祖父のすすめ
「どうしてです?俺は納得いきません!」成介は祖父・源十郎に向かって声を荒げた。
成介は塔子と別れるとすぐさま自宅へ戻り、祖父の部屋に直行したのだった。
塔子には恋人がいる、だからこの話はなかった事にして欲しいと願い出たのだ。
しかし祖父はそれだけでは納得せず、相手が藤堂の息子だという事までも言ったにも関わらず、ガンとして姿勢を崩さなかった。
「我々には、まだ足りないものがある。」
「血統だとおっしゃりたいのはわかります。でも、そんなのは時代錯誤もはなはだしい事です!この会社は、もう誰も手助けもいらないくらい十分に成長したはずだ。今更あんな落ちぶれた鷹司の名など必要ありません!」
「お前はバカ者だ、血が金では買えん。」
「じゃあ、同じ地位ならば、鷹司でなくともよいのでは?」
「自惚れるな。いまやあの家くらいしかわが家に取り込める家はない。分家といえども鷹司の名を持つあの娘を妻にすることでどんなにわが家に得があるか、結婚すればお前にも必ずわかる。」
「そんな…!」
「怨むなら長男の総一郎を怨むんだな。あいつは医者になったはいいが、どこの馬とも知らない女と勝手に結婚しおって。
もちろんお前にも、無理にとは言わん。お前がイヤなら次男の貴明に当てる。もちろんお前の今座っているイスと引き換えにな。
あいつは商才も経営の才能もないが、お前と違って女の影は一つもない。喜んで受けてくれるだろう。」
成介の歪んだ顔を見て源十郎はため息をついた。
「そんな顔をするな。どうしてそんなにあの娘を拒む?中々美しいお嬢さんじゃないか。」
「…なんとなく生理的に受け付けないんですよ。」
あのやたら純粋な彼女が。そのセリフはかろうじて飲み込んだ。
「ああいう由緒正しき令嬢は、いい女房、いい母になる。このわしが約束してやるぞ。必ず緋川家の大きな力になる。
お前の母親のように、他の男と事故で死ぬようなことのはないだろう。」
「!」成介は思わず拳を握り締めた。
「わかったら、さっさとあのお譲さんに電話をするんだ。あんな藤堂建設のドラ息子ごときに取られる前に、早く話をすすめろ。いいな!」