夏のため息
今年は台風の当たり年で、まだ八月も開けていないというのに、すでに甚大な被害を被っていた。
早くも次の台風は北上中であるとかで、その合間を縫うようにして片づけものをしてうると、ふう、と一瞬、上空から乾いた風が降りてきて、背中に当たる。
そううえば、嵐が去ったばかりだからか、周囲の空気も少し前のようにムッとした湿気を含んでいない。
ような、気がする。
暑い暑いと思いながらも、季節の方は順当に移ろう準備を整えているようだった。
「ええ、そうです。
昨日勤務先を出たのは確認したんですが、今になっても連絡がつかなくて」
わたしは電話越しに警察の担当者に伝えた。
「電話も、でませんね。
圏外なのか、電源を切っているのかまではわかりませんが。
昨夜はあれだけの荒れ模様でしたからどこかに退避していたことは考えられますが、今の時間になっても連絡がつかないのはちょっと、心配ですね」
せいぜい不自然に聞こえないように気を配りながら、わたしは「夫を心配する妻」の芝居をする。
わたしは夫の浮気にはまだ気づいていないし、車の整備不良にも気づいていないし、夫の性格ならばあの嵐の中、夫の同僚でもある浮気相手を送っていくであろうと予測もしていない。
夫の勤務先から割と辺鄙なところにある浮気相手の家にいくまで道に足場が悪い場所があるのも、夫には以前から不自然ではない程度の生命保険をかけていたのも、すべて偶然。
仮に彼らに万が一のことがあったとしても、わたしはあくまでなにも知らない、無力で哀れな主婦なのだ。
そんな無力で哀れな主婦であるわたしにしても、次にいく準備はしておかなくてわね。




