ある夕暮れ、洗濯物を取り込もうとしたらベランダに腰タオルだけを身につけた男がぶらさがっていた。
洗濯物を取り込もうとしたらベランダにほとんど裸の男がぶらさがっていたので、おれはすかさずスマホを取り出して動画撮影を開始した。
「なにか言い残すことは?」
おれがそう訊ねると、その男はかなり狼狽した様子で、
「ち、違うんだ!」
という。
「猥褻物陳列罪。
うちのベランダに入ってくれば不法侵入になるな」
おれは冷静に指摘をしてやる。
ちなみにおれの部屋はマンションの四階にあった。
「め、迷惑をかけるつもりはない!」
男は叫ぶ。
「頼む!
このまま見逃してくれ!」
おれが見逃したとしてもなあ、とか、おれは考えるる。
階上では、男女がいい争う声が鳴り響いていた。
「なんとなくどういうなりゆきなのかは想像がつくけど」
おれはいった。
「巻き添えをくらいたくはないし、どの道いずれは誰かに通報されると思うから、先手を打っておれが通報しておきますね」
おれは何事か喚く男を無視してベランダへ通じるサッシを閉め、固定電話の受話器を取って警察に通報した。
不審者を見かけたら当局に報せるのは善良な市民の義務だしな。
警察への通報を終えたあとベランダの方に目をやると、あの男の姿はなかった。
タオルを腰に巻いただけのあの格好で、いったいどこに逃げたんだか。
結論をいうと、男はどこにも逃げられずにマンションに付属している駐車場の隅で身動きできなくなっていたところを駆けつけた警官によって保護をされた。
よく自力で地上まで降りることができたもんだと呆れたものだが、流石にその途中で複数の人に目撃されており、おれ以外にも警察に通報した人がいたらしい。
男が保護されたあと、おれのところにも警察が事情聴取に来たのだが、おれはスマホに録画しておいた動画を見せながら見聞したことをそのまま伝えておいた。
数日後、俺の部屋の直上に住んでいた夫婦がわざわざおれのところに引越しをするとあいさつしに来た。
都会の常として、これまでつき合いらしいつき合いもなかったというのに。
「この度は主人の恋人がご迷惑をおかけたようで」
仏頂面のご主人とは違い、奥さんの方は晴れ晴れとした笑顔でおれにいう。
「おかげさまで無事に離婚にこぎつけることができました」




