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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
3章【戸惑う心、光の剣~the puzzled heart/sword of light~】
23/44

22『戦う意味、光の剣』【挿し絵】

 【小波 楓SIDE】

 駅までの帰り道の途中、まだあたしは、レッヂと口を利けないでいた。

 俯き加減で後ろを付いて行っていた時に、それがふと目に留まる。横断歩道を隔てた向かい側の歩道で、身を縮め、顔を両手で覆っている少女。見える限り、少女の周りには、見て見ぬ振りをして横切る通行人のみ。迷子、なのだろうか。

 一緒にいたレッヂに一言声を掛け様としたが、どうやら余所見をしている内に逸れてしまったらしい。薄情な奴とも思ったが、あたしが無言で後ろを歩いていたのもあって、気付かなかったに違いない。

 気付くと、脚がその女の子の方へ向いていた。信号が青になったのを見て、時折通行人にぶつかりつつも、女の子へ近寄る。


「どうしたの?」


 あたしが屈んで話し掛けると、女の子が俯いていた顔を上げる。やっぱり泣いていたようで、四葉のクローバーの髪飾りが映える、可愛く整った顔が若干朱色に染まっていた。

 財布を収納している方とは反対側のポケットに手を突っ込み、灯火に持たせて貰った花柄のハンカチを取り出す。灯火が出掛け際にハンカチを手渡してくれなかったら、何で拭いてあげようか本気で困っていた所だ。


「人を探してて……どこにも見当たらないの」


 涙を頬に伝わせながら、しゃくり上げる少女。

 涙が溜まった目元を優しく拭き取り、女の子に笑みを見せる。こういう時は、子供の心細さを無くす為に、身近で接する人物が笑顔でなくてはいけない。心許せる相手だと分かると、子供も安心出来る。


「そっか、迷子になっちゃったんだ」


 この子が探している人と言うのは、やっぱり両親なんだろうと、自分の中で結論付ける。

 女の子の小さな頭に手を乗せると、緩やかに手を動かす。他人の頭を撫でるなんて何時以来だろう。

 迷子の子はくすぐったそうに目を細めて、少しずつしゃくりを緩めていく。心を許してくれてる証拠だと受け取って良いだろうか。以前同じ様な状況になって、灯火がやっていたのを手本に、見よう見真似で実行したのだが。


「ね、お姉ちゃんが一緒に探してあげようか?」


 逸れたレッヂの事もあるし、合流してから探そうとも考えたが、それだと女の子の不安感を更に煽ってしまう。もしかしたら迷子の母親を捜索中にレッヂと偶然再会出来るかも知れなし、この子と一緒に探し回るのが一番良い行動だと思う。

 あたしの提案に、落ち込んでいた女の子が期待を込めた視線を送って来る。


「いいの……?」

「任せときなさい、絶対に探し出してあげるから!」


 我ながら無責任だけど、これくらい大見得切っといた方が、この子も安心出来るだろう。

 さて、何時までも迷子の子じゃ変だし、自己紹介を兼ねて名前を訊きいておこうか。そう思い、女の子に問い掛けようとした時、突然周囲の人々がざわめき出す。中には、甲高い悲鳴も混じっていた。

 事故でも起きたかと思ったが、交通事故にしては騒がしい衝突音等が無い。


「でもね、お姉ちゃん。いいの、もう見付かったから」


 あたしの背後を指差して、少女が――――その年齢の物とは思えない残虐な笑みを浮かべ口にする。その頃には、もう周囲のざわつきは悲鳴や叫び声に変貌を遂げていた。その言葉の波の中で何度も響く、天人という言葉。

 意を決して振り向くと、直ぐ傍にある禍々しい気配を発する人一人分の文字円。今の地球上に、この存在に対して怯えを抱かない人間はいない。そう称されるのも納得する程の威圧感。それが、徐々に数を増していく。規模にして、学園襲撃時の二倍ほど、だろうか。


