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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
5章【ダンション実習~Dungeon lesson~】
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40『逃げ回る最強班』 【挿絵】

 【楓SIDE】

「と、灯火……ッ!い、今……はぁっ……何層くらい!?」


 息も絶え絶えで今にも脚がもつれそうだが、休憩する暇は全くない。狭い通路内を、全力で駆け抜ける。無論立ち止まれば、後方から迫り来る天人達に、地獄への招待状を手渡される事は火を見るよりも明らか。

 走り続けて何分経過したのか、もしくは何時間か。記憶どころか意識を手放す寸前な状態で、時間経過なんて覚えてられる筈がない。


「今、下りて来た……ので、五層、だよ……」

「まだそんなもんか……!途中に休憩地点とかあっても、良いんじゃないのかッ!?」


 元々色白の灯火の顔色が、徐々に青白く変色している。あたしと違って体育系は苦手な子だし、本格的に限界が近いのだろう。このままでは安全圏に辿り着く前に灯火が倒れてしまう。

 だからと言って入り組んだ狭い通路で無防備に休憩を取ろう物なら、通路の両側から一気に袋叩きに遭う事請け合い。

 止まるも地獄、止まらぬも地獄。


「前から二体来ますわね。脚鎧使い、仕掛けますわよ」

「言われなくても分かってるわよっ!」


 今までに見た刀でも弓でも無く、槍の形状に変化した蒼く揺らめく炎。それを握り、あたしよりも速く蒼炎が打って出る。

 予告通りに前方の曲がり角から現れた二体の天人。蒼炎は右側の天人の腹部へ、振り被った槍の穂先を力強く繰り出す。疑似天人とはいえ、鎧の頑丈さは本来の物と差は無い筈。それにも関わらず、炎は意図も容易く鎧を貫通。間髪入れずに槍を引き抜くと、瞬時にがら空きの首を一突き。

 獲物の直剣を取り落とし、瞬く間に一体の天人が蒼の炎に包まれた。これが本物の天人ですら焼き尽くす世界二位の実力。


「ふふ、下位の中、くらいの力ですわね。まだ軽いですわ」


 しかし驚きで気を抜いてはいけない。こちらはもう一方の天人を任されているのだ。

 あたしは疾走した勢いを脚鎧へ乗せ、巨大な盾を構えた天人に、渾身の飛び蹴りを放つ。神葬具の能力である風を纏い威力を増した蹴りは、見事に頑丈な盾に阻まれた。

 だが、それも見越しての事。天使の武器である神葬具にも、必ず弱点は存在する。防御に特化した盾は破壊出来ずとも、受けた衝撃は持ち主の腕へ伝わってしまうのだ。例え天人でも下位ならば、爆風を眼前で受けたような衝撃は殺し切れない筈。

 その証拠に、天人の強靭な盾は両腕ごと浮き上がっていた。


「下の方が、がら空きじゃない!」


 盾に守られていない今、天人の胴を守れるのは頑丈な鎧のみ。有効打を与えるなら最高の好機。

 しかし、飛び蹴りを防がれた為に衝撃を貰い、こちらも空中にいる。折角隙を作ったとしても、追撃出来なくては全て水の泡。それも、単独ならばの話だが。

 後方から投げられた一つの円月輪が、天人の無防備な脚を捌く。威力を見込めずとも、円月輪の攻撃は天人をよろめかすには十分。打合せも無しに、ここまで仲間の動きを把握し連携を取れるのは、一年でも精々灯火くらいだろう。


「ナイスよ、灯火!」


 バク宙の要領で体を回し、素早く石造りの地面へ着地。神葬具の力で強化された脚力で、助走が皆無な状態から床を蹴り、一気に加速する。

 狙うのは、転び掛けで無防備に晒された人体の急所。


「鎧に隠れてても、これは効くわよねッ!必殺のぉ――」


 敵の目の前で片脚に力を込め、強く踏み込む。後ろへ下がった脚を蹴り上げ、その勢い活かし体が空中で弧を描く。振り抜いた脚鎧の爪先は、天人の甲冑に包まれた顎を深く貫いた。

