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Action.5 コンビ(前編)

※前回のあらすじ


酒場で新米講習を受けるカント。

だがお上りさん全開パゥワーで酒場大騒然の上、先輩クライムファイター、ルーノを怒らせ追い出されてしまう。

新たに浮かんだマリーの謎。そしてそれを考える暇もなくょぅJ"ょに急襲されるカント。

思わず幼女タッチダウンを決めてしまい、気絶させた幼女を抱えてしまったカントの明日はどっちだ!?

 「……あぁ、疲れた……!」


 まさかそのまま放置する訳にもいかず、どうにかこうにか少女を抱きかかえて帰宅したカントであったが、その心労は生半可な物ではなかった。

アメリカにおいてロリコン、いや、汚れていてわかりにくいが、少女の年頃ならペドフィリアだろうか。何方にせよ、その烙印を押された者の社会的地位は、瞬く間に犯罪者よりも下に扱われる。そういった性癖にある程度寛容なJAPANとは違い、誤解を受けただけで社会的リンチを食らってもおかしくないのだ。JAPANで言うところの「ムラハチ」である。会社の窓から自分のデスクを投げ捨てられても全く不思議ではない。……と、若干偏った知識でカントは思っている。

 そういった事態を恐れ、人の目を掻い潜り、パワードスーツの機能をこれ以上無く活かしたスニーキングミッションを二十分程敢行するハメになったカントの精神は最早限界に近い。さっさとパワードスーツを脱ぎ捨てソファーに沈みたかったが、そんなことをすれば少女に闇討ちされてしまうので、ヘルメットだけを脱ぎ、ソファーに座り込みながら何故少女が自分を襲ってきたのかを考えることにした。


 継ぎ接ぎだらけのボロ服に、お手製と思しきポシェットと廃材から作られたスリングショット。薄くなり過ぎてただの布切れの様になっている上着には石ころが沢山詰められていて、少女の全てが土埃にまみれていた。……当然、彼女が横たわるカントのベッドも。

 カントは今後の後始末についてを意識的に排除し、彼女が何故自分に対して敵意を剥き出しにして来たのかを考える事にした。


 「……と言っても、何で襲われたか全くわからないんだよなぁ……」


 思い当たる可能性を思案してみても、情報が少なすぎて何一つ掴めない状態が続いた。カント自身、そういった事情を推理する事は得意な方ではなく、いい加減頭が茹だってきそうになり、一先ず何か飲もうと立ち上がった、その時。


 「……ん、ぅ……?」

 「……お。起きた?」


 少女がゆっくりと目を開いた。最初に会った時は薄明かりで禄に見えなかったが、LEDランプに照らされた可愛らしい顔立ちは、カントが思っていた以上に少女が幼い事を物語っていた。


 「……」


 ゆっくりと目をこすりながら起きる少女。そのボサボサの長い黒髪を鬱陶しそうに払いのけながら、カントの顔を見つめている。まだ意識が覚醒しきっていないのだろう。

 そう思い、カントが自室に置いている冷蔵庫からジュース瓶を取り出す。蓋を開けて少女に手渡すと、少女はその小さく可愛らしい鼻で匂いを嗅ぎ、一気に飲み干した。

 

 「……けふっ」

 「あぁ、ほら。これ使って」

 「むー……」


 満足した様に少女が瓶から口を離した拍子にジュースの残りが僅かに零れる。カントがハンカチで口元を拭うのも、少女はぼんやりとした表情で受け入れた。

 やがて落ち着いた頃に、カントが話を切り出す。元々少女をどうこうする気も無いカントは、優しく落ち着いた口調を心がけて話しかけた。


 「……怪我はない?」

 「む?」

 「さっきはごめんね? 怖かったよね?」

 「…………ッ!?」


 ようやく事情が飲み込めてきたのか、それともあの時のショックが蘇ってきたのか。林檎色の頬は青褪め、くりくりとした丸い瞳には涙が溜まり始めている。

 怖がらせてしまった事に罪悪感にまたも浸りながら、カントは苦笑する。尤も、物々しい鎧に身を包み、顔だけ朗らかな笑顔な今の彼は、想像力豊かな子供からすればどう見ても堅気の人間には見えないのだが。


 「……えぇ、と。……俺は君をぶったり、酷い目に合わせる為に連れてきた訳じゃないんだ。安心してくれないかい?」

 「そ、そんなの……しんよう、できない」

 「……うん、ご尤も」


 自分の部屋に年端もいかない子供を本人の了承もなく連れ込んでいる。傍から見ればペドフィリア認定必至な事実を指摘され、カントは項垂れた。だが、その最悪の結末を回避する為にもこの少女と歩み寄らなければならない。なので、色々と工夫する事にした。