「結局、"あいつ"は見付からなかったけど……お姉ちゃんは同じ匂いがする。折角ここまで来たんだから、自分への手土産も一つくらい欲しいし……」


 迷子の少女が合図をするかのように、その華奢な腕を挙げると、現れたばかりの出現陣から続々と赤い翼を持った西洋甲冑が出現。各々に物々しい凶器を携え、一見、誰もが見惚れん美しい姿。今の世界中で、その姿を見て悲鳴を上げない者はいない。


「あんた……誰なの……?」


 目の前の出現陣から目が離せず、背後にいる少女へ視線を向けず問う。

 目の錯覚なら嬉しいが、この少女が指差した場所に出現陣が現れた。そして、声を掛けた当初とは打って変わった、とても外見通りとは思えない言葉遣い。


「この世界の救世主(メシア)だよ、人間」


 出現陣から現れた槍の穂先が迫る。その狙いは、確実にあたしに向かっていた。

 神葬具を呼び出そうにも遅い。普通の神葬具使いならば未だしも、あたしの神葬具には詠唱が必要。それに加え、魔法陣から発された狂気に口が震える。とても言葉を紡げる状態じゃない。

 咄嗟に動かそうにも脚が言う事を利かず、避ける事が出来ない。


「しろ……ッ!」


 祈るように口にするのは、灯火や両親でなく、会っては口喧嘩ばかりの男の名。無意識に口から出た男の名は、何故か口にすると暖かく、何かが変わるという想いを抱かせてくれた。



 ◆ ◆

「レッヂ!?」


 驚きの声を上げる楓を背に庇い、出現陣から突き出された槍を真正面から防ぐ。右腕から発せられた光の盾が、悲鳴を上げた。こうしてぶつかると理解出来る、天人の圧倒的な力。こんな貧弱な盾では、受け流す事も叶わない。

 即座に光が掻き消えた。それに伴った爆発と見紛う風圧に堪え切れず、右腕があらぬ方向へ捻じ曲がる。


「――――ッ!!」


 衝撃で体が浮き、後方へ吹き飛ばされる。

 背中に衝撃が走り、意識が遠ざかる感覚。微かに聞き取れた音から察するに、何処かの店のガラスを突き破ったのだろう。勢いは消えず、そのまま地面をボロ雑巾かのように転がる。

 体のそこ等中の傷から溢れ出た血が、体の転がった痕跡を残していた。

 朦朧とする意識の中、自分の状態を確認しようと目を開く。純白の光を纏った右腕を動かそうとするが、激痛が走るだけで動かす事も敵わない。流石にここまでの怪我だと、腕一本で済んだのが奇跡だな。


(指が動く……神経は生きてるか)


 武器を出す余裕が無く、この力で受け止めるしかなかったが、骨折程度で済んでる点から考えるに、出現陣から槍を突き出したのは下位の天人。もし中位からの攻撃だったのなら最悪、体丸ごと持って行かれていた結果も有り得る。

 力を振り絞り立ち上がろうとすると、体が堪え切れず嘔吐物が胃から逆流した。我慢せずに吐き出すと、コーヒーと少量の血が混雑している。胃液も混じっていたのか、喉が焼けるように熱い。


「はは……こんなにきついのは久々だ」


 ガラス片で裂けたのであろう頬の傷。そこから伝う血を舐め取り、コートの袖で口元を拭う。外見だけなら酷い有様だが、中身はそこまで傷付いてない様だ。受身を取ったのが効いたな。

 突っ込んだ場所の内部、小奇麗な内装から見るに、レストランか。進入経路は盛大に割れた窓ガラスが物語っている。損壊の請求は国に提出してくれ。

 しかし、ここまで酷い有様だと奥の手なんて言ってられないな。正直、右腕が使えない今の状態で、天人相手に銃器で戦うのは厳しい。使えたとしても威力の低い拳銃、短機関銃が精々。それならば尻尾巻いて逃げ出した方が懸命だ。


