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遺憾
いかにも、数代に渡り蓄えた当家の蔵書といえば控えめに申しましてもそれなりのものなで御座います。正確に最後の一冊まで数えた者は今のところ皆無でありますが、五万、十万、いや、ひょっとするともっと上の桁に届くほどの書物を当家では蔵しております。
それだけ膨大な書物を管理に携わるわたくしどもの苦労なども、とてもではありませんが誠に筆舌に尽くしがたい。
一例を挙げますれば、紙片を食い尽くす衣魚の対策などは大変に気を使っております。
いつ虫食いがあっても修繕が可能なように蔵書の総てを諳んずる者を常に雇い入れ、虫食いを見つけ次第、補修を行っている次第であります。
ただひとつ、修繕以前の記録についてはその諳んずる者の記憶に頼る他なく、修繕以前の内容との正誤を確認する術がないのがいささか遺憾ではございます。