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わだかまり!
だいぶん待ち合わせに遅れて来た彼女は、ぼんやりとしてごちゃごちゃっとしたカタマリをぼくに手渡して、
「別れよう!」
と、唐突にきり出してきた。
「なんでまた?」
ぼくは目を見開いて聞き返した。
「ぼく、なんかしたっけ?」
「してないけど!」
彼女はそういって踵を返し、足早に去っていく。
「君が悪いせいではないけど、とにかくもうつき合えない!」
「ところで、今貰ったこれ、なに?」
ぼくは彼女の背中に、そう声をかける。
「わだかまり!」
彼女の背中はあっという間に小さくなって、人混みに紛れてみえなくなった。
そうなってから、ぼくは彼女に手渡されたぼんやりとしてごちゃごちゃっとしたカタマリに視線を落とし、腹立ち半分にその物体を足下に投げつけた。
そいつは地面に大きく跳ね返ってから、なぜかぼくの頭上に停止し、空中のある一点で制止した。
ふと見渡すと、道行く人々の頭上にもそうしたぼんやりとしてごちゃごちゃっとしたカタマリが浮かんでいて、人の動きにあわせて動いているのだった。