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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
4章【堕天の黒翼~Black wings of a Fallen angel~】
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34『白肌の黒翼』【挿し絵】

「あたしは絶対反対よ!何で殺さないといけない相手を養わなきゃいけないの!」

「養うのは俺のお母様だ。あと耳元で騒ぐの止めろ鼓膜破れる」


 何故か妄想に浸り続けているエリーゼを舞佳に任せ、何とか寮の自室へ帰還した訳だが、時間は深夜。眠気を抑えつつ興奮状態の楓を宥める。猛犬を飼っている飼い主の苦労が身に染みて分かるな。騒がしさで隣部屋の生徒が目を覚まさなければ良いが。

 そんな俺の心配を気にも留めず、鋭い八重歯を隠さずに威嚇し続ける楓。

 こんな苦労負うならいっその事、エリーゼに一日中抱き付かれていた方がマシに思えてくる。いかん、疲労で自分を見失いつつあるな。


「とにかくだ、詳しい事は明日話すから、今日は――」

「ふぉ、フォンちゃん!服着なきゃダメだよ!」


 これ以上の面倒事になるのが目に見えているので、話を無理矢理区切り、凶暴化した楓を部屋に戻そうとした時に、背後から大慌ての灯火の声。

 最近遭遇し過ぎたお陰で、振り向かなくても気付く厄介事の気配。正直、何も無かった振りをして今直ぐ布団に潜り込みたい。防空壕に逃げ込む人々の知恵を利用して、危険地域から逃げ出したい。

 見ると先程まで怒り狂っていた楓まで、口元が目に見えて引き攣っている。

 教えてくれ、今俺の背後では何が勃発しているんだ。俺は面倒事に巻き込まれるのは御免だから絶対に見ないぞ。


『……熱いの、や』


 振り返るまいと決意していた脳に、直接響く澄んだ声。驚きで決心が呆気無く崩れ去り、反射的に振り向いてしまう。

 そして移動した視界が収めた物は、体を包んでいた鎧を消し、漆黒の大きな翼を縮めた、華奢で小柄な少女の姿。

 膝まで伸びている、光が当たれば解けてしまいそうな雪色の髪。その髪色に負けず劣らず色白な、まじりっけの無い美しい肌。黒羽と同じ位の小柄な背丈に、けだるい感じの朱色のジト目。全てが人形師によって精巧に製作された人形のようである。


挿絵(By みてみん)


「は、はだ……はだ!?」


 楓は動揺で舌が回っていないので説明すると、目の前の少女、全裸である。おまけに体を一切隠す気がないので、色々な部分が丸見えだ。上半身は既に視界に収めてしまったから仕方がないとして、下の方には視線を向けないでおこう。英国紳士も真っ青な配慮だ。

 しかし綺麗過ぎて全くいやらしい気持ちが湧かないな。もはや芸術の域まで達してる彼女の裸体は、絵画を鑑賞している気分にまでさせる。

 なるほど、芸術は素晴らしいな。ほぼ徹夜状態の眠気を完全に吹き飛ばしてくれる。芸術万歳。


「ばっ、バカ!何ジッと見てんのよ白!」

「し、白見ちゃダメだよ!ほらフォンちゃん、これ巻いて!」


 シャワー室から慌てて出て来たジャージ姿の灯火が、手に抱えたバスタオルを少女に手早く巻き付ける。実際には灯火が現れてからは音だけの推測だが、予測は的中しているだろう。

 その間、俺は楓に背後から抱きつかれて目隠しをされている。背中に当たる柔らかい弾力が心地良く、目隠しも良い塩梅だ。このまま寝入ってしまいたいな。本音を言うと眠気が絶頂に達し掛けているから早々に床に付きたいんだよ。


『……へくちっ』

「ほらフォンちゃん、早く髪乾かそうね。じゃないと風邪引いちゃうよ。白、ドライヤー借りても良いかな?」

「どうぞ御勝手に。置き場は分からないぞ」


 俺は髪の毛を雑に拭くだけで終わらせるから、全く文明の利器を行使しない。お陰で機器自体が何所にあるかも把握していないのだ。滅び行く地球を思っての節電だよ節電。決して面倒だからという簡単な理由じゃないんだ。