 サマーソルト。地道に練習し続けたお陰で、やっと形になった技だ。

 最初の頃は神葬具の能力を扱い切れず、失敗した時は平均で約五回、空中で回転してたし。毎回吐き気を催して灯火に介抱されていた苦い思い出を背負った技でもある。だからこそ、実戦で綺麗に決まると感動も一塩。


「か、えで……は、早く、行かないと……!」


 疑似天人の死体が、跡形も無く消失。それを見て、憧れの技での勝利に酔い痴れていると、何時の間にか背後まで来ていた灯火に肩を叩かれる。

 我に返ると、蒼炎は前方に再び現れた天人三体を鮮やかな槍捌きで消し炭に変えた後。後方に目を向けると、狭い通路内を大群で押し寄せる天人達の姿。余韻に浸っている間に、随分と時間は経過していたようだ。

 天人達の群衆に紛れて、逃げ惑う他の班の生徒も見えたが、荒波のような天人の進行に飲み込まれてしまった。その直後に群れの中で、小さな光の柱が四本立ち上る。


「あら、随分綺麗な光ですわね」

「体力が無くなった奴は、あぁやって脱落するんだよ!それよりも早く行かないと追い付かれるぞ!」


 暢気に残り火を眺めていた蒼炎の腕を引っ張り、体力を温存していた舞佳先輩があたしの代わりに前衛へ。普通の神葬具使いは、神葬具を呼び出す際に詠唱不必要なので、あたしのように常時展開し続けないで済む。鉢合わせの戦闘に全く対処出来ないあたしとしては、羨ましい限り。


「楓、灯火を頼んだ!二層分、わたしが引き受けるからな!」


 即興で組んだ班な上、三層を超えた辺りから灯火が提案し、急遽本番で続けている交代作戦だが、中々上手く噛み合っている。

 常時展開し続けなければならない低燃費なあたしと、瞬間的に展開出来るが高燃費な舞佳先輩。二人で交代し合い、前衛を支える作戦。これならば舞佳先輩の爆発火力も温存出来て、灯火も診ていられる。

 代わりに、常時前線へ立ち続ける蒼炎には相当な負担が掛かる筈だが、本人は疲労感を全く感じさせない無双状態。ダンジョンへ侵入して以降、神葬具を行使し戦闘回数を重ねていくにも関わらず、精神力のゲージが枯渇する気配は皆無。化け物か己は。


「神葬……かい、じょ……」


 神葬具を解除し脚鎧が姿を消すと、途端に体が重みを増す。神葬具使いに良くある症状だ。神葬具の能力に依存し過ぎた結果、無意識下で体力が摩耗していく。殆ど麻薬といっても差し支えない。

 体力のゲージは未だ半分残っていても、実際の体は違う。外見は無事でも、中身は酷使したお陰で悲鳴を上げている。

 せめて少憩を挟みたいという願望は贅沢だろうか。


「楓、平気!?」


 息を整えた灯火に肩を貸され、前のめりに倒れる事を辛うじて防ぐ。きっと今の状態で転倒していたら、起き上がる気力は湧かない。厳しくても、前に進まないと。


「平気……よ。相変わらず、心配性ね……灯火は」

「僕が心配性なら、楓は意地っ張りだよ。本当に苦しそうだったら、直ぐ辞退するからね」


 あたしの腕を肩に回し、天人達から追い付かれないよう絶妙な距離を取って走る灯火。あたし達の戦闘中に少しだけ休めたのか、顔色は先程と違いほんのりと上気している。

 この学園に入学する以前のあたしなら、灯火の言葉を余計な世話と割り切っていたに違いない。でも灯火はそんなあたしを見捨てずに仲間でいてくれた。一番の信頼が置ける灯火だからこそ、あたしの限界も理解している筈だ。


「ありがと、灯火」


 体に度々当たる灯火の発育途上の柔らかな胸に、若干苛立ちつつも歩を進める。

 休憩地点は十層。後この層を入れて二層を超えれば良いだけの話。歯を食い縛ってでも堪えて見せるんだから。



 【??SIDE】

「ふむ……これは凄い事になっておるのぅ」


挿絵(By みてみん)


