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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
1章【神葬具使い達~avenge weapon players~】
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06『金髪、再来。それと鮭の皮』

「んー……そうか。飯は一旦外に出て食堂に行かなくちゃダメなんだな」


 生徒手帳に書かれた案内図を参考にしながら通りを歩く。

 現在夕方の6時。10分前くらいに集合して6時30分から食べ始めるらしいので早く出て探そうと意気込んでいる所存である。

 もう夕日は沈んでしまって、街灯で照らしている通りが神秘的な風景に見えてくる。

 こう見るとヨーロッパみたいな外見も良いものだ。見た目を重視する黒羽らしい。ここにいたら褒めたいくらいだ。

 俺と同じように通りを歩いている私服の女子生徒達。

 あんまり人数が多くないのはギリギリで間に合うように調整している生徒が殆どだからだろう。


(まぁ、好奇の視線は絶えないんだけどな)


 そこまで男が珍しいんだろうか。共学からここに入った生徒もいるに違いないんだが。


「おーい!白ー!」


 知り合いがいるだけで心強いっていうのを実感した。

 後ろから走って向かってくるちびっ子に手を振る。遠目で見ると更に小さいな、本人気にしているみたいだから茶化す程度に済ませているけど。その代わり元気だからマスコットキャラ的な存在だな。

 他の女子生徒の視線が集中しているが無視しよう。


「ふぅ…白も随分早いんだな。まだ20分前だぜ?」

「いや、道に迷ったら不味いなって。でも他の生徒について行けば良いって今更気付いた」


 息を整えた舞佳が、俺の隣に並んで歩き出す。黒羽で慣れたこの身長差が、傍目から見たら痛々しい。きっと買い物をしていたら兄妹と間違われること必至。

 昼間の制服とは違い、健康的な脚を露出したショートパンツに、赤いスニーカー。活発的な印象を与える舞佳らしい服装で、素直に似合ってるなと思ってしまう。やはり言葉遣いとかに難があっても可愛いからな。頑張れ元気っ子。きっと高校生からだと身長は左程伸びないぜ。


「引越しは終わったのか?」

「荷物は元々少ないし、おやつ前には終わってた」

「お前の部屋って殺風景そうだよな。こう……ベッドだけ置いてそう」

「俺の部屋は牢獄かッ。机も本棚ちゃんと置いてある!」


 失礼な舞佳の歩調に合わせながら食堂に向かう。なんかこいつの歩調に合わせると早歩きみたいだな。脚は長いんだろうけど身長に致命的な難点を抱えている。


「そういやさ、学校で放課後にお前の話されたよ」


 なるほど。好奇の視線が増してるように感じていたのはそれが理由か。

 どこまでの説明かは知らないが、ここに編入されるだけの理由。神葬具の世界最強くらいまでは伝わってるんだろう。じゃなければ、いきなりの男子の編入を女子学生が納得する筈ない。それ聞かされても男の編入反対派はいるんだろうけど。


「世界最強で、アメリカで大暴れした神葬具使いって言うのは聞いた。ついでに学園長の養子って言うのもな。騒ぎになってるぜ、尾ひれが付いて。説明にしてももうちょい言い方ってもんがあるだろーとは思ったけどよ」


 隣のちびっ子は昼間の態度と変わらず、鼻歌混じりに隣を歩いている。


「……なんで俺のことを聞いて近付いて来るんだ?」


 正直、世界最強とかそういう説明は無くして欲しかった。仕方ないんだろうけど、きっと近付いてくる奴が少なくなるから。

 アメリカでだってそうだった。近付いてきたのがムードメーカーの男で早めに馴染めたが、神経質な奴が多い日本で、こんな肩書きの奴を早々と受け入れる奴なんてそうそう居ないだろう。

 訊くと舞佳は不思議そうに俺の顔を覗き込む。


「別にお前はお前だろ?昼間のことが無くても、わたしはお前に話し掛けたと思うぜ」


 あぁ、アメリカのあいつと同じこと言うんだな。このちっこいのが日本でのムードメーカーになってくれるんだろうか。


「……はは、お前って物好きだな。頭撫でてやろう」

「子ども扱いすんなっつってんだろ!年上だ!こっちの方が年上なんだぞ!わかってるのか!」


 

 ◆ ◆

 食堂は広く、2寮毎に入れ替えて食事をするシステムになっていた。俺達のC寮はE寮と同じ枠組みで最初の班。30分で食べ終わらなきゃいけないというタイムリミット付き。

 食堂のおばちゃんに飯を注文し、出て来た焼き魚定食――曜日別に魚が違うらしく今日は鮭だった――を受け取るとテーブルを1つ確保している舞佳の元に向かう。

 舞佳が麻婆豆腐定食を既に食べ始めていたので、俺も席に着こうとした時、


「や、やっと見付けたわよ!」


 もう一人物好き発見。今度は紅いミニスカートに薄い星型の刺繍が入った黒ニーソを履いている金髪だ。外見だけなら人魚も真っ青だが、喋ればメドゥーサが真っ青になりそうな性格してる。