 「……そうだね。それじゃ、お仕置きくらいはしようかな」

 「……ッ!」

 「けど、それは話を聞いてから。勿論、君が悪くないと俺が考えたら、俺は何もしない」


 お仕置き、という言葉を聞いて強張った後、お咎め無しの可能性を聞くと見るからにホッとする。だが人に対し敵意で以て攻撃した以上、普通に考えればお仕置き確定の様な物なのだが、幼い少女に一抹の希望に縋るなというのは酷であろう。

 尤も、カントは余程の事情でない限り、反省するまで叱っておしまいにするつもりであった。

 確かに少女がした事は人に怪我をさせる危険があり、本来なら多少なりとも痛い目を見せて二度としない様に誓わせるべき事だ。許すべきことではない。だが、幼気な少女を痛めつける趣味はカントには無く、むしろ可愛がる方が好きだったし、そうやって暴力でいうことを聞かせる事が良い事とは思えなかったからだ。無論、若さが故の甘い持論であるという自覚はあったが、それでも武道を扱う者としては、安易な暴力に走りたくはなかったのである。

 では何故脅しをかけたのか。答えは簡単で、カントの狙いはそうやって少女との会話回数を増やし、少しでもお互いを分かり合える様にする為であった。その他にも、何故こんな凶行に及んだかを聞き出す狙いもある。


 「ちゃんと話してくれたら、怒らない。でも、嘘をついたり、ホントの事を内緒にしたら…」

 「………した、ら?」


 不穏な気配を感じたのか、恐る恐るといった風に聞く少女。そんな彼女ににっこりと微笑む。だがその眉間にはわざとらしくも皺が寄っていて、明らかに好意的感情は抱いていないということを少女に思い知らせた。

 涙は既に決壊寸前で、並々ならぬ表情を見せるカントに後退りする少女を見つめながら、カントはゆっくりと、しかし鋭く言葉を放った。


 「怒るよ。すっごく怒る。君が見たことないくらい、怒るよ」


 そして、ついに少女のダムは決壊した。


***


 泣いた少女をあやすのに随分と苦労したカントだが、彼女から聞き出せた情報から、ある程度の事情を推察することが出来た。


 まず、少女の名前はサリー。スラムに住む孤児で、驚くべきことにカントと同じクライムファイターであった。見れば上着には汚れたクライムファイターバッジが付けられていて、スリングショットも犯罪者を倒すための物らしい。

 そして、何故カントを襲ったのかについては……


 「だ、だって、ルーノさんが、DRAGONでだしちゃいけない武器を、アンタに向けたんだもん! 武器を向けていいのは敵だけだって、ルーノさん言ってたもん!」

 「……はぁ、成程」


 そう、ルーノが向けた剣が影響していた。どうやらサリーは過去にルーノに助けられた事があるらしく、それ以来ルーノの助けとなるべく、本人に気付かれぬ様に陰ながら彼を支えようとしていたらしい。

 今日も今日とてルーノを追っかけて酒場DRAGONにいた様で、声は聞こえないながらもルーノが剣を抜いたのはしっかり見てしまい、“カント=敵=倒すとルーノが喜ぶ”という図式が構築されてしまったらしい。後は見ての通りの有様である。


 「……それで、ルーノさんが君にそうしろ、とは言ってないんだね?」

 「あたりまえだもん! ルーノさんはそんなこと言わない! だってきしさまだもん!」

 「お、おう……」


 要するに今までの気苦労の原因は全て、少女の淡い恋心による暴走の結果の様だ。いや、本人は慕っているだけで明確な恋心には気づいていないかもしれないが。

 頭の痛くなる事実と惚気染みたルーノ自慢を続けるサリーに思わず呻きながら、カントはどうすべきかを考える。


 サリーに説教をかまし、今の行いを改めさせることは出来るだろう。気は進まないが、ちょっと暴力を使えば、クライムファイターの様な危険な仕事から足を洗わせられるかもしれない。ダッドリーに相談し、彼女を施設に入れる事も出来るだろう。お人好しの意見ではあるが、その為の資金くらい負担しても良いとは思った。

