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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
4章【堕天の黒翼~Black wings of a Fallen angel~】
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37『理解されない拒絶』

 【小波 楓SIDE】

『戦うだけじゃ、救えない物もあるんだ』


 昨夜に白から言われた言葉が、頭の中で何度も反響する。それこそ、あたしを一日中不機嫌にさせるくらい、絶え間なく。

 加えて今は憎らしい天人学の授業中なので、苛立ちも頂点に到達。今の精神状態なら中位三体にだって躊躇なく特攻出来るだろう。返り討ちに合うのは必至だけど。


「下位の天人は基本的に歩兵という考えで構いません。出現陣が現れた際には、可及的速やかに下位の集団を抑え、出現陣の迅速な破壊が望まれます。しかし、相手も易々と自分達の出現する為の陣を破壊させてはくれません。さて、出現陣を破壊する際、神葬具使いが気を配らなきゃいけない事はなんでしょうか。今日は――そうね、小波さん、答えてくれるかな?」


 あたしも理由を知らないけど、意外にも灯火が報告無しに授業を欠席しているので、普段は優等生の灯火がいるべき場所が空席。

 天人学の教師は、その事を知らずに真面目に答えてくれる灯火を指そうとしたのだろう。欠席している灯火の代わりに、矛先は偶然教師と目が合ってしまった、あたしへ向けられる。占いなんて何時もは信じないけど、今日ばかりは十二位の運勢を認めざる終えない。


「……はい。出現陣を発見した際に確認するのは、先ず中位の存在です。中位は指揮系統も管理しているとされ、基本的に中位を倒すと下位の動きは鈍ります」


 溜め息を吐きながら席を立つと、もはや一年生でも常識である常套戦術を答える。

 天人を解剖する手段が皆無な人類は、圧倒的に敵の情報が不足していて、どの国も中位と下位の違いは力量差くらいしか明確に出来ていない。今答えた物も、教科書頼りの模範解答。

 でも現実は違う。都心が襲撃された時、門番的役割の中位は出現陣の防衛を無視して、あたしを取り囲んでいた。神葬具を展開していなくて、只の学生状態だったあたしを。


「その通りです。小波さんの言った通りで、中位はその武装だけでなく――」


 思い出すと吐き気と共に後悔が次々と現れる。そして、それ以上に恐怖も。

 あたしの背後を指差し、出現陣を展開した後、自分の事を世界の救世主と名乗った少女。あの時、あたしは威圧感に呑まれて、何も出来なかった。白に守られてなければ、出現陣から現れた槍の穂先が胸を抉っていただろう。


「この学園の中に、上位がいるって知れ渡ったら……どうなるんだろ」


 あたしの後方の生徒達は卓上の授業だからか緩み切って、居眠りしている生徒すらいる。

 今この広い教室にいる何人が、下位一体と互角に戦えるか。体験した身だと安易に想像がつく。絶対に五人にも満たないだろう。灯火のような後方支援の神葬具なら未だしも、前衛系を含めてこの数字。


「あの上位一体で、この学園は――……皆殺し」


 きっと世界最強の白だって、手も足も出ない。アイツはそれを承知の上で、裏切る可能性のあるサンダルフォンを匿うと言い出した。

 あたしにだって、貴重な天人の情報を手に入れたいっていう意図位は理解出来る。

 でもあたしは――認められない。家族を目の前で殺した天人を。どんな事があっても、許せる筈がない。


「苦しいよ……白」


 沢山の人が目の前で死ぬ。そんな光景を数多く間近で見て来たであろう白だから、天人を拒絶する気持ちを分かってくれると思ってた。アンタだけは、あたしの味方でいてくれるって思ってたのに。

 胸がきつく締められる感覚と同時に、制服に包まれた両腕が鈍く疼く。目の錯覚なのか一瞬だけ制服越しに微かに見える程度で、両腕に奇妙な文字列が浮かんだ気がした。

 顔をしかめながら袖を捲くったが、あるのは戦闘や訓練で付いた消え掛けの傷跡だけ。確か前に実習授業で教わったっけ。傷は勲章なんかじゃなくて、死に掛けた明確な目印だって。


「何であたしは、弱いままなんだろう……」



 【匂坂 舞佳SIDE】

「白様、つい放課後まで待ち切れず貴方を訪ねてしまったわたくしを御許し下さい」

「……なぁ、お前等のご主人様、下級生の教室の扉に頭下げてんだけど?」


 そしてわたしは通り過ぎてく下級生達に同類を見る目を向けられてるんだけど。

 止めてくれ。わたしは普通に日々を送りたいだけなんだ。御願いだから扉に頭下げてるエリーゼとわたしを、舞佳を同類にしないでくれ。只でさえ試験で気が落ちてるのに、重ねてこの仕打ち。もはや涙も枯れたわ。