 というよりまだ敵対心を持ってたのか。執念深いな、お前。怒りたいのはズボンをクリーニングに出さざるを得ない状態にされた俺の方なんだが。


「ほい、200円」


 小便ズボンの文句を言うのも面倒だし、丁度良かったので予告通りに徴収を開始する。

 手を出すと目の前の金髪は首を傾げて、


「――――――――は?」


 と間抜けな声を出した。突然何を言ってるんだこいつみたいな顔。美少女がそんな顔しちゃダメだ。


「いや、カフェの抹茶オレの代金。立て替えといたんだから払ってくれ」

「うわぁちっちぇこいつ。200円くらい奢ってやれよ……」


 麻婆豆腐をご飯に掛けて牛丼さながらにかき込んでいた舞佳が、女子目線からの抗議を上げるがこの際無視しておこう。ってかそんな食い方する奴に女子目線は似合わん。今時小学生でも行儀良く食べるぞ。


「あぁー、確かにそれ気になってたのよ。ほら、200円ピッタリ」


 ちゃんと律儀に財布から200円を出して来たので、冗談半分だった俺は固まってしまった。

 こいつには理由をつけて払わないかもと疑っていた俺を殴って土下座させなければなるまい。金を握った金髪の手を押し返す。


「……冗談だ。取っておけ。それは受け取らない」


 むしろこっち側から謝罪料で1000円払ってあげたいくらいである。


「まぁそっちがそう言うなら。今度あのカフェで200円分奢ってあげる」


 今時珍しいくらい律儀な奴だな。ここまで素直だと何かの詐欺に騙されて行くところまで行かされてしまうかも知れない。神葬具持ちなんだから状況は打破するだろうけども。

 財布に金を戻すと、金髪は再び挑戦的な視線を向けて来る。


「アンタ、あたしをカフェに放置したわね!」

「なんか妄想に浸ってたみたいだから邪魔しない方がいいかなぁと。決して面倒だなとスルーした訳じゃないからな」


 舞佳が後ろで「絶対後者だな…」とか呟いている。

 分かっていても口にするんじゃない。面倒事を回避するには、否定し続けるのが一番なんだよ。


「アンタが声かけてくれないから……あたしは遅刻して教師に教科書で殴られて!しかも角よ!? あの鋭利な凶器って言っても過言じゃない分厚い教科書の角!ムカついて殴ろうにもアンタはどこに行ったかわからないし!」


 転校生だしまだ未紹介だから当然だよな。

 というかここにいるんだから、この金髪は俺と同じC寮か舞佳のE寮なのか。寮にいる時に出会わなくて良かった。もしかしたらこいつが逆上して神葬具出すかも知れないしな。割りと本気で。

 半ば呆れたような目で見ていると名前も知らない彼女は人差し指で俺を指す。こらこら、マナー違反だぞ。


「昨日のお礼……言いたかったのに……」


 小声過ぎて聞こえなかったが文句の類だろうか。

 昨日のことを感謝されても、キレられる言われはない。まさかこれが日本特有の逆ギレという奴か。怖い国だな日本。アメリカでは拳で黙らせればそこで文句が終わるって言うのに。


「いや、殴られたのとか俺のせいじゃないし」


 なんか金髪の方――主に頭部辺りで――何かがぶちりッと切れる音がした。


「ここに宣言するわ!明日の放課後、あたしとバトルしなさい!」


「うわ、この鮭美味いな。ご飯と合うようにちょびっと塩が効いてるところが更に高ポイント」

「一切れよこせッ」


 俺の鮭を褒める言葉がナレーター真っ青だったのか、飢えたハイエナのように舞佳が俺の鮭を奪う。取り返す間も無く奴の小さな口に鮭が吸い込まれた。


「テメェ俺が取っておいた通な部分の皮をごっそりと!許さねぇ!お前のファーストキスと等価なのに!」

「わたしのファーストキス安いな!?なんだお前の中のわたしは尻軽なのか!? まだ一回もしたことないのに!?」


「人の話を聞きなさいよ!」


 無視されていた金髪がキレてテーブルを叩く。その反動で定食に付いて来た味噌汁が少しトレーに零れる。

 だが俺の心の傷は金髪の怒鳴り声くらいじゃ微動だしない。鮭の皮を求めて禁断症状が出始める。


「だってお前……俺の皮をこいつが……ッ。舞佳、等価交換だ。唇を差し出せ」

「あれマジだったのか!? 誰がやるか鮭の皮一枚に!重過ぎるだろ鮭の皮!」


 テーブル越しに『鮭の皮の重要度』議論が勃発し掛けた時、更に金髪がキレて風が吹き荒れる。


「鮭よりあたしの話を、」

「さぁ舞佳!簀巻きにされて今朝の木に吊るされるか俺とキスするか選べ!」

「なんで選択肢が両方重いんだよ!選択の余地が無いぞ!? 誰かから貰って来るとかそういうヤツはないのか!?」


「聞けっつってんでしょバカ!鮭の皮は良いから決闘よバトルよ闘技場よ!」


 その後も決闘が明日の放課後と決定したり舞佳へのキス未遂事件が勃発したり事態を見かねた2年生が俺に鮭を一匹くれたりと……ん?重要なことがついでみたいに記されてる?

 関係無い。今の俺には頂いた鮭の方が大事だ。


「良い!? 覚えときなさい!世界最強だろうとなんだろうと、あたしが倒してやるわよ!それで……勝ってから昨日のお礼を言って……素直に、カッコ良かった……って言って……」

「あ?まだいたの?」

「殺すわ……アンタのその豆粒みたいな脳味噌を更に縮めてあげる……ッ!」

 なんかまだ名前も知らないのに怨まれ度が急成長してる。


「あたしの名前は小波(こなみ) (かえで)!1年!覚えておきなさい、白=レッヂ!」


 ――――――……あ、C寮なのな。こいつ。

はい、次回からは転入編に入ります。新キャラ多いです。

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