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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
4章【堕天の黒翼~Black wings of a Fallen angel~】
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29『深夜校内探索』

 満月が映える夜の学校校舎前。

 校庭で一度集合と決定したんだが、集まった人員に胸騒ぎが止まらない。この腹の奥から込み上げる物を、一般的に不安と呼ぶんだろう。とにかく、先ずは言い付け通りに制服を着用して来た全員に、行き渡らせた物の確認。


「全員、懐中電灯は持ったか?」

「ふふ、白様の明かりはわたくしに任せて下さい。蒼く照らして見せますわ」

「予備電池を六本持って来てるぜ。これで幽霊の仕業かどうか分かるな」

「きっと懐中電灯が切れた瞬間にパニックになると思いますよ……?」


 俺も懐中電灯の光が消えた途端に舞佳が幽霊の仕業と早合点して予備電池を忘れて走り去るに一票。

 そもそもお前の所持してる単三電池は懐中電灯に使えないからな。電池を挿入する部分の大きさから見て、どう足掻いても単一電池。

 というかお前は肝試しに来た訳じゃなくて、噛んだ犯人をあぶり出す為に来たんだろうが。早速目的を見失ってるぞ、この先輩。先行きが不安過ぎて前が真っ暗だ。


「そういや灯火、楓は?」


 普段灯火と一緒にいる楓の姿がないので疑問を抱くと、制服の上に撫子色のセーターを着た灯火が苦笑いを浮かべる。


「もう寝ちゃってたから、起こすのが可哀想で……来たがってたんだけどね」


 俺が退院するまでの間、楓はずっと深夜に通って来ていた。俺の記憶にある限りで、病室であいつが眠るのは絶対に二時過ぎ。寝顔を見られるのが嫌だからと、朝は六時起き。体内時計と体調を一遍に崩しても不思議じゃない。

 灯火から聞いた話だと、楓は普段0時前には眠っているらしいし、かなり無茶をしていたに違いない。顔色が優れない時もあったから、きっと今は、やっと肩の荷が降りて爆睡中だろう。


「まぁ言っても校内巡回だ。無理して参加する必要ないし、寝かせといてやろうぜ」

「うん、白ならそう言ってくれるって思ってたよ。ありがと」


 入院期間引き延ばされたと言っても、看病して貰った恩がある。楓には心行くまで熟睡して頂こう。

 頬を桜色に染めて微笑む灯火を眺めていると、背後で「こほんっ」と誰かが咳き込む。振り返ると、少しばかり機嫌が悪化しているエリーゼの姿。口元を隠している所作から見て、彼女が咳き込んだのは間違いない。


「それと白様。言い付け通り、ダイゴロウは部屋に残して来ましたけど、意図は何ですの?わたくし、ダイゴロウに羽根の匂いを辿らせようと思ったのですけど」


 ここで一つ、寮にダイゴロウを残してくれと言ったのは、決して虐め等ではないと明言しておこう。留守番を任された当人は、今頃与えられた犬缶を満足気に食している。


「ダイゴロウには寮の周辺を見張ってて欲しかったんだよ。それに、ケルビンだって追跡くらいは出来るだろ?」

『任せてくだしゃい』


 本人は至って真面目に返答しているつもりだろうが、大福餅としか形容出来ない外見と、舌足らずのお陰で逆に不安を煽られた。エリーゼの頭の上で欠伸している点も、緊張感に欠ける。

 いやしかし、こいつとダイゴロウには窮地を救われた事実もある。性格さえ考慮しなければ、世界二位の神葬具使いに創造されたという折り紙付き。一旦戦闘形態に突入すれば下位の天人を寄せ付けない実力を所有。この説明だけ聞けば優秀な幻想獣だけで済む。

 俺だって二匹をエリーゼの従者と紹介された時は、何の冗談だと首を傾げた物だ。今では犬の方に名前を与えるまで慣れ親しんでいるけども。


「よし、そんじゃ二人一組クジ引きで――」

「おい待て舞佳(バカ)。お前完全に肝試し気分だな、遊びじゃないんだぞ」

「マカだって言ってるだろ、バカって言うな!っていうか頭鷲掴むな!噛まれた場所なんだよ!」


 何時作る暇があったのか、手に四本の紙切れを握り、意気揚々と肝試しに移行しようとしていた舞佳の小さな頭を鷲掴み。綺麗に額周辺の包帯の巻かれた箇所に触れるが気にしない。自業自得だ、諦めろ。

 大体、最初から二人一組にしようとは決めていた。仮に四人で一斉に突入したとしても、制限時間の制約もあり十分に見回れない事は火を見るよりも明らか。ならば人員を二つに別け、隅々まで見渡せるようにした方が好都合。


(ただ、俺の考えてた組み合わせだとエリーゼと舞佳なんだよな)


 振り分けを決定した理由としては、相部屋生だから互いに連携取れるだろう、という安直さ。そして俺自身、灯火といる方が精神衛生上、非常に楽なので。

 お化け屋敷に対して、はしゃぐ子供のお守り。もしくは貞操の危機が訪れかねない組み合わせ。俺には生憎と、どちらも選ぶ勇気は持ち合わせていない。本音を言わせて貰えば、本日の予定は打ち切りとしたい。

 現在進行形で後悔している最中。黒羽の頼みとはいえ、こんな事を引き受けるんじゃなかった。


『警報が機能してないとは考え難いけど、この羽根が存在しているのだから見過ごす事は出来ないわね。白、夜の見回りを頼めるかしら。わたしは学長室に篭って仕事を片付けてるから、何か起こったら神葬具を展開して知らせて頂戴。報酬は……そうね、久し振りに膝枕してあげましょうか?』


