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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
3章【戸惑う心、光の剣~the puzzled heart/sword of light~】
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25『白の花畑、金色の髪の少女』

 辺り一面を埋め尽くすほど、乳白色の花弁を持つ花が咲き乱れている。白色の絵の具で塗り潰されたとしか形容出来ない光景に、息を呑む。

 宙を舞う花弁が顔の擦れ擦れを通過し、甘い香りが漂う。薄い雲から差し込む日差しも緩やかで、綺麗に咲き誇る花の恵みになっている。不思議とここは、気温に左右されず、一年中同じ光景を保ち続けている様に思えた。


『カレン、どうしてここに来たんだ?』


 体の融通が利かない。思考だけが動き、体や視界の動きは支配されている。

 俺は、そう、白=レッヂ。カレンなんて名前の奴は知らないし、こんな場所には心当たりも何も無い。口を動かし言葉を発している、この人物は誰なのだろうか。見れば身に着けている服装も、嫌に古臭い印象を受ける。

 そして、花の野原に座っている、俺の前に立つ人物。視界が捉えた、その姿に息を呑む。


『また来ちゃいけない、なんて聞いてなかったけど?』

『前の時も、歓迎はしてないがな。大体、どうやって君がここに来れているのか不思議だよ』


 この体の持ち主がカレンと呼んでいる人物。

 茶を主体にした膝まで覆う地味なチュニックに、花畑と同色の綺麗なエプロン。長く、風に揺れる金色の髪。腰に手を当てて、こちらを覗き込む仕草。吊り上がり気味の、強い意志を感じさせる瞳。

 エメラルドグリーンの瞳と服装だけを除けば、全てが俺の知っている少女と一致する。


『簡単だけど?ここの景色を思い浮かべて、また行きたいなって思ったら』

『普通はそんな事ではここに来れないんだがね』


 ここ、と言うのは花畑を指しているのだろうか。大体、景色を思い浮かべると来れる場所って何なんだ。俺はこんな景色、記憶に全然無いんだが。

 カレン、そう呼ばれている少女は微笑みつつ、俺の隣へ腰掛ける。

 近くで見ると更に似ているな。瓜二つとは正にこの事だ。同じ服装で、アイツと並んだら見分ける自信がない。複製かと言いたくなるほど似ている二人は、何か関係があるのか。いや、俺の夢ならば楓が出て来ても不思議じゃないが。


『良いじゃない、………トと、また会いたかったんだから』



 ◆ ◆

 変な夢を見た気がする。

 軽い眩暈を覚えながら視界を動かすと、周囲には乳白色に染め上げられていた光景とは一転して、薬臭い無機質な場所。見た感じからして、医療関係の所だろうか。

 掛けられている布団を退かしつつ、上半身を起こすと、鈍い頭痛の刺激で最悪の目覚ましの完成。痛みを訴えている体を見ると、包帯で巻き上げられた我が身。巻かれた包帯の所々に赤い染みがあり、このまま棺桶に収納されていても何ら不思議は無い。


「あら、起きた?」


 上手く状況が把握し切れていない時に、更に厄介な人物の声。

 見ると、俺が寝ているベッドの横で座り優雅に小説を読んでいた銀髪の少女が、栞を挟みながら俺に視線を向けている。黒タイツに包まれた脚を組み直す動作で、黒羽だと認識する俺は、息子としてどうなんだろう。

 意識が朦朧としている時に義母を見ると小学生にしか見えないな。黒羽自身に言うと地獄を体験する事になるから絶対に口には出さないが。


「黒羽……ここは何所だ?」

「学園の緊急治療室。まさか春に増築して直ぐに使う生徒が出るとは思わなかった」


 緊急治療室なんて物まであるのか、この学園。お世話になりたくない場所だが、至れり尽くせりだ。

 っていうか義母よ、お前が爪楊枝で刺して食している兎型の林檎って、俺の御見舞いの品ではなかろうか。こいつが自分で果物買って食べる事なんて滅多にないし。ほら、そんな事言ってると一匹がまた犠牲になる。息子の見舞いの品を無断で食べる母親って。


「あ、これ?買って来たんだけど、白が三日も寝たきりだったから食べといた。果物は足が早い」


 その起床した息子の前で食べ続けるか。無駄に腐らせるよりは万倍良いが、正に鬼畜の所業。


「今回は三日か……中々長かったな」

「あの剣、使ったでしょ?それと解放も。倒れるに決まってる」


 黒羽の言葉が正論過ぎて、反論の余地がない。

 緊急事態だから仕方なかった、とは言え、あの剣を出したままの解放は我ながら馬鹿だったな。もっと冷静な状態であれば、最悪剣を出したとしても解放は行わなかっただろう。もう後の祭りだが。


 銃器ではない″光りで覆われた剣″――――俺の本当の神葬具は、防御特化の剣で、体力と精神力を桁違いに消費する。比喩抜きに舞佳の解放の5倍は消耗しているに違いない。下位と中位の天人の攻撃を一遍に防ぎ切るとは言え、代償が寝たきり。

 原理は分からないが、創造可能な銃器を常時使用しているのは、この為である。

 銃器の方が、見返りは少ないが対価も少なくて済む。この場合、俺は体術も織り交ぜて戦闘に挑む事になるが、戦闘中に気を失うよりは遥かに良い。

 多分、俺の神葬具はエリーゼと同じ中位との刷り込みで創られた神葬具だ。記憶を失う前に刷り込みを行っていたから確かではないが、下位の神葬具に、ここまで対価を求める物はない。舞佳の大剣も、対価で言ったら相当だとは思うが。


