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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
5章【ダンション実習~Dungeon lesson~】
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42『最下層への近道、現れた暗黒』

【エリーゼ=ディ=アルフォートSIDE】

 手の平を宙へ掲げると現れる、蝋燭に灯るような淡く蒼い炎。その心細い炎を握り締め、大きく宙を薙ぐ。すると惨めな烈火が拳の中で激しく燃え盛り、火の粉を花弁のように爛々と乱舞させながら獰猛な獣の如く咆哮。

 周囲の温度を急激に下げる程の冷気を帯びた蒼炎が、手の平の中で形を成す。想像するのは弓。何もかもを貫き灰塵へ還す、蒼く透き通った絶対零度の弓。


「やっぱり手に馴染んだ武器が一番ですわね。久し振りに槍を使うと、肩が凝りますし……何より、胸に当たらない様に振るのが骨折物ですわ」


 先程まで狭苦しい通路の連続だったので、自分好みの武器を使う事が出来ずに鬱憤が溜まっていた。

 刀を使うと壁の素材である石すら斬り裂いてしまい却下。押し寄せる天人の群れに、弓を使えば非効率的。結局場に適し、趣味に合わない長物を使わざるを得ない状況ばかりで、好い加減辟易していた所だ。


「骨が折れるの間違いでしょ、それ。はぁ、最下層なのに緊張感無いわね……汗出る程緊張してたあたしが馬鹿みたいじゃない。なんか最下層まで来た途端に気分も悪くなるし……おぇ」

「心配し過ぎですわ。どう足掻いても、学生向けの演習では退屈凌ぎにもなりませんもの。それに、あまり他の事に気を取られていては、必要な時に動けませんわよ。戦場で一番重要な事は、何事にも動揺せず適切に対処出来るか否か、ですわ」


 不測の事態に混乱した者から脱落していく世界。そんな場所に何年も身を置けば、嫌でも緊急事態に遭遇する。戦場へ向かえば報告にない何十体もの中位天人が待ち受けていたり、米国で最も安全といわれる都市部が強襲されたりと、わたくしの経験だけでも挙げ始めると切りがない。ただ全ての事件の共通点といえば、死傷者が軽く百人を越えていること。

 大剣使い達との班を突然出現した疑似天人に分断された時、躊躇無く行動出来たのも、過去の経験が活きたからだ。

 天人はより強い神葬具に惹かれる特徴がある。白様が不在の今、わたくしの蒼炎が発する蜜の方へ、天人が群がるのは確実。ならば被害を最小限に留める為、わたくし側が囮になれば良い。万が一、大剣使いの方へ天人が牙を向けても、背後から隙を突ける。


「……ふん。でも、一番運が良かったのは近道出来た事よね。まさかダンジョンに最下層まで飛ぶ隠し通路があったなんて、夢にも思わなかったわ」


 そう、実はわたくし達は正規の道を通行して最下層まで辿り着いた訳ではない。もし通常通りにダンジョンを進めていたら、一層毎の時間から考えて、軽く見積もっても倍以上の時間を掛けていたでしょう。


「脚鎧使いが前を見ずに走る方で助かりましたわ。あ、誤解されるのは癪ですから訂正しますけど、決して貶している訳ではありませんわよ。ただ馬鹿にしているだけですから」

「馬鹿にしてるじゃない!尚更悪いわよ、この青色一号!」


 なら何故情報も一切ない近道を偶然発見出来たか。

 それは大剣使い達と分断され、後方に大量の天人を引き連れて逃走している最中のこと。通路を曲った先が壁で塞がっており完全な通行止め。

 大量に雪崩れ込む天人達を、正面から迎え撃つ以外の選択肢が断たれたと思いきや、走り続けて意識が朦朧とした脚鎧使いは一直線に壁へ突進。あわや壁と正面衝突の大惨事――の筈が、驚く事に脚鎧使いは壁を貫通。次いで壁の向こう側で小さく反響する間抜けな悲鳴。

