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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
1章【神葬具使い達~avenge weapon players~】
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05『たこ焼きの香り』【挿し絵】

「へぇ……アンタが噂の男子編入生か。女子学園に編入してくる時も可笑しいと思ったが、まさか寮まで女子と同じとは。反対とかされなかったか?」

「いや、俺は直接聞いてないんだよ。まぁ肩書きが有名でも、結局は身分不明な男だし、寮生が許さなそうな気はする。だが他に泊る宛ても無いしな」


 先程まで木に垂れ下がっていた女子の意見に同意する。

 学園長の立場を最大限に利用した黒羽が意見を捻じ込んだとはいえ、女子生徒からの反発は多大だろう。女子だけの学園に、世界一位の神葬具使いという肩書だけで前代未聞の男単独編入。寮まで女子生徒と同じと来ている。

 珍獣扱いされても文句は言えないな。男は獣と言い切る女子もいる事だし、もはや害獣扱いか。


「ま、男でも良いんじゃないか?わたしは問題起こさない限り、別に良いと思うけどな」


 男勝りな言葉使いの割りに、人差し指を頬に当てて考え込んだりと仕草が愛らしい。口調を矯正すれば更に魅力的になりそうだが、口出しするのは止めよう。変な奴と勘繰られたら、白い目で見られそうだ。

 行き先確認の為に生徒手帳を取り出し、雑多にページを捲る。先ずは根城となる寮の場所を把握しない事には始まらないしな。

 流し読みで手帳を捲っていくと、丁度中間辺りに目的の表記を発見。『C-201 白=レッヂ』と明記されている。

 女子学園の校則以前に、男女が相部屋になる事なんて有り得ないし、確実に一人部屋だろう。外国軍に在籍中は軍隊の奴と他愛のない話題で盛り上がったり、神葬具使い同士で力試しを行ったりと結構騒がしかったので、改めて一人部屋と確認すると少し寂しい気もする。


「そういや、舞佳。お前、ずっと俺に付いて来てるけど、今は授業中じゃないのか?」

「今から慌てて行っても絶対に説教喰らうしな。まぁ一限目なんて実習と関係ない教科だし、別に良いや。転入生の案内してましたっていう、授業出ない理由が出来て満足だ」


 どうやら優等生とは程遠い素行らしい。複数の神葬具を同時に所持する重複神葬持ちだからといって、特別待遇なんて上手い話しはないか。その割には、俺の知り合いの重複神葬使いは、大統領と面会許可が出る程権力に満ち溢れている。国毎の神葬具使いへの対応の差が露見するな。

 そして先程から男の隣を、警戒心皆無で歩いている重複神葬使い。ここ明星学園二期生で、名を"匂坂(さきさか) 舞佳(まか)"というらしい。つまり一年に編入する俺の先輩に当たるのだが、口調と外見のお陰で全く年上に思えん。下級生と紹介された方が万倍信用出来る。


「あ~、そういや考えてみれば俺の方が年下だったな。ずっとタメ口だったが、敬語とか使った方が良いか?」

「いいよ、別に。敬語とか面倒だし、今更お前に敬語使われると違和感あるし。こうして気楽に話してた方が楽で良いや」

「それなら親しみを込めて馬鹿って呼ぶな。いやぁ名前の方が使い易くていいな」

「舞佳っつってるだろ馬鹿って言うな!っていうかお前本当に遠慮って物知らないな!背か!わたしの背が低いからか、この野郎!」


 言葉使いや容姿を差っ引いても、舞佳とは敬語不要の関係で付き合える気がする。他人行儀を嫌う、話し易い性格が好印象だ。何より舞佳を弄っていると何かが満たされる気がする。