 神葬具自体の強さが天人を引き付ける。天人学で学んだ事ではあるが、自分には起こり得ない事態なので、呆れを通り越して関心してしまう。まるで蜜に寄る蜂の大群だ。

 足跡からして、五層の時点で合計三十体以上の疑似天人に追われている四人班。小規模ながら戦闘の痕もあり、前方から挟み撃ちされ掛けた事が容易に推測出来る。ここまで四人班の内一人も脱落者が出ていないという事は、全て上手く切り抜けたのだろう。


「これは――……蒼い、残り火か?炎なのに冷たいとは、面白い物じゃのぅ」


 教師からの連絡を受け、急いで駆け付けたが、四人班がこの場を通過して優に十分は経過している。にも関わらず、通路の端で可燃物無しに燃え残っている蒼い炎。


「神葬具使い世界二位の蒼炎、か。吾の鞘とは比べ物にならんのじゃ」


 試しに自身の握る神葬具を蒼炎に近付ける。

 ″共鳴(ハーモニクス)″。神葬具同士を近付けて力量差を明確にする唯一の手段。低級の神葬具が高い位の物と共鳴を行うと、震え出すか距離を取ろうとする事を利用し、区別する。神葬具自体の解明が難しい以上、神葬具の力量はこうして原始的に行うしか術がないのだ。

 一般的な下級の神葬具ならば、これ程強力な神葬具に近付けば、主の手から跳んででも距離を取ろうとするだろう。最低でも振動くらいの反応は見せる筈。


「まさか……世界二位の神葬具でも、反応がないとは……」


 嫌な意味で予想通り。自分の手の中の神葬具は微振動どころか全く反応を見せない。

 自分の神葬具が欠陥品である事実は、前々から分かっていた。外見を必死に取り繕っても、この神葬具の中身は空っぽだ。神葬具に必須の能力といえば、雀の涙程度の物しか揃っていない。

 最高学年に上がり、身体能力で歴代最高値を叩き出したとしても、肝心の武器がこれでは意味がない。屈強な男を一撃で沈める程の拳を持っていたとしても、戦うべき敵には歯が立たないのだから。


「――……いかん、こうしていても時が過ぎるのみじゃな。先を急ぐか」


 首を振り、内心動揺している自分へ活を入れる。

 ダンジョンの通路で茫然と突っ立っていては、天人の恰好の餌。言うが早いか、吾の瞳は通路の奥から、物々しく金属音を立てながら前進して来る、疑似天人の集団を捉えている。数は二十を上回る程度か。

 疑似天人は階層毎に数が固定されている。一体が神葬具使いに敗れれば、また新たな場所から天人が補給され、絶対に全滅には至らない。加えて疑似天人は、標的を追って層の移動は不可。


「まさか蒼炎を追っていた時から、ずっと群れで移動しておるのか」


 今回のダンジョン演習は例え一層からでも、一年と二年には辛いだろう。天人の力は目に見えて上がっている上、知能も前回とは格が違う。普段なら多くても三体程で移動する疑似天人が、集団で移動しているのが何よりの証拠だ。


「これは、生徒がこの層を通るのに不便じゃな。出来れば分断して置きたいが、如何せん数が多過ぎる……闇打ちで行くしかないのぅ」


 闇打ち戦法は性分に合わないが、元々弱い神葬具の力が天人に勘付かれ難い事に加え、自身の身体能力が隠密に適している。卑怯だが生き残る為には致し方ない。

 天人集団の後方に回り、闇打ちで各個撃破。天人の復活の場は無作為であるし、この集団を解散させるには一番手っ取り早い。


「……蒼炎の班に早く追い付かねばならぬし、急がねばな」

完成版ようやく上げられた…。

新キャラを出すのがこんなに大変とは…わぅわぅ。

ちなみに自分は作品を書いてる時高確立で古畑任三郎を見ています。DVD借りて来てジッと観てて、気づいてまた執筆して…と。

だから執筆速度が遅いんだよこの駄目作者…!

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