでから三十分もいった先にあった。
車内はそこそこの込み具合であり、みなそれなりに不快に思っているのであろうに、しれっとしたよそ行きの顔をしている。
おれもせいぜいなんでもないふりをして、不快感を表に出さないようにして耐え続けた。
ようやく職場に近い駅に着く。
その駅から職場の事務所までは徒歩で五分ほどである。
雨の方は、家を出たときほどの雨足はないが、それでもまだ降り続いていた。
人混みの流れに紛れるようにして職場にむかい、小さな雑居ビルのエレベーターをあがってその中の一室の扉をあけると、挨拶の声を出す前に、
「おはよーございます!」
と元気良く挨拶をされた。
「先生、足元が雨に濡れましたよね?
さあすぐに靴下を履き替えましょう!
こちらに替えの靴下を用意しています!」
滔滔とまくしたてられて、こちらとしては渋面を作るしかなかった。
二十歳になるかならないかという年頃のこの事務員は一種の匂いフェチで、それもこともあろうか普通ならば不快にしか思えない、蒸れた靴下を匂いを嗅ぐのが大好きときている。
朝から雨が降っている日にこちらの機嫌が若干悪くなるのも、この事務員の性壁に起因するところがおおきかった。