 何故か逃げるのを躊躇う楓を見て、咄嗟に解放を唱えたんだよな。我ながら謎だが、あれで戦況が持ち直したのも事実。

 万が一あの状況で対物ライフルを創造したとしても、片手ではどうにもならなかった。片手で射撃可能な銃器の威力なんて高が知れている。拳銃を創造していたと仮定すれば、俺は死んでいるに違いない。

 そこでふと、一番被害が甚大な腕の部分を思い出す。あの激痛からして、複雑骨折でも違和感がないが――――、


「治ってる……?」


 あらん方向へ曲っていた腕が、本来の位置を保っている。それ処か、動かす事も可能。

 神経が生きている事は確認していたが、骨折していなかった、は確実にない。記憶に残っている限りでは、あの場で楓を庇い、出現陣から現れた下位の槍の穂先で骨は折れた筈。無論、人間の俺に再生能力なんて物はない。

 体中に刻まれた傷跡も、内部的な痛みはあれど、外傷は跡形も無く消失。これが人間の治癒能力由来ならば、自分の事ながら気味が悪い。


「結構大変だった。複雑骨折の右腕に、打ち身、擦り傷、切り傷、打撲、おまけに肋骨2本にヒビ。それに加えて三日間眠ったままになるほどの過労。流石に肝を冷やした」

「く、黒羽が手術したのか……?」


 その外見で医師免許は取れるのか疑問だ。いや、試験を受ければ医学部通りそうではあるけども。患者との面談では先ず初めに年齢確認から始まるに違いない。

 俺の問いに溜め息を吐く黒羽。三角口と常時半目の瞳が、呆れていますと顔に表している。

 そして、証拠を提示するように挙げられた右手。その手の中指に嵌められた漆黒の指輪。真ん中に、門の形の装飾があり、それは封印されているかのように鎖で雁字搦(がんじがら)め。趣味で身に着けているとしたら随分と悪趣味。


「もしわたしが手術出来たとして、あんな傷、二、三日で完治する筈ないでしょ。これの力」


 説明しようとして忘れていたな。黒羽の神葬具、つまり彼女の中指に嵌められている指輪の事を。

 俺の銃器を創り出せる光の剣も、エリーゼの蒼炎もかなり個性的ではあるが、黒羽の神葬具は異端と呼んでも差し支えない物だ。普通ならば戦闘用の代物である神葬具が、全く違う機能を所持している。


 黒羽に聞いた限りだと、先ず初めに想像召喚。自分で想像した物を具現化する能力。これは学園の迷宮探索に使われている、練習用天人を創り出している。他にも様々な事が実行可能らしいが、挙げると切りがない。

 次に、治癒。神葬具は元々、所有者の傷や体調の回復を少しばかり早める機能があるが、それとは全く違う。特筆すべき箇所は他者の傷を治せる点。ここだけで元来の神葬具とは別物と言える。俺以外に使用している所を見た事は無いのだが。

 前者、後者を含めて、黒羽の神葬具は一般的に呼ばれる魔法、という物が使用可能なのだ。

 神葬具って元々は天人の物だし、黒羽の指輪も有り得なくはない――とは思うが、魔法を使う天人なんて見た事無いんだよな。もしかして、天人が占領した地域が雪色に染まるのと何か関係があるんだろうか。


「これに興味があるの?」

「いんや、その神葬具も謎が多いと思ってな。普通の物とかなり違うだろ」

「アメリカに行く前から知ってるでしょ。あぁ、でも回復以外は見せてないか。機会も無かったし」


 指揮系統管理する黒羽が戦闘する機会なんて皆無だろうし、当然か。意気揚々と戦闘に参加する黒羽の姿なんて思い浮かばない。後方で不気味な笑みを浮かべて戦略練ってる方が合っているぞ。本人もそこは自覚しているだろう。


「まぁ、息子の体に何も無くて良かった。わたし、これから仕事があるから、ゆっくり休んでおきなさい」


 実の処、天人の事や剣の事について聞きたい事が山程あるんだが、黒羽も忙しそうだし、体が全快してからで良いか。あまり時間を取らすのも悪いし、何より睡眠欲が大群で押し寄せて来ている。もう直ぐ城門が破られてしまいそうだ。

 林檎の余りを近くのテーブルへ置き、「お大事に」と残して部屋を後にする黒羽。


「さてっと……寝るかな」


 黒羽を見送って、後は寝るだけ。

 体の回復に努めようとした時、部屋の外、廊下で騒がしく走る音が聞こえて来る。これが本当の病院ならば看護婦に叩き出されそうだ。確実に全力疾走だろ。


「白様!貴方のエリーゼ、やっと来る事が出来ましたわ!」

「おいエリーゼ!まだホームルーム終わって無いのに飛び出すな!わたしが教師に怒られた!」


 まだ安静に就寝出来ないのか。しかもこの二人は不味い。まだ楓と灯火ならば救いがあったのに、エリーゼと舞佳なんて、絶対に眠れないじゃないか。

 しかも、まだ俺が目を覚ました事を知らないのに、あのテンション。俺が起きていると知ったら、どんな風になるのやら。いっその事、寝た振りに移行するか。その方が安全な気がする。

前の加筆版です。ちと分かり難い箇所があったので修正。

説明長いなぁと思いつつもそこは弄くれないですね……申し訳ないです。

次回はもっと早く投稿できるといいなぁ、と思ってたり。

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