 だがこれ以上舞佳で遊び続けると、涙目の彼女が神葬具を展開しそうなので急遽取り止め。人付き合いで一番に大事な事は引き際だと思う。


「はぁ、はぁ……わたしをからかうのは良いが、今度それをした時がお前の最後だと思えよ……っ」


 残念、本格的に開始する前から楽しみに釘を刺されてしまった。まだまだ弄り足りなくはあるが、これからは舞佳が気付かない程度に弄る事にしよう。


「舞佳の身長は何センチでちゅか?」

「えっと、百四十六……ぶっころすぞお前!やっぱりあれだ!ここで真っ二つにして桜の木の下にでも埋める!お前を埋めたら桜が枯れそうな気がするが、それでも埋める!」


 こちらが驚くほど綺麗に彼女の堪忍袋の緒が切れた。



 ◆ ◆

 非常食として備えていた飴を譲渡し、怒気を沈めて貰った俺は地図を片手に、先程まで火を吹かんばかりに荒ぶっていた舞佳を隣に目的の寮を目指していた。

 ちなみに寮はアルファベット順でAからIまであり、AからCまでが一期生、DからFまでが二期生、GからIまでが三期生の寮になっていて、基本二人一部屋。一つの寮毎に五十人が住居出来るようになっており、俺は部屋が余っているc寮に割り当てられたそうだ。

 そして一番の謎は、折角のアルファベット配列を無視した寮棟の配置について。何故にA寮の隣にB寮ではなく、ランダムに建てられているのだろうか。


「おいおい……A棟の近くにD棟があるぞ。確かD棟って二期生だよな?」

「なんか学年同士での馴れ合いを多くする為らしいぜ。気に入った奴同士なら、学年合同実習とか天人出た時の班分けも学年無視で好きに出来るし。ほら、神葬具が弓の奴とかどうしても前衛欲しいじゃん。無理に誘うより部活の先輩ってな」


 なるほど、生徒が学年別で隔たってしまう事を避けようとしての配慮か。確かに、授業や実習を受けるだけなら学年別の関わりなんて皆無に等しい。

 この配置なら、どうしても別の学年と顔合わせざるを得ないだろう。地味な所で知恵を凝らせている黒羽らしい。


「そういや聞いてなかったけど、白は何所の寮棟なんだ?」


 蜂蜜レモンを舐めながら尋ねて来た舞佳に、生徒手帳を開いて確認させる。


「へぇ、お前白=レッヂって言うのか。珍しいけど、どっかで聞いたような苗字……ってC寮か。わたしのEの隣じゃん」


 本人の見える場所で、目に見えて脱力するのは止めてくれないか、先輩よ。確かに少々弄り過ぎたかも知れないが、茶目っ気混じりだぞ。これが噂に聞く後輩苛めという物だろうか。


「隣同士の寮ってちょこちょこ合同レクリエーションしたりするんだよ。神葬具使い同士で対決したり、バーベキューしたり。嫌だぞお前と一緒にバーベキューするとか!どうせまた、このピーマン舞佳にそっくりだよな、とか言われるに決まってる!」


 ピーマンと瓜二つの顔って、逆に見てみたい気がするが。ちなみに俺は、そんな故事付けたような言葉は言わないぞ。やるとしたら、もっと舞佳の身長の低さを前面に押し出して、本人を目の前に人参を舞佳に見立てて会話したりする。

 しかし寮同士でオリエンテーションか。女子だらけな事は考えるまでもなく、男一人だと随分と居心地が悪そうだ。女子に囲まれる画だけを思えば、確かに素晴らしい物だが、現実と理想は程遠い。


「まぁ決まってる事に文句言っても遅いしなぁ。えっと、ここにA寮がある……ってかなり道外れてるじゃん。むしろ街路歩いて行った方が早そうだな……よし、分かったっ。行くぞ後輩、わたしに付いて来い!」


 舞佳の大雑把な言葉使いや外見だけを見ると、道案内させる事に物凄く不安だ。

 しかし、流石に一年も通えば学園内の地形くらい覚えるか。今度は地図無しで舞佳が俺を先導し突き進む。真面目な性格とはいかないが、こうして後輩の面倒をきちんと看るところは、流石先輩。ただ敬語を使うつもりは毛頭ない。

 いやでも、こうして後姿眺めてると、改めて舞佳の身長の低さを再確認。それもただ小さいだけでなく、マスコット的な趣きがある。軍隊に所属していると長身な美人としか遭遇する機会がなく、こういう小さな美少女は見ていて飽きない。

 舞佳から視線を外し、今度は視線を周囲へ。黒羽の拘りを感じる、写真に残しても画になりそうな中世ヨーロッパの街並みに、転んで頭でもぶつけようものなら致命傷になりそうな石畳の道。物凄く場違い感があるが、屋台等も軒に並んでいる。