 このままこの少女をスラムに戻す事は気が引けたし、自分もやっていることとはいえ、子供に危険な場所を歩かせることに対しカントの正義感は是と言わなかったからである。

 …しかし、カントは答えを出すのに逡巡した。


 「……うう、ん」

 「ルーノさんはすてきな人! アンタよりも、すーっごくかっこいいの!」


 それで、良いのだろうか?そう、彼の正義感よりも深い所にある感情が囁く。

 サリーはルーノを慕い、憧れた結果行動を起こしている。それは、カントがマリーの横に並び立つ為に行動しているのと、行動に対する善悪のベクトルが違うだけで変わらないのではないか。

 では、それを否定するのは、彼女の行動を否定し、矯正するのは、自分の行動を、想いを否定するのと同じなのではないだろうか。そう、カントは思ったのである。

 カントは正義感溢れる若者の一人だ。だがそれ以上に、その心の奥底にある「感情」に素直な男だ。だからこそ、今回もその感情に従うことにした。


 「……ねぇ、サリーちゃん」

 「子供あつかいは、やめて」

 「なら、サリー」

 「……なによ?」


 ルーノ自慢を邪魔されたからか、少し拗ねた様にむくれるサリー。それに対し苦笑しながら、カントは本心を述べる。


 「……俺は、君にそうやって、クライムファイターを続けさせる事に反対だ」

 「ッ! ……みんな、そう言うわ。お前みたいなチビがやる仕事じゃない、って」

 「そうだね。……でも、そういうのは、君の気持ちを蔑ろにしてると思う。だからしない」

 「……どういうこと?」


 言い回しが難しかったのか、意図が読めなかったのか。小首を傾げるサリーに、思わずカントはその頭を優しく撫でる。鬱陶しそうに払いのけられると、彼は少し残念そうに笑った。


 「……まぁ要するに、君がクライムファイターをやることを、俺は応援しようと思うんだ」

 「……はんたいなのに?」

 「うん。……それを反対したら、俺もクライムファイターを辞めなきゃいけないからね」

 「んー?」

 「こっちの話さ」


 そう言ってもう一度サリーの頭を撫でる。先ほどの言葉が効いたのか、今度ははね退けられることはなかった。


 「でも俺も、まだまだひよっ子だ。君を一方的に支えることは、難しいと思う」

 「……そんなすごいカッコなのに?」

 「そうだよ、これは貰い物だから。ホントの俺は初仕事でも失敗する様なペーペーなのさ」

 「……勝った!」

 「え、負けた?」


 得意そうにニンマリとするサリーに対し、がっくりと肩を落とすカント。そんな微笑ましい光景が少しの間続き、カントは姿勢を正してサリーと向き合った。


 「……だから俺は、君と協力して仕事をすることを提案したい」

 「……おねがい?」

 「そう。……俺は、キューティ・マリーの隣に並び立つために、クライムファイターをやってる」


 キューティ・マリー。カントは彼女に並び立つために、クライムファイターをしている。サリーもその言葉に何かを感じたのか、カントと同じようにその居住まいを正した。


 「……カントは、キューティ・マリーにあいたいの?」

 「会いたい、だけじゃないよ。……ずっと隣で、彼女の力になりたい」

 「ちからに?」

 「そう。君と、サリーと同じ」

 「……私と、同じ」


 胸に手を当てて考えこむサリー。恐らく、彼女の中で彼女なりの葛藤があるのだろう。自分から襲った相手に相談を持ちかけられ、罠ではないか、本当に他意が無いか考えているのかもしれない。

 そうして考えている所に更に畳み掛けるのは良い行いではないとカントは思ったが、それでもこれが自分にとって、サリーにとって最良の方法だと思い、言葉を続けた。


 「……君も、ルーノさんの隣にいたくないかい?」

 「!」

 「直接、ルーノさんの役に立ちたくないかい? ルーノさんに自分を見てもらいたくないかい? ……俺は、マリーさんにそうしたいし、少しでもいいから、そうしてもらいたい」


 卑怯な口ぶりだとカントは思った。誰だって、好きな相手にそうしてもらいたいのは当たり前だ。

 子供の純粋な感情を煽っている事に罪悪感を覚えつつも、カントは続ける。


 「だから……君と一緒に、頑張りたい。……駄目かな?」

 「……」


 サリーは少し悩んで、俯いて、手のひらを見て。

 …そして、カントの目を見て、言った。


 「……うん、やる。いっしょに、がんばる。……ルーノさんの、となりにいたい」

 「……よし! 俺はカント。ヨロシク、サリー!」

 「ん。……ごめんね、カント。後、ありがと」


 こうして、カントとサリー。新人同士のコンビが、今ここに誕生した。


カント「それはそれとして、お仕置き&お説教タイムです」

サリー「!?」


次回「コンビネーション」


次回はお風呂回。待てよ次回。

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