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第一話

どさ、と地面に落ちる音がする。ついでに走る衝撃。間違いなく、俺は地面に叩きつけられていた。

あまりの粗雑な扱いに一瞬だけイラッとしたが、そこはもう大人なので一応我慢することにした。

コキコキと肩をまわしてから辺りを見回してみる。そこは一面大森林としかいえないような、森に囲まれた場所だった。

というか森の中だった。瑞々しく、隆々と聳え立つ巨木が、思わぬ珍客である俺に対して「邪魔だ帰れ」と圧迫してくる印象を受けた。

完全に被害妄想であるが、これから行っていくことを考えると一概に否定出来ないから困りものである。木を切り倒して文明を切り開くという面倒なことをしなければならないのだから。


『おーい、一通り落ち着いたら反応してくれ』


急に声が聞こえてきた。後ろを振り返ると、珍妙な像がある。どうやら、これと共に俺は長い間過ごさないといけないらしい。


「……本当にやらなきゃダメか?」


『契約は絶対だぞ。ヤーハウェだって「わし浮気とか許せない人だから」って言ってただろ? 私もその類である』


「かー、なんか騙された気分なんだけど。もうさー、なんか騙された気分なんだけど!」


『そういうなよ、君は選ばれた民なんだぞ。これから一緒に凄い存在になるんだから頑張って!』


「……まぁ、頑張っていくからさ、ちょっと威厳出そうぜ」


「な、神様?」


■第一話「神様に威厳は求められていない時代」■


「……ここ何処だ」


目が覚めたら知らない場所にいた。知らない場所とは知らない場所という意味だ。

しかしながら、今経験をしているのは自分の知っている範囲で知らないという意味ではなく、今まで見たことが無いという意味で知らない場所だった。

辺り一面が延々と真っ白。地平線の先まで真っ白である。こんな風に白に埋め尽くされた世界を、俺は見たことがなかった。

俺が知る限り、初の出来事である。常識的に考えて、こんな風景がどこかにあると想定したことはなかった。


「いや、本当にここは何処なんだ」


立ち上がってより遠くを眺めてみる。しかし、何の意味もなかった。白は白なのだ。特に変化はない。

何処を見てもまったく同じ景色。それが果てしなく続く世界。

とりあえず憶測一つ、俺死んだんじゃね?


「俺、死んだ」


口に出していってみる。存外しっくりと来た。どうやら実感はまだ出来ていないが、死んだという状況を理解してはいるらしい。

死因はまだ思い出せないが、死んだという事実だけは理解している感じだ。

ちょっとちぐはぐで意味わからない思考だが、それを納得してしまっている自分もいた。


「んー、俺死んだかー。俺死んじゃった系かー。なるほどなー……」


納得してしまったが認めたくはなかった。やはり死んでしまったという事実は嬉しくないものである。

まぁ、ここで「俺死んだぜイヤッフウウウウウウウウウ!」と叫ぶ奴がいてもおかしいわけなので、俺のこと考えは正常なのだろうが、ちょっと認めたくはなかった。

やっぱり死ぬ前はあがく感じが必要なのではないだろうか。あがいてダメだから諦められるのであって、なんかスッキリ死んでハイ・オシマイというのは少し違う気がする。

しかしあがくといっても、対して有効な何かは思い浮かばなかった。最終的に俺は白い地面にあぐらをかいて座って、ボケッとするだけしか出来なかった。


「……死んだかー。死んだねー。つうか死んだのかよー。もうちょっとヘコむんだけど死んだのー?」


『死にましたよー』


急に声も聞こえてきた。どうやら幻聴ではなさそうだ。

あたりを見渡しても誰もいない。しかし、声はずっと響いている。


『ねーねー、死んじゃってどんな気持ち? どんな気持ち? 今、きみ人生終わったんだけど、ねぇどんな気持ち?』


「うぜー、何この現象。やばい、ちょっと理解したくない」


『まぁ、そういうなよ。死んだって別に良いじゃん。どうせ死ぬように人間と設定されてるんだし。どうせ後10年もしないうちに健康害したり機能が落ちたりしていたんだよ? そう考えれば一番油乗ってる時期に死ねて良かったね!』


「何も良くねーよ……」


俺は立ち上がって辺りを何度も見渡す。

小さすぎて見えないという可能性とかも考慮したり、遥か上から見ているのかとも思い、色々と試したがどうやら効果はなさそうだ。

無駄な行為だと思ったので、俺は地面にあぐらをかいて声にだけ耳を傾けることにした。


『まーねー。正直ねー、励ましてるんだよー?』


「嘘つけよ……。もうヘコんでるんだから話しかけるなよ。俺今へこんでるの。人間的に死んじゃった事に対する悲しみを背負って生きてるんだからさ」


『現実見てよ、君は死んでるからね。生きてないから。残念だったねー』


「くっそ~、認めたくねー。俺まだうどん屋で全部ミックス大盛り頼んでねーぞ!」


『小さすぎないかい?』


「小さくて良いんだよ、でかいことなんて金なくて出来ないんだから。それでさっきから話しかけてくるお前は何だよ。いい加減ノリにノってやってるんだから名乗れよ」


『それもそうだね。今姿見せるから』


ポンと軽快な音がすると目の前に謎の青年が現れた。背は高くない、デブでもない。特に顔に特徴もなかった。有体に言えば地味の極みである。

いや、もっと、もっと違う何かのような気もする。強いていえば確定していない固体だろうか。

いやいや、それも少し違うかもしれない。とにかく、目の前にいるのに個体情報というものが把握出来ないのだ。

認識が出来ない。知覚出来ていない気にさえさせる、そういう容姿である。映像でも適切な表現は出来そうもない存在がそこにいた。


「……透明人間か?」


「随分面白い表現だね、ちゃんと受肉してるはずだけど?」


「ん、それは間違いない。ただ、お前何処か人形みたいだ。あぁ、そうか。顔の形や位置、うわっ! そういえば体型も左右対称じゃん! そりゃあ違和感覚えるわけだわ、気持ち悪っ!」


