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隙間風
帰宅する途中、自分の胸の中に 不恰好な隙間があって、その中を冷たい空気がひゅーひゅーと通り抜けて行くことに、不意に気づいた。
しかもそれは自分だけでのことではなく、道行く人たち全員がそうなっていって、全員揃ってぴゅーぴゅーと音を立てて冷たい空気が通り抜けている。
これまで自分がそのことに気づかなかったこと、この場にいる人たちがそのことに気づいた様子がないことが不思議でならなかったが、とにかく一度気づいてしまえばその音はとても耳障りでとてもではないが無視することはできなかった。
思わずその場に立ちすくみ、自分の両耳を両手で塞ぎ、渋面を作って振り返る。
するとそこの駅のホーム上では、家路を急ぐ人々がみっしりと密集して隙間風の合唱をしているのだった。