 安全確認の為に壁を叩こうとすると、触れた瞬間、まるで水面のように波打つ壁。慎重に顔のみを潜らせ内側を確認すると、あるのは紫色の松明に灯された薄暗く不気味な下へ続く螺旋階段。そしてその段差に足を取られ転んだのか、尻を突き出し下着を盛大に露わにした脚鎧使いの姿。


「あら、婿入り前の婦女子がはしたないですわね。今時、売春婦もそこまで下着を見せたりしませんわよ?」

「転んだのよ見れば分かるでしょ!? それと婿じゃなくて嫁入りよ!」


 鼓膜を震わす程の大声を出せる元気からして、大きな怪我はない様子の脚鎧使い。その頑丈さに密かに感心していると、先程通り抜けた壁の向こう側から響く大勢の足音。

 念の為に蒼炎の槍を構えたが、杞憂で済んだようだ。疑似天人達はこちら側へ渡る事が出来ないらしく、誰一人として姿を現さない。疑似天人達が気付いていないだけか、もしくは物理的に渡れないだけか。未だに、わたくしの蒼炎に引き寄せられてる事からして後者だろう。

 そう考え一安心したのも束の間、その数を考えると、先程の通路へ戻るのは得策ではない。明らかに何か待ち受けていそうだが、螺旋階段を選択した方が圧倒的安全策である。


「うぇ、走り続けたせいで気持ち悪い……鼻も打ったし。……っていうか、ここ何所?なんか松明の火も紫色だし……お化け屋敷に転送されたとかじゃないでしょうね」

「貴女が無謀に壁へ突っ込んでくれたお陰で、見付けられた隠し通路ですわ。見る限り、下へ続く階段でしょう。何所へ繋がっているかは、検討付きませんけど」

「誰が無謀よ誰が!誰だって三十分全力疾走したら前も見れなくなるでしょうが!……あーでも、ここって教員専用の通路じゃないの?ペナルティとかあるかも知れないし、戻った方が――……げっ!?」


 もはや目視せずとも見当が付く大勢の敵が、壁の向こう側で身に纏った鎧を鳴らしている。どんなに鈍感な人でも、壁の向こう側が危険地帯に成り果てている事には勘付くだろう。戻る事は自殺行為以外の何物でもない。

 服へ付いた埃を払う脚鎧使いの前へ出ると、躊躇なく階段を下り始めた。深さからして、一層二層下る程度ではないだろう。予想通り、螺旋階段はなんと最下層まで、つまり二十層以上超える物だった訳ですけど。

 でも、あそこまで長い階段を見たのは、時計塔を単身で登った時以来でしたわ。


「最下層まで着いたのも初めてだけど、裏道使うのも初めてよ。ほんと、怒られたりしないと良いんだけど……停学とかになったら悲劇よっ。あたし、只でさえ現国の点数不味いのに!しかも現国の授業って明後日なのよ!? もし停学になったら現国の点数に直撃じゃない!」

「人の事を言う前に、貴女こそ緊張感が足りな過ぎでなくて?停学とやらより、周囲の警戒を――……っ!?」


 咄嗟に弓を構えると、引き絞った弦を弾いた。蒼炎で形成された矢が弓から離れ、獣のように宙を縫う。

 射たのは、わたくしが視認した獲物を追う追跡型の矢。たとえ薄暗い場所だとしても、一瞬でも敵を目視出来れば矢は敵を貫くまで追い続ける。その代わり威力を犠牲にしてるが、これは言わば威嚇射撃。

 反応を見ていると予想通り、蒼炎の矢は破壊されたらしい。しかし破壊されるのが一瞬で、相手の武器や姿が把握出来なかった。広く薄暗い大広間で、相手の姿を確認出来ないのは痛い。


「どなたか存じませんが、こそこそ動き回るのは悪趣味ですわね!正々堂々姿を現しなさい!」


 蒼炎の弓を掻き消すと、今度は何時襲われても対応可能な近接用の武器へ変更。手の平で激しく燃え盛る炎を掴むと、その手で大きく宙を薙ぐ。呼び出すは何もかもを斬り裂く一振りの刀。やはり愛用している形状の武器が一番ですわね。


