あるサ店での遭遇
ふらりと立ち寄った片田舎の喫茶店で文庫本の色褪せたページを眺めていたところ、新しいお客が店に入ってきた。
ちなみに、ぼくがその店に入って以来、はじめての来客である。
「いらっしゃい」
白髪のマスターが渋い声で挨拶をしたが、ぼくはといえばその新しい客を見て目を見開く。
身長一メートルを少しこえるくらいの、直立したイタチだかカワウソだかが大きな徳利をもってひたひたと二本足で歩いていたのだ。
「やあ、どうも」
そのお客はいった。
「これにいつものやつ、並々で」
「かしこまりました」
どうやらそのお客は常連らしく、慣れた様子でそのままカウンター席によっこらしょとはい登り、マスターの方も万事わきまえた風で徳利を受け取った上でお冷やなぞをそのお客の前に置いている。
ぼくは最初の衝撃から立ち直り、スマホを取り出してカメラのアプリをたちあげ、レンズをそのお客にむけた。
「お客さん!」
間髪いれず、マスターがこのぼくにむかって鋭い声を出した。
「この店内で、そうした無作法は困りますね!
無断で他人にレンズをむけてもいいと思っているんですか!」
「え?
だって、その」
ぼくは動揺してなにをいっていいのかわからなくなる。
「こんなの、撮りたくなるに決まってるでしょ!」
狼狽しながらも、ようやくの思いでそういう。
「でしたら、そのままお引き取りください」
マスターはぼくにむかって、かなり厳しい口調でそういった。
「今後一切、うちの店への出入りは禁止させていただきます」
「え! そんな!」
ぼくは情けない声を出す。
理不尽だと感じた。
縋るように新しく入ってきたお客の方に目線をやったが、そちらは軽く肩をすくめてこう小さく呟いただけだった。
「実際、こちらもあまり注目は浴びたくないしなあ」
「お題は結構ですから、すぐにこの店から出て行ってください」
マスターがぼくの座っているテーブルの前までやってきて、断固たる口調でいった。
「うちではね。
コーヒー一杯で三時間以上も粘るふりの客なんかより、古くからのつき合いがある常連客の方がずっと大事なんだよ」
それ以上抵抗しても無駄だと悟り、ぼくはそそくさと荷物を片付けて逃げるようにその店をあとにする。
「あんな風に常連客ばかりを大事にするから、地方の商店街は閉鎖的になってさびれる一方なんだ」
とかぶつくさと文句を呟きながら、ぼくは釈然としない気持ちを抱えたまま帰路についた。