 俗に言う丸投げ。しかも報酬は義母の膝枕。黒ストッキングに包まれた脚を、軽く叩きながら言う黒羽に現物支給以上の物を見た。喜んで受け取ると人間として大切な物を失う気がしたので、問答無用で却下である。

 結局報酬は要熟考で落ち着いたが、それでも上位天人の件を放置とはいかない。現に頭を丸齧りされた犠牲者がいる訳だしな。本人は健在な上に、元気過ぎて腹が立つ程、活力に富んでいるけども。もう舞佳を餌にして犯人を誘き寄せるか、という案が浮かぶくらい。


「しゃぁない。班を組み直すから待ってろ」



 【野々宮 灯火SIDE】

「化学実験室は……異常無しみたいだね」

『一斑了解。んじゃ灯火、次は職員室周りを頼む――って、おい舞佳。勝手に先に行くんじゃない』


 月の光が窓辺から差し込んでいて、電気を付けなくとも中々明るい。教室内に、少しずつ空間を開けて連なった横机と廊下側の壁に鎮座した薬品だらけの棚。卓上に置かれたまま放置された試験管やフラスコを棚に戻しつつ、手の平に収まる小型の無線機で白に報告。

 無線機越しに活動している白と舞佳先輩も巡回は順調そうだ。舞佳先輩の先行し過ぎは気になるけど、白が相方なら問題ないだろう。


「盾剣使い、白様は何と?」


 僕の方の相方さんは名前すら呼んでくれないのですが、どう連携を取れば良いのでしょう。

 頭に熟睡状態の猫を乗せたアルフォート先輩は、白から無線機を託されなかった事が不満らしく、常時不機嫌で、その刺々しい雰囲気に僕は胃を痛め続けている。このままでは探索終了の時点で胃炎発症も夢ではない。

 元々、全くと言って良いほど面識が無い上に、白以外の人との会話に興味を示さない先輩。会話が成り立ちません。今話し掛けて来たのも結局は白絡みだし。


「えっと、次は職員室の周りを中心に探索して欲しいそうです」

「職員室……教職員が集まる場ですわね。案内願いますわ、盾剣使い」


 アルフォート先輩は転校してから日が浅いし、教室の配置を覚えて無くても当然だよね。

 この明星学園、寮や校舎、その他の施設を含めれば敷地が村一個分に匹敵している。地下迷宮の面積がこれに含まれてないのだから更に驚き。敷地内全てを見回るならば、丸一日は掛かる事だろう。

 ここまでで分かる通り、校舎も例に漏れず広く建造されている。天人襲撃時には続出する怪我人を搬入する為の医務室から、昼食時に機能する学内食堂も完備。おまけに調理実習室や雛壇式の広い教室。これを校舎が一手に引き受けているのだから、そりゃ大きくもなる。


「そ、そういえば、どうして僕は盾剣なんです?」


 舞佳先輩の時もそうだけど、アルフォート先輩は白以外の人を名前で呼ばない。大抵の場合、呼ぶ相手の使用している神葬具の事を指している。舞佳先輩ならば大剣で、楓なら脚鎧とか犬。後者は主に喧嘩最中に嫌味として。

 その流儀に習うなら、僕の呼称は円月輪(チャクラム)使いになるんじゃないかな。

 でも、先輩って僕の神葬具を見た事ないよね。駅前の襲撃時も、天人に察知されない様に神葬具は出してなかったし。自分で言うのも何だけど、そもそも円月輪は全然目立たないからね。楓の脚鎧とか、白の銃器みたいに派手なら別だけど。


「貴女の使ってる神葬具の事、ですわ」

「えっと、僕の神葬具は円月輪ですよ?」


 自身の武器の形状を伝えると、エリーゼ先輩は普段の余裕のある表情を若干崩す。


「あら……貴女の物を持つ癖と立ち振る舞い、神葬具は盾剣だと思っていましたわ。意外ですわね、まさか投擲系だなんて。盾剣でなくても、絶対に剣は握っているとばかり……」


 まさか所々の所作を観察して神葬具を割り当てていたとは。こちらの方が唖然となる。人の無意識の動きを記憶して癖だと見分ける観察眼なんて、努力だけでは手に入らないだろう。

 中位の神葬具の負荷に耐え、二体いる使い魔を常時呼び出し続ける精神力も、戦闘時に見せた動きも、比較的安全と言われている日本にいる限り到底手に入らない代物だ。今から僕が訓練して会得しようとしても、それこそ得られる可能性は、砂漠の中で砂金を発見する確立に限り無く近い。


「では改めて、こほんっ。行きますわよ、円月輪使い」

『ふぁぁぁぁぁ……姫しゃま、朝でしゅか~?』


 探索自体は中々締まり切らない班になっちゃったけど、アルフォート先輩から学べる事は多いし、僕は満足かな。

 そして、黒い羽根の持ち主を、早々に見つけなくちゃいけない。天人だから危険、という考えよりも、この羽根の持ち主に会いたいという願望が勝っている。淡く光る漆黒の羽根を見詰めていると、何故か懐かしい感じがして心が痛む。



(欲を言えば――――……白と一緒の班だったら嬉しかったかな……なんて)

間に合わせました加筆版……いやぁ、すごかったっすねぇ(文字的な意味で)

辛いが来て、痛いがきて、苦しいがきて、イキました

まぁ冗談はさておき、ちょこちょこ鍵を握るキャラが見え隠れ

書き手も面白いです、書いていて

次回は早めに更新できると良いなぁ…いつも言ってるな、これ

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