非日常への第一歩
「見てた?」
生徒会長は何でこんなに余裕そうなのだろう。
さっきまでの恐ろしい笑顔を引っ込め、まいったなーと全然まいって無さそうに言うと、私がいるベッドの横の壁にもたれ掛かった。
そして、「風邪?大丈夫?」と私の心配をしてきた。
まだ熱っぽくしんどいが、今はそれより見たくもないものを見てしまったショックの方が大きい。
なっちゃんと生徒会長…美人保健医と優秀な生徒会長のカップリング。
なんて王道な展開なんだ。そういうのは大好物だが、私の迷惑にならないところでやって欲しい。
こういうのは傍観して楽しむのがよいのだ。関わりたくはない。
会長の言葉に、精神的にもしんどいですと返したかったが、「大丈夫です…」と俯きながら答えた。
さっきのはどう見ても、会長にとってバレたらヤバい秘密だろう。
優秀な会長が、保健室の先生と禁断の恋だなんて!
ちょっと少女漫画ぽくて素敵ーっと思わなくはないが、学校で事に及ぼうとするのは止めてほしい。
先生側は見つかったら確実にクビだろう。なっちゃんがクビだなんて!
それに、会長だって只じゃ済まない…そういう事をちゃんと分かってるのだろうか?
すごくヤバいものを私に見られてますよ。
――なんて事も言えず、さっきの会長の「見てた?」の答えを返そうと顔を上げた。
「先生との、その…見ちゃいました。でも、誰にも言いません。学校の先生が彼女だと色々大変だと思いますが頑張って下さい。」
だから私には関わらないで下さい、という気持ちを込めて、まっすぐ会長の目をみて言うと、一瞬驚いた顔をした会長は壁から離れ私に近づいてきた。
必要以上に。
顔が近い!近い!!
私の顔を覗き込むようにして近づいてきた会長は
「別に言ってもいいよ?まぁ誰も信じないんじゃない?俺、信頼されてるからー。それに、別に彼女じゃないし?先生がどーしてもって言うから相手してあげただけ。なんなら、君の相手して上げようか?」
と、恐ろしい事を笑顔でいう。
なっちゃんから迫ったという驚きと、必要以上に近い会長との距離でさらに混乱する。
「いえ!間に合ってます!!」
全力で拒否すると、会長から離れるべく、ベッドから降りて保健室の出口に向かう。
ここにいたら危険だ!!
というか生徒会長はこんな性格だったのか?!
かっこいい会長だ、やったーっと、ひそかに憧れてた私の乙女心を返せー!
そんな私の慌てた様子を見ながら会長は「お大事にー」と、保健室を後にする私の背中に向かって言ってきた。
扉を出る前に、振り向き「どうも!」と言って足早にその場を後にした。
今日のことは忘れよう!あの会長に関わってはいけない気がする。
風邪のためなのかよく分からないしんどさを抱え、急いで教室に戻った。
心配して教室に残っていてくれた友達に
「保健室に行ったけど、鍵かかってたからどこ行ったのかと思った。体調、大丈夫?」
と聞かれ曖昧な返事しか返せないまま、家に帰った。
それから、風邪を拗らせ三日間学校を休んだ私を待っていたのは、生徒会の雑用係というポジションだった。
なんで??!