「えっと、この辺りに……あ、あったあった。見付けたよー」


 灯火達の部屋と物の配置は同じなのか、直ぐに目的の物を見付けて戻って来る灯火。

 楓は天人を毛嫌いしているようだし、灯火がいてくれて助かったな。年頃の無口で、しかも天人の少女なんて面倒見切れる気がしない。俺だと、あの長く綺麗な髪を乾かすのも乱雑に済ますだろう。


「こ、こら、逃げちゃダメだってば!」


 ただ、ドライヤーの耳障りな音と、逃げ回る足音を聞く限り、どちらが彼女にとって幸せかは判断出来かねる。追いかけっこは構わないが、せめて部屋の中は荒らし回さないでくれよ。それと深夜だから程々にしてくれると助かる。

 


 ◆ ◆

『ん……良い匂いがする』


 自身をサンダルフォンと名乗った、小柄な彼女の体型に見合う衣服を、この場に居合わせた誰もが所持していない。舞佳か黒羽に頼めば解決するとは思うが、生憎と二人ともいない。

 その場凌ぎの折衷案として、人類の宿敵である天人が俺の衣服を着用している。寸法が全く合わず、だらしなく伸びた袖。裾は太股を中間まで覆い、逆に艶かしい色白の脚を引き立たせている。

 Tシャツだけで済むのだから楽といえば楽だな。下着は無着用な訳だが、下手な事故が発生しない限り大事には至るまい。


「こら、嗅ぐんじゃない」


 服の襟を、匂いを確かめるように嗅ぐフォンを嗜める。生憎と俺は自分の体臭を嗅がれて良い気分のする特異趣向の持ち主ではない。

 匂い好きな性癖を持つ天人がいたりしたら嫌だな。人間を殺す敵だとしても、せめて清潔な天使像は保って欲しい物だ。戦場で仲間の血に塗れた天人ばかり見ている俺が言うのもなんだが。


『……ん、わかった』


 本当に理解してくれたのか凄く不安だ。別に嗅いでも害は無いから良いんだけどさ。


「ちょっと白。話は終わってないわよ」


 目の前の白髪少女に苦笑していると、怒涛の勢いで押し寄せる厄介事に次ぐ厄介事。骨折に加えて高熱で寝込み、やっと退院出来たと思いきや約一週間働き詰め。何もかも投げ捨てて眠るくらい許されても良くないか。

 そんな俺の儚き願いも、肩を破壊せんとばかりに力む手に却下される。現実は非情成り。


「アンタ、分かってる!? 天人よ天人!羽根の色とか違うし、鎧着てないけど天人なのよ!?」


 楓の言っている事は人間として至極当然の意見だ。突然向こうから殺しに来て、敵と言わずして何と言う。今も俺が抑えていなければ、興奮している楓は直ぐに少女へ向かって神葬具の牙を剥くだろう。

 だが、今の人間には戦力の次に不可欠な敵への情報が圧倒的に不足しているのが事実。

 どうやって天人は生まれるのか。どんな理由で神は人間を駆逐し始めたのか。そして、何故殺す対象である人間に、神葬具と言う武器を授けるのか。今挙げたのは極僅かで、天人に関する情報は殆どが謎に包まれている。こんな状態で神と戦い続けても、人間は無駄に消耗を続けるだけ。


『……どうか、した?』


 ならば敵である天人を味方に付け、知る限りの情報を流してくれた方が戦闘になるよりも万倍良い。被害は皆無で、こちらは喉から手が出るほど欲しい情報を得られる。

 彼女が、フォンが本当に神を裏切っていたら、の話だが。

 神の側近である十神階が、そうも簡単に主を裏切るだろうか。俺が神ならば、天人の裏切りを防ぐ為に首輪と同等の戒めを付与すると思う。それこそ、従者が己を裏切れば存在が掻き消える程の。


