紅葉狩り
今年もまた紅葉狩りの季節となった。
憂鬱で剣呑なことだ。
また何人か、あるいは何十人かの犠牲者が出るのに違いない。
聞くところによると、大昔の紅葉狩りはただたんに紅葉を眺めるだけの儀式に過ぎなかったそうだ。
古き良き牧歌的な時代!
どうやら、その当時の紅葉は人を襲わなかったらしい。
おれたちが毎年この時期にわざわざ危険を押して紅葉狩りを行うのは、やつらを適度に間引きしておかないと里まで降りて来て人を襲うようになるからだった。
そうでもなければ、なんでわざわざ危険ばかりが多い山の中に分けいるだろうか。
そんなわけでおれたちは今年も熱線銃を携えて大勢で山の中に入って行く。
するとすっかり紅葉して落ちてきた葉がピィキイと悲鳴のような鳴き声をあげながらおれたちにむかって殺到してくる。
やつらは小さななりをしている割に非現実的なほどに鋭利な葉をびっしりと生やしているので、食いつかれればたとえ強化服を着用していても食い破られてかなりの深手を負う。
おれでもおれ以外の誰でもそんな痛い目に合うのはごめんだったから、おれたちは必死で熱線銃を操ってその小さな的をひとつひとつ焼き殺して行く。
なぜ山なり森なりを丸ごと焼こうとはせず、そんな面倒なことをしているのか、だって?
それは、山の中にはある意味で紅葉なんかよりもずっと剣呑で危ない連中がいるからさ。
ほれ、噂をすれば。
雄叫びをあげながら、やつらが、山童の大群がやってきた。
そして、山童たちもぎゃあぎゃあ騒ぎながらおれたちとは少し距離をとって、紅葉を狩りはじめる。
やつらにとっても、この時期に無数に降り注いで来る紅葉は天敵といっていいほどの脅威であり、必死になるのもそれなりの根拠があるわけだ。
また、やつら山童の存在が、おれたちが山を丸ごと焼いてしまわない理由でもある。
山童たちはあれでそれなりに頭がまわり、動けない樹木とは違って、山自体に火を放てばどこかに逃げ隠れてやり過ごす。
おれたちにとっても山童たちにとっても非常に厄介な存在である紅葉と紅葉を生成する樹木とは、おれたちと山童の生活圏をうまいこと分断するための緩衝装置にもなっていた。
両者にとって共通の敵ともいえる紅葉の存在があるから、おれたちと山童は直接衝突せずに済んでいる部分もある。
「ドウヤラ、ココイラハ片ヅイタヨウダナ」
半日ほど無数に降り注ぐ紅葉と格闘をしたあと、山童のうちの一匹がいった。
「まあ、明日にはまた同じくらい降ってくるだろうけどな」
おれは素っ気ない調子で応じる。
正直、こんな毛むくじゃらっとあまり仲良くしたくはなかった。
「ナニ、スグニ冬ニナル。
ショセン、ソレマデノコトダ」
その山童はしたり顔でそういった。
「へいへい」
おれは適当に流す。
「また、明日な」
正直、再会を望む気持ちなどこれっぽっちもないのだが、山側と里側、両方から挟撃する形でないと紅葉を狩りきることはできないのだから仕方がない。
「オ前ラハ、マダ自分ノコトヲ人類ダト思ッテイルノカ」
全身毛ムクジャラノ山童はそんなふざけたことをいいだした。
「本物ノ人類ノ末裔ハ、オレタチダ。
環境ノ変化ヲ予測シ、厳シイ環境デモ生キ長ラエルヨウニ、遺伝子ヲ操作シタ。
オ前ラハ、オレタチヲ補佐スルタメニ合成サレタ存在ニ過ヌ」
もちろんおれは、そんな妄想に溢れたたわごとにはつき合わなかった。