「左右対称って変なことかい?」


「あぁ、おかしいと思う。人間じゃないのは確かだな。で、結局ここはあの世ってことはそっちは神様的な? そういうアレですかね?」


「神様ではないかなー、候補ではあるけどね」


「神様候補ねえ……半神半人とかそういうのか?」


「そういう意味でなく、そのまんまの意味で神様候補だよ。神様になれるかもしれない、なれないかもしれない存在。実は体も仮なんだよね。変化しちゃうものだから、こういうのって」


「あー……で? 神様候補とこんな場所で二人きりなんだけど、俺は今すぐ土下座とかしたり平伏した方が良いの? 無礼だからって永遠の時を彷徨ったりしちゃう系的な的な? ないよね?」


「ないから安心して良いよ。ここにいるのは君も候補の一人だからってだけだから」


「候補? え? もしかして今からバトルロワイヤルするの? それで最後に残った奴が神になるとか? 神様候補なだけに?」


「ないない。君、神様になるようなことしたの?」


「正直あのまま生きていたら魔法使いにはなれていたような気はする」


「候補っていうのは、今から世界創造するんでソコで僕の神代として活動してもらうための候補だよ」


「…………ほう、随分と突発的だが魅力的なお誘い」


「食いつくねー、良いけど。まぁ、神代になって世界作るお仕事一緒にしてもらおうと思ってね。良い思いも時々出来るかもよ。基本は良い思いしないけど」


「基本しないの?」


「努力次第かな。まぁ、詳しい説明は候補決定者にしかしないからなる気がないなら適当に聞き流してよ」


「何でいってくれないんだよー! 選びようがないじゃん! もっと詳しく教えて、そんでもって色々と教えてくれよ~」


「申し訳ありませんが当社では入社していない方に当社のマニュアルをお渡ししたり、わざわざ業務内容の説明などは行いません。ご了承下さい」


「何これー、やめてくれない。俺まだ高校生だから。入社とかまだ先の話じゃん! ほら、卒業まで一年あるし大学入れれば五年もあるよ!」


「そんなこといってるうちにー、いつの間にかー、全てが過ぎるー。世の中の就業失敗者の数を数えろおおおおお!」


「クソがー! なんだこれ、入らないと、今入らないとマズい気持ちになって来る!」


「ほら、口頭で行っても良いかもって口に出しなさいなー、楽になれば良いんじゃよー?」


「いや、まぁ、こんなノリでなくても普通に行くけどね。俺死んでるし」


「行くっていったよね? やったー、これで楽が出来るぞー!」


「理由それかよ……」


『はい、私もう受肉しない。絶対しない。ほら、もう言霊に戻ってやったぜ、ざまーみろ!』


「何この神様、ゴミクズすぎるんだけど……」


『まだ候補だからー、残念でしたー。実際に世界に降り立たないと神様でも何でもありませーん。威厳とかは千年くらい立ってから備えれば良いんじゃ~!』


「まぁ、良いけどさ……」


『それじゃ、もうさっさと世界行くかねー! オラァ! ワープ!』


「超展開すぎる!?」


■■


『威厳とかさー、別に良いじゃん。大体神様なんてやること大人気ないもんじゃんか。君さー、ゼウスの所業知ってるでしょー? 完全にただの色狂いだからね、あいつ。マジぱないわ。神話化されて力震えなくなってやんのププーって感じだよ!』


「ゼウスって何やったの?」


『とりあえず美女と美男食いまくったかな。もうそれ以外どうでも良いよ。あいつ美女と美少年いれば何でも良い奴だし。男?女? 食えれば何でも良くない? が心情だからね。イーリヤスとか見てみろよ、トロイもスパルタもゼウスの家系なんだぜー、受けるー』


「いや、受けないけど……面白くねえよ」


『そうか? まぁ、良いや。今からお前に重要な任務とか教えるからそれっぽく聞きなさい』


「……何?」


『神様って奇跡使えるじゃん? 奇跡。で、像になった私ですが、けど使えるんだけど残念なことにお前という神代がいるので無制限に使えません。残念だったな、お前が良い思いできるかもといったが、アレは大嘘だ。基本良い思いとかしないから』


「おおおい!」


『まぁ、君なら何とかなるよ。加護そのものは働いてるしね。凄いお得能力満載だよ。もう、何というか今の状況にぴったりな能力?』


「どんなどんな?」


『その辺で寝ても体力回復出来る能力』


「ありがたいけど嬉しくない……」


『細かいこたぁ気にするな。な、その辺で寝ても体力回復出来るなんて素敵やろ? 状況ぴったりだろ? 森の中だからね、その辺で野宿すれば良いじゃない』


「おい、ちょっと待ってくれ。寝て体力回復するのは良いんだけど食事とか水は?」


『え? 君、神代なのに飯食べるんですか?』


「お、なんだ。神代になると飯食べなくて良くなるのか?」


『能力次第。多分、そんな機能は君に付与されてない。あちゃー、ヤッタッタナー』


「もうやだ、帰りたい」


『大丈夫、大丈夫!無制限で使えないだけでちゃんと奇跡起こすポイント上げる方法とかあるからさ。まぁ、今は眠りなさい。明日から頑張れ』


「くそがー!騙された感じぱねええええええええええええええええええええ!」


なんか、そんな始まり。


始まる。そしていつか終わる。

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