「あれを、使うしかないか」


 使うのは久方振りである。舞佳の双剣のように拗ねてたりしなければ良いが。

 痛む体を酷使し、歯を食い縛る。想像するは一本の剣。純白の光で包まれた、守る為の剣。



 【小波 楓SIDE】

「来なさい、神葬!分け隔てなく包み込む風をここに!」


 あたしを庇って吹き飛ばされたレッヂ。不幸中の幸いか、攻撃を繰り出したのは中位ではなく下位の天人。あの光で防いでいた様だし、中位からの攻撃じゃない分、まだ傷は浅いだろう。

 直ぐに駆け付けたいが、それを邪魔する様に動く四体の天人。外見から判断出来る限り、この内二体は中位。軍隊に配属された優秀な神葬具使いでも、二人組みで中位一体と互角に戦うのが精々。その中位二体に合わせて下位が二体。

 武器を出せたにも関わらず、時間稼ぎすら怪しく、もはや五分持たずに蒸発させられる状況。


(何なのよ!天人って知能が無い筈じゃないの!?)


 天人学から学んだ知識では、天人は上官に指示されて動く木偶人形当然の筈。なのに、今は知恵を得たかのように、あたしを取り囲む四体の天人。

 その他にも十数体に及ぶ天人が出現陣から現れ、逃げ惑う人々に猛威を振るっている。今こうして攻めあぐねてる間にも、何人もの命が散らされる。

 其処彼処が血で染まり、数分前まで賑わっていた都内の町並みが地獄絵図と化していた。

 下位が得物で女子供問わず人間を八つ裂きにし、中位が圧倒的な火力で建物を破壊。何人もの通行人がその下敷きに。今この瞬間だけで、何十人の命が奪われているのだろうか。


解放(アテンド)しても……この状況だと……)


 あたしを囲んでいる四体が、様子見をしているのか動かない。こちらから攻めたいが、解放して暴れ回っている最中に力尽きた、なんて目も当てられない。それも、中位が二体いる状況で。解放を行って戦ったとしても、形振り構わず真正面からぶつかれば、こちらが粉々になる。

 囲んでいる全部が全部、前衛型なのも絶望的だ。中位二体に至っては、両方が盾持ち。


「どうすれば……」


 躊躇していた最中、遠目で見えた光景。天人が逃げ惑う一人の子供を捕まえ、得物の剣で首を斬り落とした、それを見て自制の緒が外れる。


(構わない。力尽きる……上等。何があっても、こいつ等は、こいつ等だけは許さない。あたしの大切な人達を殺して、また他の命を目の前で奪う……こいつ等だけは……ッ!)


 屈んで脚鎧に触れて、迷わず制限を外そうとした時、あたしを囲んでいた一体の下位天人が音を立てて崩れ落ちる。中位の天人だけに注意を払っていたのもあって、その突然の大音に驚き脚鎧から手を離すと、そちらへ視線を移す。


「はは……こうしてお前を守るのは、二度目だな」


 右腕を力無く垂らし、倒れ込んだ天人を踏み付ける男。着ている黒コートは、下の服も同様に右腕部分が無くなり、他の箇所も酷く裂け千切れている。

 額から血を垂れ流しながら動いている姿は、狂気の沙汰。

 そして健在な左手が握っている武器。石で造られたかに見える刀身に、魅せる為に施された装飾。最も目を引くのが、その剣に纏わり付く純白の淡い光。レッヂが解放の時や、素手で敵を攻撃する際に使用していた光が、その武器を包み込んでいる。

 レッヂは傷だらけの姿で、得物を構える天人達から守るように、素早くあたしの前へ立つ。

 倒れそうで、体の至る所から血を流しながら、それでも頼もしく映る背中は、光の剣のせいだろうか。それとも、あたしの瞳が、レッヂをそう見せてるんだろうか。


挿絵(By みてみん)


「守ってやるよ、何度でもな」

最新話の改正版です。

随分修正入れた……え、ちょっとだけだろ?

見て頂いたらわかりますよ、えぇ。なんか主人公カッコよくなってますよ、えぇ。

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