「ん、この匂いは……おぉ、タコ焼きだ。舞佳、一個くらい買って行っても良いか?」

「はいはい道草してんな寮についてから買いに来い。ってか、今食ったら絶対、制服に匂い付くだろ」


 先を急いでいるのは理解しているが、袖を引っ張るのは止めてくれ。新品の制服が伸びてしまう。

 それにこっちは、久し振りに見た日本の食い物が懐かしいんだ。ソースが香ばしく焼けた匂いと、鉄板の上でなる派手な音。

 思い出したんだけど、朝飯食ってないんだよな。自覚したら腹減って来た。


「舞佳、お前の言葉を汲んで買うのは止めよう。だから俺にタコ焼き奢ってくれ」

「そういうのを揚げ足取りって言うんだぞ!? なんでわたしがお前に奢らなきゃいけないんだ!むしろお前が奢れ!ここまでの迷惑料で!」

「おばちゃん、タコ焼き一つ。マヨネーズ多目に掛けてくれる?」

「って、何時の間にか買いに行ってるし!おい、わたし袖掴んでた筈だぞ!? うやって抜け出したお前!あぁ~……わ、わたしも食べる!おばちゃん、もう一個!」


挿絵(By みてみん)


「はむ……はふはふ。んでだな、緊急招集時は寮内に馬鹿デカいアラートが鳴るから……むぐ、寝てても飛び起きるぞ」


 軍隊にいた頃は何度も経験した、所謂強襲。

 こちらはどうしても強襲される側であり、天人達に時間、場所等関係ない。だからこそ一刻も早い対処が必要で、三期生は常日頃、交代制で警備役を買っているらしい。全て黒羽からの受け売りだが。

 軍隊にいた時は目視で天人の群を発見すると雄叫びをあげる奴がいて、それを合図に皆が騒ぎながら武装整えて戦い始める、そんなアバウトな戦い方だった。それでも持っているんだから流石軍事力の国アメリカ。軍隊も常時最大火力であり、神葬具使いの人数も群を抜いている。


「勝手は違うだろうけど、出張るのは殆ど三期生とか教員だからな。わたし達が出るのは天人の出現ポイントが前以って分かった時とか、戦争並みの全面対決みたいな、規模のデカい時だけだ。やっぱり、半人前は出したくないって事なんだろうな」


 では何故あの金髪は、天人が現れた時、首都の中心街にいたのだろうか。危険を承知の上で、天人に真っ向から喧嘩も売っていたし。

 今度会ったら抹茶オレの料金徴収ついでに聞いておこう。勘違いするな、料金徴収が最重要事項だ。


「ほい、やっと付いたぜ白」


 爪楊枝で刺した最後のたこ焼きを頬張っていると、舞佳が突然目の前の建物を指差す。

 街並みに合った建築な上に、五階建て。最初に見たA寮と同じ様に随分と豪華な造りで、思わず口が開いてしまう。軍隊時代のテント生活を思えば、凄く改善された生活環境だな。


「ここがC寮な。それと、ほら。向こう側に見えるのが、わたしの住んでるE寮だ。言った通り近いだろ?」


 舞佳が指差している方を見ると、通りの向こうに同じ様な建物発見。外観を崩す事が無い様に配慮されているのか、寮の目印的な物は一切ない。慣れない内は見分けるのに苦労しそうだ。


「案内だけで終わる授業って楽だよな。はむっ、ん~……美味かったっ」


 働いた後の飯は美味いとでも言いたいのか。お前授業すら受けて無いぞ。

 最後のたこ焼きを頬張って俺の持っているビニール袋にゴミを入れると、学園までの道へ走り出す。


「そんじゃ、わたしは午後の授業に出たいからここら辺でなっ!結構楽しかったぜ、白!」

「おう、またな~。それとあんまり走るとライムグリーンが見えるぞ~」


 聞いてから気付いたのか、焦りながらスカートを整えようとする舞佳は、目の前の壁に気付かずに―――「あべん!」交通事故紛いで正面衝突した。良い子は前を見て歩きましょう。

舞佳の登場です。

武器は大剣&双剣。彼女の出番が現段階で一番多いでしょうかね。

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