『――……ん?』


 だが目の前の少女は、神を裏切った負荷を微塵も感じさせない。フォンが俺達を欺こうとしているなら、負荷を全く見せない態度は逆に不自然じゃなかろうか。本気で騙すつもりだったら、手負いの演技くらいは見せそうだが。


「落ち着け。この子は敵意なんて出してないだろ」

「何で、何でそんな事言えるのよ……!アンタだって見て来たでしょ!? こいつ等に殺される人を!皆、死にたくなんて無かったのに、首を斬られて……目の前で子供を殺されて!」


 あの映画を観に出掛けた日の惨状を思い出しているのか、必死で震える声のまま問い掛けて来る楓。あんな公開処刑のような大量の死を目の前で見させられたんだ。その仇が眼前に居れば苛立ちが湧き上がるのも無理はない。

 白状すると、楓がこうなる前に部屋に帰したかった。せめてフォンが居ない状況で、尚且つ楓が冷静な時に、俺の考えも含めて全てを打ち明けるつもりだった。


「あぁ、見て来た」

 

 楓の訴えで、苦い記憶が蘇る。

 無残に虐殺された逃げ惑う人々に、目の前で手首だけを残して消失した仲間。最前線で何度も天人と交戦して来た俺は、死を間近で見過ぎた。楓が目視した何十倍も、それこそ感覚が麻痺する程。

 だけど、一人の友達を失って、沈んでた時に気付かされたんだ。人の死を悲しむ訳にはいかない。悲しめばその分、心に負担が残る。俺は、明日を戦い抜かなければいけない。


「だったら……何で、何でそんなに冷静でいられるのよ!殺したい相手が、目の前にいるのに……いるのに……ッ」


 今直ぐにでも、神葬具を展開しかねない様子の楓の両腕を掴む。

 楓の意見に賛同したくはある。だが目的の為に、今は自分の感情は捨て置くべきだ。思うだけじゃ、何も叶わない。本当に死んだ奴を思うなら、血が出るほど歯を食い縛って、耐え抜く事も必要なんだ。


「戦うだけじゃ、救えない物もあるんだ」


 俺の言葉に反論するように、楓が掴まれた腕を強く振り解く。


「アンタなら……アンタなら、分かってくれると思ってたのに……」

「白、フォンちゃんにご飯作って来て――うわっ!?」


 フォンの髪を乾かし終えた後、腹の虫が鳴ったフォンの為に夜食を作って帰って来た灯火と、飛び出した楓がぶつかり掛ける。人と衝突し掛けても咄嗟にお膳の上の料理を保護する灯火の反射能力は、学園での演習の賜物なのだろうか。

 駆けて行った楓の方向と、取り残された俺へ視線を右往左往させる灯火。先程までの雰囲気を消し去るような険悪な空気に、戸惑いを隠せていない様子。


「えっと……ど、どうかしたの?」


 お膳を手に戸惑う灯火を見て、俺は首を横に振る。

 人の説得ほど難しい事はない。天人の相手をしていた方が十倍は気が楽だ。死の危険は付き纏うが、余計な事を考えずに済む。


『んぁ……良い匂い……』


 そして事の発端である天人は、暢気に灯火の飯の匂いに釣られている。

 即席で料理したからか、お膳に乗っているのは手間が掛からない、美味そうに焼き目の付いた食パンと目玉焼きのみ。きっと生野菜のみを食していたフォンにとっては、匂いからして御馳走なんだろう。不憫な奴。


(あぁ、また面倒な事になったな……)

挿絵込みの完成版です…!

R15タグとか入りませんよね!?元々ついてますし!

さて、あおクマさんには無理を押して描いて頂き、本当に感謝しかございません

毎度毎度可愛いキャラをありがとうございます


そしてお気に入り登録が300行きました

皆様のお陰です。本当にありがとうございます

まだまだ続く神葬具をよろしくお願いします

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