『流石お嬢様!礼儀を忘れない高貴な心!拙者感服して……うぅ、涙が止まらぬでござるよぉ!』


 飼い主命の自称狼は滝の如き涙を流しながら器用に前足で鼻紙を使い鼻水をかんでいる。お前に意見を求めたのが間違いだったか。


『姫しゃま姫しゃま、旦那しゃまの匂いが薄いでしゅ。ここにはいないみたいでしゅね』

「あら、折角授業を終えて最速で参りましたのに……残念ですわ」


 頭の上の餅猫の報告を聞くと、エリーゼは頬に手を当て物憂い気に溜め息を吐く。

 こちらは溜め息すら出ない。お前のお陰でわたしは試験の後悔を引き摺る暇もなく連行されたんだからな。

 試験時間終了と同時に隣席のエリーゼに手を引かれ、答案用紙を教師に提出する事すら叶わなかった。机に置きっ放しの答案が、きちんと受理されてるか心底不安だ。冷静に考えると顔が蒼白を通り越して青紫に変色しそうである。深く考えないが吉。


「ふ、ふふふ……まさか白様、授業を受けずに円月輪使いと一緒にいたりしませんわよね……?」

「いや、わたしに聞かれても知らないって!それとエリーゼ!右手から蒼い炎が出てるけど校舎内は基本神葬具の展開は厳禁だからな!お願いだから仕舞え!ってかお前等も見てないで自分の主人を止めろ!」

『お菓子が美味しいでしゅ~もぐもぐ』


 犬は未だに泣き続けていて、猫に至っては飼い主の頭上で何時の間にか取り出したクッキーを食している。本当に傍から見ると使い魔失格な二匹だな。普通なら解雇されないのが不思議な程だが、主人は甘やかしているし愛玩用としては都合が良いのだろうか。


「――……げっ」


 エリーゼをこのままにしておくと、白の近くにいる女子相手に無差別凍殺事件でも起こしかねないので教室に連れて帰ろうとすると、論議していた前の教室の扉が開く。

 顔を出したのは、エリーゼの白み掛かった物よりも純粋な金色の髪を持つ女子生徒。心成しか顔色が昨日会った時よりも悪く見える。

 正直、エリーゼを楓と会わせるくらいなら、白と一緒にいる灯火と鉢合わせした方が平和な会話になると思う。灯火に対して何度かエリーゼが凶器を持ち出しそうではあるが、口喧嘩から本気喧嘩に移行されるこちらよりは幾分かマシだ。


「あら子犬さん、御久し振りですわね。相変わらず野蛮な言葉使いですこと」

「うっさいわね青色一号!なんでアンタがここにいんのよ!」

「人に物を聞く前に、先ず始めは挨拶でなくて?そんな事も判断出来ないなんて、日本の神葬具使いの程度が知れますわね」

「アッタマ来た!日本バカにすんな飯不味島国!」


 やっぱりこうなるか。想像通りというか期待を裏切らないというか。校舎内部が損害を受けないよう祈るばかりだ。止めに入ったら巻き込まれる事必至だからな。自分の身を犠牲にするほど馬鹿じゃないぞ、わたしは。


「あれ?先輩、どうして一年の教室に?」


 廊下の隅っこで二人の口論に巻き込まれないよう身を隠していたが、何者かに直ぐに発見される。神葬具の種別からしても、わたしに隠密行動は無理だな。

 振り向くと昨日、白と共に食堂の中に入って行った後輩の姿。肩までのポニーテールと、苛立ちを通り越して溜め息が出るほど豊満な胸。エリーゼまでとはいかないが、羨ましく思える高身長。自分で言うのも何だけど、傍目から見ればどちらが後輩か明らかだろうな。まずい、泣きそうだ。


「エリーゼが白に会いたいって聞かなくてな。あ、灯火は白が何所にいるか知ってるか?」

「あっ……い、いえ、今日は会ってないですよ?僕は保健室から帰って来たばっかりですし……」

「そっか。まぁ普段から授業サボってそうだしなぁ、あいつ。灯火が知らないなら手詰ま――」


 いや待てよ。確かエリーゼの奴が試験前に話してたな。朝早くに灯火が白の部屋にいたって。

 灯火は、楓やエリーゼみたいに表情が目まぐるしく変わる子じゃないから分かり難くはあるが、よく見れば若干灯火の目が泳いでいる気もする。

 白と灯火は唯一食堂内に入って行った二人だし、更に怪しさが目立つ。もしや可愛い後輩が先輩を謀っているのではないか、そう勘繰ってしまう。昨日は結局、説明も無しに帰された訳だし。


「って楓とアルフォート先輩は……また喧嘩してるんですね」

「ん?あぁ、会った瞬間に喧嘩始めたな。本人達が止めるまで下手に手を出さない方が良いと思う」


 灯火も苦笑いで頷いている。少し話題を逸らされてしまった。

 まぁ結局白本人に聞くのが一番早いし、放課後にでも白の部屋に行けば分かるだろう。部屋が何所にあるかは知らないが、エリーゼは把握しているようだし。

 何故寮棟自体が違うのに、エリーゼが白の部屋の位置を特定出来ているのかは、聞かない方が身の為か。前に白の体に発信器とか付けてたしな。犯罪臭が物凄く漂うが、もう何も言うまい。

完全版UP完了……次回は来週にでも挙げられると思います。

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