茶番
「…どういう意味ですか?」塔子は、一瞬にして動きを止めた。
藤堂建設は、昨日の夜起こった突然の現場監督の内部告発で、今や大変な状況下にある。これを揉み消そうと、トップはあらゆる手を使っている真っ最中だ。マスコミに知られるのは時間の問題だろう。
この小娘は、藤堂の会社が大変なことになっていることすらもしらない…という事はそういう深い関係ではないということか。
しかし成介の思考は塔子のあせった声によってさえぎられた。
「教えてください、緋川さん!」
まだ公開されていない情報を与える義務などない。成介はシラをきることにした。
「大きなトンネル工事を受注したばかりだから、忙しい時期だろうと思ったのさ。」
「あ…そ、そういう意味だったんですね。」
全く、赤子の手をひねるより簡単な女だ。
「いえ、あの最近なんだか連絡が取れなくて。彼に何かあったのかと思ってたんです、ごめんなさい…。」
“彼”にねぇ…、成介は内心ため息をついた。そもそも藤堂修二に惚れてる時点で、この小娘のバカさはよくわかった。
好きでもない女と結婚しなければならないのは、緋川の頂点を目指し始めてからもちろん覚悟はしていた。
だからこそ、自分を犠牲にして結婚と引きかえに得るものは、何より自分と会社に莫大な利益を与える存在でなければ、絶対に納得できない。それだけは譲れない。
こんななんの力もないただの小娘の茶番に付き合ってられるか!まったくバカらしい。
成介は自ら席をたった。
「じゃあ、もう送るよ。今日はつきあわせて悪かったね。」