第三話
「よし、目が覚めたぞ」
一体何度目の起床だろうか。起きてしまうたびに何度も何度も気合を入れて睡眠をしてきた。良い加減叫んで寝るぞ!と本気で願った瞬間に眠るのも慣れてしまった。こういうのを大人になったというのかもしれない。
辺りを見渡すと、雪の残りは確かに見えるが、しかし季節は間違いなく春だ。春。芽生えの季節、そして、新たな日々の始まりの時だ。
「そうだ! 俺は、この春に凄い神代として働いてウハウハしてやるぜー!いやっふー!」
『まぁ、そのために半年眠り続けたんだけどね。いやー、来年の春から本気出すために半年近く寝ちゃうとか凄いですねー、神代様!』
「そうさせたのは誰かなー? この野郎! 本当にさー、俺が出世とかしたらよー、すぐに像を壊して邪教として弾圧してやるから覚悟しろよ、テメー」
『言っておくけど私いないと、君奇跡使えないからね。はは、裏切れなくてざまー!』
「うおー! こいつ本当にムカツクー! もういいよっ! それより、俺はどんな行動をすればポイントが高まってウハウハれるんですか? 邪神野郎」
『邪神じゃないよー、とってもクリーンな神様だよ! 旧約聖書で出てきたバアル神くらい凄くクリーンだよ! 信じようよ!』
「バアル神ってのが何なのかわからなから放置するけど……んで、本当にどうすれば良いの、これから。何かしたら良いんでしょ? 何をすれば良いんだよ、マジで!」
『うーん、今のところは特に何も。神様なんて信仰対象がいなきゃ意味ないからね。さっさと私という崇高で叡智溢れ、超自然的存在を崇拝してくれるようなの探してこいよ、本当に』
「いや、でもこの森の中に人の気配なんてないんだけど……?」
『あー、そうねー。じゃあ神格ポイント溜めるために動物使うってのも手だよ。動物に奇跡力を与えて、色々活動させると、それを媒介にして奇跡ポイント溜まるからー』
「そうだ、そういえば奇跡ポイント溜まってるんだよな? どれくらい溜まってるんだ?」
『今? 神格:12 文明:2 ってところだね』
「ん? 神格は説明してもらったけど、文明ポイントって何だ?」
『文明は、言葉の通り文明のを起こしたら溜まるポイント。これの良いところは自分でやってもポイントが高まるところ、その代わり色々割高。君が寝にくいとかいって軽く雪を集めてかまくらみたいの作ったでしょ? それが原始人の洞窟っぽいとかで加算されてた』
「どういう理由なんだ、それは……。けど、文明が2ポイントか。ふむ、良いね。でも2ポイントじゃ全然使えないし、今は放置で良いかもな」
『文明はちょっと特殊で、自分でやっても良いっていったけど、実は真価を発揮するのは他人にやらせた時なんだよね。それをさせるだけで文明ポイントは勝手に加算される』
「お? と言う事は、俺を信仰する人間がいて、さらに文明的なことを教えた際にはそれだけで神格と文明の両方が手に入るってことか?」
『そういうことになるね。まぁ、文明は判定が凄い特殊だから、その時になったらもっと詳しく教えてあげるよ。それより、早く信仰対象を探すために動物探そう。それに、もう眠らないんだったら君も食べる必要が出てくるんだから色々頑張らないと』
「それもそうだな。それじゃあ、ちょっくら森の中でも散策するか」
■第三話「都合よく行かないなら、都合よく行くようにすればいい」■
森の中を歩く。森というと、都会人はもしかしたら爽快なイメージを持つかもしれない。しかし自然のままに育った自然というのはカオスそのものである。
育つ、種を落とす、育つ、種を落とす。それを延々と繰り返しているせいで地面などというものがほとんどない。
歩くのは必然的に木の根ということになる。俺の胴体ほどもある木の根を踏みつけにしながら先を進む。
それにしても、木々の間から虫やら何やらが大量に現れるし、訳のわからないツタが通行を邪魔するので思うように進まない。
はっきりいって、だるいことこの上なかった。
さらに、そんな音を立てながら歩いているせいか、動物が周りに現れてくれない。
いや、この場合はもしかしたら幸運なのかもしれない。動物、と一括りにしているが、大型獣が出てきた場合に俺が出来ることは少ない。
「……なぁ、動物出てきてもどうやって奇跡の力を分け与えんの。その前に俺死なないの?」
『いまさらな疑問だなぁ、もう少し早く突っ込むものかと思ってたんだけど』
「は? それじゃあ、もしかして食われること前提で話は進んでたの!?」
『いやいや、違うから。神代は能力がそれとなく強化されてるから、動物程度ならどうとでもなるよ。ハンドパワーで』
「ハンドパワーって、どんなパワーだ?」
『その木の幹掴んでみ』
「おう」
『握ってみ』
「ほい」
木の幹がバキバキと小気味良い音を立てて割れていく。そんなことをすれば本来は手の平に大量の気の欠片がついてそうだが、そういうこともなかった。
さらにいえば、そもそも木の幹を破壊できている時点で凄いことだ。なるほど、確かに強化されているようだった。
「うん、確かに凄いわ。で、これとハンドパワーとどの様な関係が」
『ハンドパワー(握力)』
「いや、確かに間違いなくハンドパワーだけど、こういうのは単純に身体強化って言わないか?」
『ハンドパワー(腕力)』
「いや、だから、それ単純な身体強化だろ?」