「脚鎧使い、わたくしの背中に背を付けなさいっ。背後から襲われる可能性もありますわ!」

「わ、わかったわよ。でも、この力の大きさって……白?ううん、白が剣を呼び出した時も、ここまでじゃ無かったわよね……」


 脚鎧使いと背中合わせで周囲を見渡すが、一向に動きを見せない相手に焦りが混じる。ここまで、白様よりも強い力を感じたのは、神葬具を扱って以来初めてだ。中位天人数十体を目の前にしても、こんなに手は震えないだろう。

 正直、力を感じた瞬間は白様の物と勘違いし掛けた。だが膨れ上がった力の総量が、明らかに人の扱える範疇を超えている。それこそ人間一人なんて腕を振っただけで殺めてしまえそうな程に。何より漂う殺気が、中位天人の放つ物とは違う。


「――……そこっ!蒼炎よ、照らしなさい!」


 相手がここまで驚異的な力の持ち主ならば、たとえ周囲が暗闇だとしても居場所を特定出来る。神葬具の共鳴反応を媒介に神経を集中させ、力が集中している場所へ蒼炎を投げ込む。

 白様に趣向を凝らして頂いて編み出した、閃光弾の模倣技。たとえ敵に損害を与えられずとも、牽制にはなり得る奥の手。

 蒼い炎が相手のいる場所を照らし、やっと姿を拝む事が叶う。


「ここにいるって事は、疑似天人……よね?羽の色違いって事は、まさか上位?」

「えぇ、その通りですわ。こんな力の中位なんて見た事も聞いた事もありませんもの。流石白様の母様ですわ。ゲームとは言え、こんな隠し玉を用意しているなんて……乗り越えて白様を奪って見せろ、そういう事ですのね」

「馬鹿な事言ってる場合じゃないわよね!?」


 普通なら赤一色である筈の天人の羽。しかし目の前で蒼炎に照らされた小柄な天人の翼は、彼女を包む黒い霧と同じく深い漆黒色。その羽とは正反対に、(ヘルム)から伸びた髪の色は処女雪を思わせる程に白く長く、膝まで伸びている。

 鎧は下位や中位の物とは違って比較的軽装であり、手に持った獲物は、振り回す事すら困難そうに見える大振りの斬首鎌。刃の部分に掠りでもすれば、間違いなく首どころか体を持って行かれるだろう。


「ねぇ、なんかさ……敵の体力、可笑しくない?普通さ、体力のゲージって一本なのよ。アンタの二本も初めて見たけどさ……敵のって、あたしの目が可笑しくなってない限り、十本以上あるわよね?」

「体力なんて関係ありませんの。もっと警戒すべきは、あの武器ですわ。わたくし達の、神葬具とは次元が違い過ぎますわね……」


 確かに脚鎧使いの言う通り、体力の多さにも目を見張ってしまう。だけど、わたくしがそれ以上に気になるのは、神葬具の上位互換としか例えようのない大鎌の存在。

 こちらの敵意を感じ取ったのか、天人は威嚇するように背中の黒翼を大きく広げ、大鎌の重量を無視し軽々と振りかざす。

 どちらにしろ尻尾巻いて逃げる事は自分のプライドが許さないのだから、真正面から戦ってくれた方が有り難い。

 蒼炎の刀が闘志を示すように燃え上がる。息を整えると、天人を視界の中心に捉えて正眼の構えへ。


「……脚鎧使い、この演習、只の死なないゲームだと思わない方が宜しくてよ。相手は偽物といえど上位……わたくしも本気で行きますわ」

「あたしだって、端から遊びなんて思ってないわよ!本気で行くわ……来なさい、神葬っ!分け隔てなく包み込む風をここに!」

やっと完全版うp完了です

かなり削り、エリーゼ話にしました。作者満足です

次回に犬神さん達は出ますのでお許しください!灯火達は影すら出ていないという…。

楓とエリーゼだけの絡みなんて始めて書いたので少し戸惑っています

上手く面白く書けていたら良いなぁ。

ではまた次回に会いましょう…

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