「野良スライムに餌をやらないでください」
「野良スライムに餌をやらないでください」
という張り紙が電柱に貼ってあった。
「あの、これは?」
おれはその張り紙を指さして近くを通りかかったおばさんに訊ねる。
「ああ、それ。
最近多いのよ、野良スライム」
おばんさんはなんでもないことのようにいい放った。
「後先考えないで勝手に餌をやる人が多くて、すぐに増えるのよねえ」
そんな、土鳩か野良猫でもあるまいし、と、おれは思う。
少なくとも現代日本には、野生のスライムは生息していないはずだった。
仕事で飛び込み営業をするために適当に途中下車をした、郊外のある街でのことである。
「最近サトシのやつが西口公園のダンジョンにハマっててさ」
「えー、西口ぃ。
西口くらいで満足できるのは中坊までだよねー」
制服姿の女子高生たちがそんな会話をかわしすつつ、おれのすぐそばを通り過ぎた。
彼女たちはこれから学校へ登校するかのような格好をしていたが、背にいかついタワーシールドととか無骨なスピアをむき出しのまま背負っていた。
「学校裏のダンジョンさ、三階層で両思いになれるアミュレットがポップするって知ってる」
「ああ、サキ先輩がなんかそんなこといってた。
ゴブリンシャーマンを倒すと三パー程度の確率で落とすとか」
「それでB組のアズサがマジハマっちゃってさ。
このところずっとメンバーを入れ替えしつつ毎日潜っているんだって」
「マジで?」
「マジで」
ウケるー、ウケるー、とかいい合いながら、その女子高生たちは去って行った。
なんだ、今の会話は。
おれはそう思った。
ここは日本だよな?
まさか知らない間に異世界にでも 転移していたりしないよな。
周囲を見渡してもなんの変哲もない日本の街並みがあるだけで、これといった異変を察知することはできなかった。
まあ、いい。
おれは気を取り直して営業先を物色しはじめる。
この街がどんなに異常な街であるとしても、おれがやるべきことは変わらない。
少しでも営業成績をあげておかなければ、会社内におけるおれの地位が危うくなりかねない状態なのだ。
つまりは、おれの収入に直接響いてくる。
おれはしばらく歩いた末、大きな敷地を持つ住宅が密集している地区に入り、その中の一軒を選んでインターフォンを押す。
そして出てきた上品そうな仕事にご婦人に、必死になって持っているだけで幸運になる壺を売りつけるための口上を述べたてた。