『ハンドパワー(脚力)』
「脚力でハンドパワーはおかしいだろう!?」
『細かいこたぁ、良いの! 大体なんさー、身体強化って! ププー、遅れてきちゃった病気か何かですか? ププー』
「くっそうざいことこの上ない! 単純に漢字当てただけだろうが! なんか不満か!?」
『まぁ、不満はないけど、呼称はハンドパワーが良い』
「なにがお前にハンドパワーを推させてるんだよ……」
『ガイアが俺にハンドパワーが良いぞと囁いているからさ』
「何で宇宙がお前にハンドパワー云々と囁くんだよ……」
『そっちのガイアじゃねぇ、地母神の方だからね。まったく、困ったちゃんだなぁ』
「よくわからないけど、お前がうざいということはわかったからもういいよ。とりあえず動物に対抗できるのはわかったけどさ、その動物が近寄ってこないし、さらにいえば見つけられないんだけど?」
『それは君が悪いんじゃないかな。だって、あんなに警戒心もなく、気配もバリバリで色々やってたら見つかるに決まってるじゃないか』
「いや、そんなのやり方わかんねーからな。こっちは都会派ボーイだからね。森とか入るの始めてだから。知性派である俺には、こんな作業は好ましくないんだよ、お分かりかな?」
『知性派(笑)だったのか、じゃあ仕方ないね』
「知性派の部分に悪意を感じた。とりあえず像を落としてお仕置きしてやろう」
背中に背負っていた像を思いっきり振りかぶりながら木の根に打ち付けてやった。
それは脚力、腕力ともに鍛え上げられた人間が重心のことを理解し、遠心力も考慮にいれて威力を最大にするように努めてたような威力。
を、腕力で無理やりひねり出したかのような一撃だった。
ボカーンと盛大な音とともに木の根が盛大に爆散した。パラパラと木の欠片が空中に舞う。
「ごめんねー、強く落としすぎちゃった。俺反省☆」
『イラッとクルわー。別に良いけどね、役割さえ果たしてくれれば。でもポイント溜まったら絶対君の額に肉って字を書くからねー。勝手にポイント使われて嘆けば良いんだー!』
「ちくしょう、このまま不毛な争いをしていても物事はまったく発展しないというのに、今とてもこの像を破壊してしまいたい。でも奇跡使われていて出来ない」
『像には傷一つつけさせないよ! そう、君の集めたポイントに賭けて!』
「スッキリしたから、許すわ。ほら、もう行くぞ。ったく、本当にだるいわ。何か出てこないかなー」
『正直、私も飽きて来てるんだよねー。何で私の目の前に信仰対象が出てこないんだろう。全て焼けて燃えてしまえば良いのに。スルトの炎を私は今欲しい。リセットボタンプリーズ』
「ヴァーチャル世代みたいなこと言ってないで一緒に何か探してくれ。正直、喉が渇いてないのに水が必要になってきたのがわかって焦ってるんだよ」
『あぁ、人間の感覚じゃなくて、必要だからしなくちゃいけないって感覚になってるんだね。神代の体は人間のとは違うから結構びっくりでしょ?』
「確かに人間のとは全然違うな。俺としては情緒があって人間の体の方が好きだけど」
『誤作動も多いから人間の体はあまりお薦め出来ないけどね。まぁ、住めば都ってことかな?』
「つうか、奇跡ポイント使って水の場所とかわからないのか? 極力使いたくなかったが、使わんとどうしようもない気がするんだが」
『あるけどポイント足りないかなー』
「そうかよ。お前が使った分と足したら?」
『その場合でもポイント足りないかなー。言っておくけど場所がわかるっていうことは案外高度なことだし、自分の知らない場所の事も理解出来るなんて千里眼も良いところだからね。高性能すぎてとてもじゃないけど手が出ないよ? 一応視力や聴力そのものは向上してるんだから、それで試してみれば良いじゃない』
「聴力で水の音を感じろってことか。あぁ、それよりも木の幹潰せるから腕力あるんだから木を登って辺りを見渡すのも良いか」
『お勧めはハンドパワー(聴力)かな』
「はいはい、じゃあ、ちょっと黙っててくれや。耳をすますから」
『耳をすませば』
「あの映画の話題はやめろ。魔法使い候補である俺の前であの映画の話題はやめろ!」
そう叫んでから意識を集中させた。確かに耳が格段に良くなっている。
木の葉がカサカサする音がしたり、木の葉がカサカサする音がしたり、木の葉がカサカサする音がしたりした。
「木の葉がカサカサする音しか聞こえねーぞ! どういうことだぁ!」
『どの辺りの音まで聞こえた?』
「100メートル先の木の葉の音が聞こえました! 聴力で位置特定できます! 確かに凄い能力ですね! でも何も解決しねえええええええ!」
『まぁ、わかったことがあるから良いじゃないか』
「なんだ、何がわかったんだ!?」
『ここ木しかないわ。ゴミ土地すぎる』
「いまさらーーー!!!!」
『もう落ちる場所ランダムとかしない、絶対。最初から信仰対象のいると思われる場所にいくよ、私、神様と約束する!』
「その神様お前だからな!」
『まぁ、解決できない事も無いんだけどね、実は」
「な、なんだ!? 早く言えよ、もうこっちはだんだん疲れて来てるんだよ」
『そう急がないでよ。あれだね、信仰対象がいないんだったらさ』
「おう」
『作れば、良いんだよ』
■現在持っている能力■
その辺で寝ても体力回復出来る能力
無理すれば眠り続けられる能力