間違って名探偵が異世界に召喚されてしまった場合
「さて」
名探偵は自分が場違いな場所に立っていることに気づいた次の瞬間にはその鋭敏なる洞察力をフル稼働させ、ごく短時間のうちに自分が置かれた状況について理解していた。
「確かにわたしは数々の迷宮入り事件を 解決してきたが、これは迷宮違いというものだ。
悪いが、わたしでは君たちの問題を解決できそうにない」
召喚の間に居並ぶ王族や神官たちを不機嫌な表情で睨め回して、そういった。
想定外の反応だったので、召喚した側の人々は戸惑った表情で顔を見合わせる。
「あのう」
代表して、王女が名探偵に声をかけた。
「まだこちらの用件をお伝えしてもいないのですが」
「聞くまでもない」
名探偵はいった。
「どうせ、世界の危機だの魔王を倒せだの、そんな無理難題を押しつけてくるつもりなのだろう?
その種のトラブルはわたしの専門外、いや、ジャンル違いだ。
その手の用件はだな、元の世界にいたとしてもどうせなんの役にも立ちはしない学生とかニートみたいな連中に任せておくべきだろう。
そもそも、どんな基準でこの世界に召喚する者を選んでいるのだ?」
「ええと、それは」
おずおずとした態度で、召喚を担当した神官が前に進み出た。
「術式が正常に作動しているのであれば、この事態を解決するために最善の人材が自動的に選択されるはずなのですが。
ですがなに分、古くて難易度が高い上に滅多に使われることがない魔法なので、正常に作動していたかどうかは保証のかぎりではありません」
「なるほど、そういう状況か」
名探偵はもっともらしい表情で頷いた。
「そういうことであれば、あえてこのわたしが召喚されたことにも合点がゆく。
わたし自身がこの場に召喚されても君たちの問題を解決することはできないが、解決に至るまでの道程を差しすめすことは可能だ」
「と、いいますと?」
王様が卑屈な表情で名探偵に訊ねる。
「正直にもうしまして、今こうしている間にもわが王国は魔王軍にん蹂躙されているわけでして。
それをどうにかできるのであれば、こちらとしては誰が相手であっても構わないわけですが」
「君たちの問題を解決するために必要なのは、正義を愛する心とどんな困難にあっても挫けることがない不屈の闘志を持つ者だ。
さらにいえば、魔王軍などというなんでもありの非常識なやつらに対抗しうるだけの戦闘能力を持っていることが望ましい」
「ええ、ええ」
王様は名探偵の言葉に何度も頷く。
「われらが今必要としているのは、まさしくそういった勇士たちなわけで。
それで、そのような勇士たちに心当たりがおわりですか?」
「まさにうってつけの人材に心当たりがある」
名探偵はもっともらしい顔をしてそう断言した。
「性格と能力の両面で、まさにうってつけの人材だ」
「とうっ!」
「え?
ちょっと待った!
いきなり五人がかりとは……」
「アルティメットバズーカ!」
どかーん、と、魔王軍四天王は問答無用で爆散した。
しかしまだ安心はできない。
最初に登場する四天王は最弱であるというセオリーがあるからだ。
「あ。
原理はよくわからないけど巨大化した!」
「究極合体!
アルティメットロボ!」
カラフルなコスチュームの五人組が声を揃えてそう叫ぶと、どこからともなく安っぽいオモチャのようなデザインの巨大な物体がやってきて、次々と連結して最終的には巨大な人型ロボットになった。
「アルティメットスラッシュ!」
巨大化した最弱四天王は、その存在意義に疑問を抱くほどあっけなく巨大ロボによってあっという間に一刀両断される。
「あのう」
その様子を遠くからうかがっていた王様が、傍にいた名探偵に訊ねた。
「本当にこれで、いいんでしょうか?」
「適任ではあるだろう」
名探偵は表情も崩さずにそういいきる。
「なに、やつらなら紆余曲折を経て一年くらいかけながら最終的には魔王を倒せるさ」
名探偵にしてみれば、魔王を倒さなければ一度この世界に召喚された者を元の世界に戻せないという部分が不満ではあったが、それもセオリーというものだから仕方がなかった。




